第3話
「確認を取ったところ、確かに一名登校していない生徒がいるそうだ。聞き取りをし、状況がわかり次第連絡を折り返すとの事。少しだけ待っていてくれるか」
梅宮先生からの返答に、朝凪は首を縦に振る。
「その間に読むからちょうだい」
「ああ……にしても心霊スポットに何故行くんだ。倒壊する可能性だって無きにしも非ずなんだし、普通は行かないだろう」
「そういった常識よりも、スリルを求めるんだろう」
八神は学生達の行動が理解出来ない様子だ。
少々優等生気質な八神からすれば、学生達の行動理由は察する事が出来ない理解不明な行為だろう。
「スリルを求めるならもっと日常で出来る事にすればいいものの」
「そうだな」
「貴様はスリルと無縁そうだな」
「そうでも無い。常に緊張と興奮の狭間にいる」
(オタクだとバレないようにこっちも必死だしな)
オタクが世間一般的に受け入れられるようになったとしても、大なり小なり生き辛さは抱える。
自分が異常だと自覚している朝凪は遠い目で窓の外を眺めた。
もしバレでもしたらヒソヒソと指を刺され、あそこの息子さんはと父親に迷惑を掛ける恐れがある。なにより、バレた事により警戒され妄想しにくくなったらどうすればいいのだ。
己の欲望の為に、己が我慢する。
それが朝凪朝緋の流儀であった。
「問題点は見られない。梅宮先生、確認をお願いします」
「お、ありがとな」
梅宮先生は書類を受け取り、確認の為に眼鏡を掛ける。
(は〜、書類仕事する時に眼鏡を掛ける男はメロいだろ)
目の下の皺も相まって年相応の色香があり、これで程よく鍛えられている身体で愛妻家なのだから、何処までもズルい男である。
ガチ恋している女子生徒はいるが、毎年そうそう始まる授業中の惚気により早々と失恋していくのは最早風物詩だ。
「ん!問題ないな。こっちで処理しておくから——、お?」
固定電話が鳴り、梅宮先生がすぐさま手を伸ばした。
対応を始めた梅宮先生から一歩離れた八神に釣られて朝凪も後ろへ下がる。
「黄昏学園からは誰が選出されるんだろうな」
「生徒会長は確定だろう。去年の姉妹校交流会では、ウチに勝った選抜選手の一人だ」
「生徒会長……」
(中々に良い男だった。彼女は居そうなスペックだったが、そんな素振りは無かったんだよな)
学内交流会にて青葉元会長に勝利した朝凪は昨年選出され、西都にある黄昏学園での姉妹校交流会に参加した。
当時二年生であった生徒会長の実力は映像で見返したが近接術、剣術共にレベルが高く、何よりも顔が良かった。
朝凪の顔立ちが救国顔というなら、黄昏学園の生徒会長は継承顔と区別される。爽やかで女性受けのよい気品のある顔立ちに加えてあの高スペックだ。
青葉元会長が彼女に会わせたくないと言うだけある男で、その盛り具合には朝凪も感服した。
「生徒会長って、あの九条であってるよな?」
「ああ九条一鶴。去年三人斬りした夕顔流の使い手……もしかして知り合いか?」
「いや……まぁ。知り合いでは、ある」
朝凪は唇を開きかけ慌てて閉じる。
そのまま頬に力を入れて拳を握った。頬の内側の肉を噛み締め、朝凪は瞼を閉じて心を休める。
(知り合いで目を逸らすのなんて、何かあると言ってるのと一緒じゃないのか?)
休める暇などある訳がなかった。
婉曲表現を深読みしまくり自分達に都合の良いように解釈をするのがこのオタク、朝凪朝緋である。厄介な事にこの系統のオタクはそう珍しくない。
「はい、わかりました。ありがとうございます。それでは失礼いたします」
タイミングよく会話を終えた梅宮先生に朝凪は視線を戻す。出来るだけ机の上に置いてある写真立てに目をやらないように、真っ直ぐと目を梅宮先生と合わせる。
「すまんが生徒会執行部には今すぐ任務に行ってもらう。予想通り、学生があそこに置き去りにされてたみたいだ。邪蓮華の討伐と同時に、学生の保護。警察にはこちらから連絡を回しておくから。タクシー呼ぶからその間に準備してきな」
「はい!いくぞ朝凪」
「ああ」




