8話 遊び心
「俺さ、前に住んでたところに戻りたい、っていう感情がまだ出ないんだよな。そりゃ、いきなりこんなところにきてまだ一日目だけどさ、誰がなんの目的でこんなところまで連れてきたのかわからない状態で、その理由すら聞かないで帰るのも悪いなーって思っちゃう」
「それに対して、わたしはどう答えたらいいでしょうか。気を失ってしまった理由を知りたい、みたいな感じですか?」
「いや、なんていうか……。俺が言うとあれだけど、俺がここに連れてこられたのはなにかしらの理由があると思うんだよな。俺にしかできないこととか、俺だからできること、みたいなものがあるんじゃないかと思って」
「そうですね……。カナルさんは何か得意なこととかあるんですか?」
「得意、っていうとピアノとゲーム。自信、っていうと筋力と体力だな」
「ピアノ、とはなんでしょうか。聞いたことがないですね」
「だいたい、俺の住んでたところで一番有名な楽器って感じだな。男が弾くとカッコいいと言われる、俺にとって自慢の一芸だよ」
「そうですか。なら、そのピアノが関係しているとかは?」
「ないない。そんな大袈裟なもんでもないし、俺だって中の上くらいの上手さしかない。俺より上手い人なんか腐るほどいたぞ」
「うーん、わかりませんね。ここに連れてこられたってことは、ここになにか関係あるもの、もしくは前のところで危険が迫って誰かが逃がした、この二択に絞られますよね」
「後者はないかな。俺の住むところにテレポートなんか存在しなかったし」
「となると、この森に関係あるのでしょうか。……分かりませんね」
「ま、こんなこといくら考えたって予測にしかならないんだ。いつか俺たちの前にそいつが現れるかもしれないしな」
「気長に待つ、って感じですね。わたし、それ大得意です」
「お前がそういうのはやめてくれよ……。1200年も待つなんて死んでもごめんだぜ。まあ死んでるんだが」
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「持ち物は、謎の結晶と男物の服。……マジでそんだけ?」
「です。念入りに服の中まで調べましたが、ほんとにそれだけしか出てきませんでした」
俺たちをストーカーしてきた者を捕まえ持ち物チェックをしたが、あんまりといえばあんまりなほどに何も持っていなかった。
未だ安らかに眠り続けるその姿に、もしかしてただの勘違いだった説が浮上してくる。
「いやいや、ないない。こいつ絶対確信犯だ。こんな路地裏で服すらまともじゃなかった俺たちをつけ回すなんて、物取りのすることじゃないだろ」
「独り言の途中すみませんが、この人どうしたらいいのでしょうか。カナルくんが捕まえてこいと言ったとはいえ、これ以上こんなところで寝かせておくのも良心が痛みますよ」
寝ている女に、俺が着ていたリアナの服を丸めて即席枕を作りながらリアナが言った。
「それに、この人わたしたちと無関係なんじゃないんですか? こんな路地裏にいるような人の格好じゃありませんが、フラフラと入ったってこともありますよ」
「いや、それでも俺たちをつけてくることはおかしい。こいつは何かを知っている、だからこうしてるんだ」
まだ確証した訳ではない。それでも、なんとなくだが感が訴えかけてくるのだ。
ーーこいつは俺たちと関係している、と。
「しかし、この結晶はなんなんだろうな。男の服は色々あるんだろうが、こっちの方はなんか使い方がわからん。それに、結晶の使い方とかわけわからんこと言ってしまえるくらいにこれはおかしい」
「いえ、それはただのアイテムです。その形は……おそらく転移形のものですね」
「アイテム? これが? 別にスイッチがある訳でもないのにどうやるんだよ」
「それはですね……ちょっと貸してください。えーっと……はい、あとはこれを投げつけるだけです。でも、やらないでくださいよ?」
「やるなと言われたらやりたくなるのが俺の精神だ」
「ほ、ほんとにやめてください。それこの人のやつですから。それに、転移系のやつは少々値が貼るので、弁償なんてとても……あっ!」
結晶を投げつけるふりをすると、想像通りにいい反応をしてくれた。
「やめてください、そんなこと! もしあれで手が離れちゃってたらどうするつもりだったんですか!」
「わかったわかった、もうしないから。それにほら、結晶は今俺の手の中……あれ?」
「あ、あそこです!」
いつのまにか、結晶は俺の手を離れてしまったようだ。それを察知したリアナが、一瞬の後に結晶を見つける。
リアナが指差すのは、周りに何もない空高く。俺は目があまり良くないため、目を細めながら結晶を探す。
「どこだ?」
「ほら、そこです! ……あ」
「どれだ? ……あ」
見つけた時にはもう遅く、結晶と同じ形の魔法陣のようなものが発生し、あたりが光る。
ーー転移が起きた。
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「ーーーー」
とある部屋、といってももう分かるだろう。
そこでは、一人の女性が静かに目を閉じていた。物音は一切なく、まるで違う世界にでも来たかのような雰囲気が漂っていた。
「ーーーー」
急に彼女は連絡用の通話機器を手に取り、とある場所へ連絡をかける。相手が出たと同時に、彼女はキリキリとした言葉で話し出した。
「失礼します。ーー国王様はおられますでしょうか」
今回の件、一筋縄で終わることはないだろう。もしかしたら、沢山の人を巻き込んでしまうのかもしれない。
ーー真っ赤に染まる太陽は、ゆっくりゆっくりと登っていった。




