↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水仙に咲く彼岸花  作者: 雪村蓮
丸川ホテル編
PR
2/32

第2話

 朝凪の活躍は、朝っぱらから話題の種となった。

 職員室に朝の邪蓮華の報告に行けば褒められ、廊下を歩けば憧憬の眼差しで見られる。

 朝凪朝緋とはそういう男だ。

 

 己の為にやった事でも周囲からヨイショされ、過剰に賞賛される。それは朝凪という男が好感を持たれやすい容貌を持ち合わせていることと、彼が鼻につくような性格をしていないからであった。

 周囲からの朝凪を評価するとなれば簡単だ。

 誠実でストイック。驕る事なく、努力を重ねる天才である。

 故に、天才生徒会長の肩書きを持つ朝凪は多くの人から高嶺の花、天上人という扱いを受けていた。


「おはよう朝緋。朝から大活躍みたいだったんじゃん」

「宵、おはよう。弟は送れたのか?」

「ん、大丈夫ぶい。今日はグズらずに別れたよ」

「お前が大丈夫じゃなさそうだな」


 望月宵(モチヅイヨイ)はブイサインをしたかとおもえば、机に項垂れる。

 有明と同じく朝凪の幼馴染であり、男子にしては小柄な望月にはそれはそれは可愛い弟がいる。まだ保育園で遊び盛りな男の子であり、望月曰く「天使」だ。


「星河がさ、好きな子できたからおにいに会わせたくないんだって」


 足早にクラスへと入っていく弟を思い出したのか、いつにも増して宵の存在感が萎れていく。小柄なせいで視界から消え、衝突する事もあるので存在感だけは消さないで欲しい。


「そうか」

「もし萌えを見出そうものなら殺すからな」

「安心しろ。ブラコン持ちとシスコン持ちには手を出さない」

「その調子で萌えるなら二次元だけに留めておけよ節操なし」

「それは無理だな」


 望月宵。オタクではあるものの、二次元にのみ萌えを感じるタイプの百合好きである。

 一方でもう一人の幼馴染である有明真日流も同じくオタクであり、血筋なのか生粋の腐男子である。しかし顔が良い所にしか反応を示さず、また身近な人物を対象にするのは、と意識的に遠ざけている節度のあるオタクだ。


「帰りは俺行くけど、やだって言われたらどうしよう」

「前それで思い出し泣きしてたな」

「俺の星河……」

「加害性に発展させるなよブラコン」

「大事に大事に育てるが」


 兄を持っている朝凪ではあるが、ここまでのブラコンでは相互ともなく、割と朝凪がオタク的な意味で拗らせているだけであり健全な関係性を保っている。


 正味、兄と義姉が結婚する時誰よりも喜んだ側に立つ朝凪からすれば望月の気持ちは理解できなかった。


「し、失礼します。朝凪くんはいらっしゃいますか?」


 二人の会話が第三者の呼び掛けにより止まる。教室の視線がドアの方へと向けられ、女子生徒が肩を跳ねさせた。

 視線を泳がせる女子生徒は朝凪を見つけると、顔を強ばらせながらも手招きをする。

 朝凪も大人しく、教室の外へと足を運んだ。


「おはようございます朝凪くん」

「おはよう桃園」


 桜の髪留めが印象的な女子生徒は生徒会書記の桃園飛鳥である。

 同級生の中でも小柄だが、戦略を立てる事と狙撃の腕ならば上位に食い込む実力者だ。

 どうにも身長差があり過ぎるせいか、桃園は朝凪に対して恐怖心を若干抱いている。


「あの、紗羅ちゃんから聞いていると思いますが今日の放課後に任務の受注が入りましたので、HRが終わり次第校門前に来てください。端末に情報共有はしましたので、確認と分からないことがあれば、その連絡ください。それでは失礼しました」


 桃園が一礼するとそそくさと朝凪と距離を取り、クラスへと戻っていく。


 (相変わらず嫌われているな)


 桃園の対応を対して気に留めず自分の席へと朝凪が戻れば、ニヤニヤとした望月がグミに手を付けていた。最近出た新商品のドラゴンフルーツ味に、朝凪は眉を顰める。


「食べる?」

「いや、いい。不味そう」

「失礼だな。味あんましないけど食べられない事はない」

「どっちが失礼なんだ」


 椅子に腰を掛けた朝凪がスマホを開き、アプリを開く。生徒会執行部だけが入れる共有ファイルへと飛べば日付の書かれたPDFがNewアイコンと共に追加されていた。


 【21350429 馬酔木市鈴蘭町鈴蘭メゾン】


「……建て壊しになるアパートか。随分と危ない場所に」


 建築物の情報、地図とルート。アクションを起こすアイコンも相まって動きが分かりやすい。

 今回の依頼主は大家で、解体をしたいがどうやら邪蓮華が住み着いてしまい工事に着手出来ない状況だ。築年数も中々で、周辺の建物も廃ビルと化しており、肝試しスポットとして周辺の名は知れている。


 良からぬ輩がたむろしているという噂や、ホームレスが住んでいるという噂もあったはずだ。


 (放課後に入ったということは邪蓮華は外に出ていないのか?)


