計画実行
さて。怒ってはいるけど冷静にならなきゃいけないし、やる気モードになっている内に行動を起こさねば。
私は人質という立場だから今は殺されないということは、先ほどのやり取りで明確になった。
このことも冷静でいられる要因の1つになったので、安堵する。
幾らグレンが助けてくれると思ってても、その前に殺されちゃったらアウトだし。
勿論私もただ待ってるだけなんて性に合わないから、出来ることは全部するけどね!
ここから出るためには、マルダンさんの協力が不可欠だ。
そのためにはまずは彼の心配事を無くさないと。……それに私のせいで人質に取られてるなんて申し訳ないからね。
頭の中でザッと計画を立てる。
マルダンさんと2人きりの状態で接触を取り、なおかつ周りに怪しまれない様にしなければいけない。
私は周囲を見回した。
あの男が持ってきたランプの所為で目が明るさになれてしまったが、少し経つとまた暗闇に目が慣れてなんとか見える。
最初はランプ置いていこうよ、と思ったが逆にそれを利用させてもらうため、今はなくて正解。
それに天井の小さな天窓からも少し月明かりが差し込むようになったので、だいぶ助かった。
アレを探すために、音を経てないよう古びた棚を1つ1つ開けていく。
棚の上の装飾品も多いから慎重にしなければいけない。
何カ所目かの棚を開けると一式揃って置かれていた。
そう、私が探していたのは用紙とインクとペンのこの3つ。
あって本当に良かった。これがないと実行に移せないもんね。
けど、使えるかな?インクとか無理かもしれない……。
お情け程度の小さな机の上に置き、恐る恐る使えるかどうか試してみる。
おお~付いた。ちょっとインクがカピカピだけど、なんとか使えて良かった。
だいぶこの部屋使ってなかったみたいだったし、特にインクが使えるかどうか心配だったけど、なんとかギリギリ使えるようだ。
最悪インクが使えなかったら自分の血を使うしかないと思ってたから、本当に良かった。
私は用紙に必要なことをどんどんと書いていく。
これはマルダンさんとのやり取りで必要になっていくものだ。
あまり枚数もないから間違えない様にしないと。
暫くしてある程度書けたら今度は見つからない様にベッドの隅に隠す。
ただし、1枚だけ机の上に置いたままにしておく。
次に再度大げさな演技を開始する。
暗闇に怖がっているようにかつ扉の外に絶対誰かいるからその人に聞こえるように。
こんなに怖がってますよ~と教えてあげるのだ。
少し経ってから扉の向かって声を掛ける。
返事をするのがマルダンさんであって欲しいと願いながら。
「誰か……誰かいませんか?」
長い沈黙のあと返答があった。マルダンさんの声だ!
良かった。これで第一関門突破。
「すみません。蝋燭でも良いので部屋に持って来てくれませんか?暗くて怖いんです」
「……分かりました。少しお待ち下さい」
カツカツと足音がどんどん遠くなり聞こえなくなった。
返事をしたのが彼でも、部屋まで持って来てくれるのは彼とは限らない。
どれほどあの男にマルダンさんが信用されてるかによって変わるな。
私を連れて来たぐらいだし、信用されてるとは思うけど……もしあの若い文官さんが入って来たら泣いて怒ってヒステリックになって、なんとしてでもマルダンさんと交代させてやる!
そう思いながら扉の前に耳を当て、帰って来るのを待つ。
グレンみたいに気配を読めたら良いけど、私には出来ない。
だからこんな情けない恰好で待つしかないのだ。
暫くしてカツカツという足音の他にジャラジャラという金属音が聞こえる。
金属音はきっと部屋のカギだ。
さっきあの男が来た時もこの音がしたと思うけど、考え事に夢中で気づかなかったようだ。
急いでベッドに潜り、隙間から扉の方を見る。
入って来る人がマルダンさんでありますように!
扉をノックし、ガチャンと鍵が解除される音とともに男が入って来る。
「失礼致します。蝋燭をお持ちしました」
良し!マルダンさんだ。第二関門突破!
わざと少し震えている声で声を掛ける。
「暗くて怖いので、ベッドの横の机に置いて下さい」
「分かりました」
扉の閉まる音とコツコツと歩く音が部屋に響く。
隙間からマルダンさんしか入って来なかったことを確認する。ますます好都合だ。
あとはマルダンさんが机の上に置いてある用紙を見て合図してくれるのを待つだけ。
机の上に置いてある用紙の内容はこうだ。
『間違っていたら申し訳ないですが、人質を取られてますね。真実を教えて下さい。私はあなたのことを信用しています。これは嘘ではありません。これから私が言うことすることにすべて無言もしくは謝る言葉を使って、その場を通して下さい。その中で幾つか質問をします。YESなら首を縦に振って、NOなら首を横に振って下さい。私を信用しかつそれが出来る場合のみ、ランプを置く時2回音をさせて下さい。出来なければしなくて良いです。どちらの場合でもこの用紙は燃やして下さい』
足音は机の前で止まった。
今マルダンさんは用紙を見ているはず。
これを見て今何を思ってる?何を感じてる?
人質を取られ私に申し訳なく思ってても、信用されなければ意味がない。
だってマルダンさんが私の計画に加担したら、大切な人の命が危ない。
私がミスをしたら計画が無駄になり、加担したマルダンさん自身も危険だ。
それでも、私のことを信用して欲しい。
私はマルダンさんを信用しているし、恨んでなんかいない。
だって私もグレンを人質に取られたら……同じことをしてしまうと思う。
ううん、絶対にする。
だから気持ちが分かるなんてことは言えないけど、私の気持ちが少しでも伝わるように祈る。
少ししてランプが机に置かれた。
音は―――――2回し、用紙が燃える匂いがした。