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水仙に咲く彼岸花  作者: 雪村蓮
丸川ホテル編
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第9話

 ホテルのロビーで繰り広げられる戦闘の苛烈さには、民間人を相手にする警察官にも固唾を飲むものがある。

 琴吹が槍を巧みに操り紳士の邪蓮華の大鎌との衝突を繰り返していた。可愛らしい顔立ちに反して、槍を投げたり大立ち回りをし集中を逸させない。

 一方で朝凪と小金井は淑女の邪蓮華のガトリング攻撃を双方に分かれて攻撃を分散させている。朝凪が近接格闘術で各所に強い打撃を加えつつ刀振るう。小金井は小金井で襲いかかってくる蕾形態の邪蓮華をいなしながら核を狙い攻撃を繰り返していた。こちらの方は、二体一ということもあり、着実にダメージを蓄積させていた。


「全く、いくら潰しても潰しても消えん!」


 八神の方は邪蓮華を生み出す巨大な邪蓮華に近づこうにも泥から湧いて出てくる蕾形態の邪蓮華に阻まれていた。

 本体に近づけないように母体をまもるため、邪蓮華も邪魔をしている。

 斬っても斬っても泥から生まれる邪蓮華に八神は腹が立っていた。


「第一、体が泥なせいで核がどこかすらもわからないな……ふぅ」


 ひとまず距離を取るべきだと判断した八神が後ろに飛び上がり既に崩壊している銅像の台座へと着地する。


 追跡してくる邪蓮華たちを一瞥し、顔を上げる。

 核がわからないのならしらみ潰しに攻撃を喰らわせればいいだけだ。八神は一度刀を鞘に収め、息を整えた。


「……大丈夫。私でも出来るはずだ」


 まっすぐ敵を見据えた八神は柄を握り、台座を蹴り上げた。次いで二歩目に邪蓮華を踏み台にし、巨大な邪蓮華に向かって刀を振るう。背後に回るように泥を切り裂くと皮膚が裂けるのと同じように泥が溢れてくる。


「ウウウゥゥ、ゥゥ」


 痛みに悶えるように体を激しく揺らした巨大な邪蓮華の腕を躱し、二度目の攻撃へと移った。鞘を暴れる腕に投げ上げ、そこに目掛けて跳躍をし、鞘を足場にして飛び上がる。身を翻しながら体を宙で回転させながら切り付けると鋒が何かにぶつかる感覚を手に感じた八神は不敵な笑みを浮かべつつ、邪蓮華の頭部を踏みつけながら、非常口の誘導灯に手をかける。


「すまんな、すぐに眠ってもらうぞ」


 声をあげ、前屈みになる邪蓮華の図体の中心部分。普段の邪蓮華よりも低い位置にある核に狙いを定め、八神は最後の攻撃を繰り出す。

 邪蓮華の隙間に飛び降りた八神は今まで以上に踏み込みを入れ飛びかかった。

 刀を回し躊躇いも見せず邪蓮華の泥の中へと飛び込む。


 巨大な邪蓮華は悲痛な叫びをロビーに轟かせ、爆ぜた。


 体に見合った大きな核を真っ二つに斬った八神が泥の中から飛び出た瞬間、下にいた紳士の邪蓮華と目が合う。

 琴吹はその動揺を決して見逃さない。


「ぐっがッ」


 腹部目掛けて槍を投げ、大鎌を蹴り飛ばす。

 そのまま体を一回転させた琴吹は肩部分の足をのせ、忍ばせていた拳銃で核目掛けて銃弾を五発打ち込む。連発された銃弾は核を破壊するのには十分な数であった。


「ひ、きょう、ですね」

「ごめんねー。でも使えるものは使わないと、でしょ?」


 既に空っぽとなった拳銃が地面へと落ちるのと同時に、紳士の邪蓮華が消滅する。

 琴吹はにっこりと笑ってやったが、既にそこにいない邪蓮華がその悪魔のような笑みを最後に認識することはなかった。


 

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