第10話
視界の端で二体の厄介な邪蓮華の討伐を確認した朝凪は表には出さないものの歓喜していた。
小金井も驚いた表情で二人の方を一瞥したが、すぐに視線を淑女の邪蓮華へと移した、
(明らかに動揺している。凶暴になってしまう前に殺さなくては)
くびれの部分に蹴りを入れると、先程までより簡単に吹っ飛んだ淑女の邪蓮華が壁へと衝突する。
小金井が追撃し、壁に追いやられた淑女の邪蓮華が上半身を起こそうとするが腕部分をどちらもを切断した。
「キィぃいいッ……いや、いやよ、いや……貴方、ねぇ貴方どこにいるのッ」
「もういねぇよ。あんたのパートナーは」
「いやよそんなわけない。だって、だってワタクシたちはずっと一緒にいるのいるべきなのいなきゃいけないのッ」
ヒステリックに叫び始める淑女の邪蓮華を、小金井は自分でも恐ろしいほど冷めた感情で見下ろしていた。
ギリギリと化け物と対峙したかのような態度で、半狂乱となる淑女の邪蓮華の足部分を切断する。徐々に殺されるという実感が湧いたのか、淑女の邪蓮華は弱々しい態度となった。
「ねぇ、いや、いやよ。ワタクシたちはただ甘い蜜の匂いがしたから来ただけなの、ねぇ、ねぇ……いや、いやいやいやいやいやぁあああああああ」
首部分を切先でなぞると泥がコポコポとあふれだし、花が枯れていく。
「いや、どこ、くらい、まっくら、ねぇあなたどこ?どこにいるの」
二十五年間。
走馬灯が小金井の脳裏を過ぎる。
思えば後悔ばかりの人生だったと思う。友との訣別に、大事な仲間の死。
皮肉な話だ。邪蓮華のせいで失ったものが、邪蓮華がいなければ出会うはずのなかった人たちなのだから。
「……せいぜい地獄でパートナーと踊ってろ」
核に狙いを定め刀を下ろす。
あまりにも呆気ない復讐の終幕を迎えた小金井は脳がやけにクリアとなるのがわかった。
「小金井さん」
「……ん、ああ。どうした」
「殺しましたね」
「……ああ」
「誰も死んでいません」
「……そうだな」
「よかったですか?」
小金井が顔をあげ、朝凪の目を見る。
苗字の通り、朝凪を彷彿とさせる静かな瞳が小金井を見下ろしていた。
表情に変化は見られないが、朝凪と出会って少し。ずっとこの顔なので今更何も思わない。
「ああ、やっと墓参りに行けるかもな」
「それならよかったです」
小金井はその時みた朝凪の表情に、思わず笑ってしまった。
【報告書】
二千百三十五年 四月二十八日木曜日。
担当部隊名:生徒会執行部
氏名:朝凪朝緋
件名:21350429 馬酔木市鈴蘭町鈴蘭メゾン→ 21350429 馬酔木市丸川ホテルでの開花形態邪蓮華討伐
要旨:鈴蘭メゾンから丸川ホテルへの邪蓮華の移動による現場変更。それに伴う行方不明者の学生の保護と協力者の処遇について
報告書を提出して数日後。
「あの小金井という男、功績が認められ釈放されたらしいぞ」
電車のホームにて八神から挨拶の次にかけられた言葉に、朝凪は顔を八神の方へと向けた。
背筋を伸ばし、変わらない凛とした佇まいの八神はホームの向こう側を見るだけで朝凪に視線を寄越さない。
小金井策羅の処遇は、長期に渡る不法占拠ということもあり一度警察の方に渡ることになった。しかし彼の二十五年間外へ邪蓮華を外へと出さなかった実績と、邪蓮華の開花の討伐の功績も相まって釈放。
鈴蘭メゾンも丸川ホテルも解体の方向で無事進んでおり、一件落着と言えよう。
「それならよかったよ」
「今は南雲巡査部長の家にいるみたいだ」
「へぇ」
「今度一緒に生徒会の人たちと食事でもと誘われたが、どうする朝凪」
「それは、是非。にしても随分詳しいね」
「今朝のランニング中に二人と会ったんだ。小金井さんだと最初わからなかったぞ」
八神の言う話では、すっかり風貌がホームレスから一般人へと様替わりした様子だ。
(ちゃんと前に進めているならよかった……)
電車が停車し、音を立てながら扉を開ける。
扉から出てきた女性に、朝凪が視線を向けると一瞬だけ目が合う。しかし女性はすぐさま逸らし、カツカツとヒールの音を立てながら改札方面に向かっていった。
「燕さん。まってくださいよー」
「早くしろ鷹岡」
鷹岡と呼ばれた男性がスーツケースを転がしながら追いかける。
エスカレーターに乗って行った二人に顔を向けた朝凪に、疑問を持った八神が尋ねてくるので、朝凪は首を横に振った。
(振り回す系美人と尽くすわんこ系青年か……?あれでわんこ系が年上だったらやばいな)
年齢差のわからない男女二人組に萌えている朝凪のことなど露知らず、八神は訝しげに朝凪を見ていた。