 開花形態という事は間違いないだろうと、朝凪は端末の隅から隅まで読み込みながら判断する。


「……ん?」


 付近の防犯カメラ映像に学生と思わしき背格好の集団が何度も出入りしている時間が複数あった。主に夜、八時以降に往復している姿が見られる。

 昼頃になると、身なりを整えていない男性が出ていって、時間は疎らだが戻ってくる。

 

「こっちはホームレスっぽいが、学生の方はなんだ?」


 二日前の防犯映像を確認すると、軽装で入り込んでいく六人組の学生の姿があった。手にあるスマホはライトで周辺を照らしており、周辺を観察するように上下左右に光が動いている。

 それから三十分ほどで走って逃げていく学生達の姿が確認出来た。


「……ん?」


 違和感を感じた朝凪が防犯カメラの映像を巻き戻す。


「一、二、三、四、五……一人いない」


 朝凪は眉間に皺を寄せながら、防犯カメラを繰り返し見返す。画質の粗さにより顔までは判別出来ないが、桃園に頼めば解析は可能だろう。

 学生の特定をすぐさまやって貰う必要がある。


 朝凪は桃園に連絡を入れ、馬酔木市の地図を確認した。


(付近にある高校は、ここか。制服も学ランだが、肝心の校章が見えないから確定は出来ないな)


 馬酔木市にある公立高校のホームページにアクセスしながら、朝凪は唇に指を添える。


「なにか、考え事か朝緋?」

「少しな」


 出入りで違う学生の人数。

 少し時間を飛ばしてみても誰かが出ていく姿は無く、二日以降の映像になる。その間の出入りは無かった。


(ホームレスと思わしき人間の姿も無い。別の経路から出たか、それとも)


 朝凪の脳裏に嫌な想像が過ぎるが、事実邪蓮華が発生している事態が起きている為否定はしきれない。


「宵、質問いいか」

「ん?どうしたん」

「馬酔木市に心霊スポットはあるか?」

「えー、どうだろ。心霊スポット……ん、あ!あるある三箇所くらいあった気がする。ちょいまち調べるから」

「教えてくれ」


 地図を見せてみれば、スマホと対峙しながらポンポンと画面を押していく。

 望月が目印を付けた場所には、案の定今回の任務があるアパートの付近の廃ビルが心霊スポットとなっている事が判明した。

 持つべきものは情報通な友人だ。


「ここね、昔ビジホだったらしいけど、邪蓮華の事件が起きたせいで人が来なくなったみたい。それで付近の建物にも人が近付いて来なくなっちゃってテナントに入ることも壊される事もないらしいぜ」


 流石の情報だ。

 サクッと調べあげた望月が、当時の事件の記事を朝凪に提示する。


 【丸川ホテル殺戮事件】

 被害者は三十名に及ぶ邪蓮華による事件はおよそ二十五年前にまで遡る。

 当時要人の警備に着いていた黄金水仙隊七人、内六名殉職。従業員二十名と客四名が死亡し、十名弱の軽傷者が搬送された。


「結果的に邪蓮華は逃走して、行方知れず。その後責任とって黄金水仙の一人は退職しているし、ホテルも営業終了。それでも邪蓮華がいつ来るか分からない不安に煽られ建物を解体出来ず、まーよくある流れだな」


 望月の話に朝凪は頷く。

 邪蓮華が誕生して以降、日本においてそれほど珍しくない事象である。


「ありがとう。丁度桃園からも返信が来た。職員室に行ってくる」

「ん〜、いいよ」


 ドラゴンフルーツ味のグミを二つ同時に口に含んだ望月を冷めた目で見下ろし、朝凪は職員室へと足早に向かう。


「八神」

「朝凪、ちょうどいい。朝言った書類を渡そうと」

「一緒に職員室に来てくれ。今日の任務の事で打ち合わせしたい」

「いいが、今からか?そろそろホームルームが始まる時間だぞ?」

「もしかしたら任務の時間が前倒しになるかもしれない」


 廊下ですれ違った八神が慌てた様子で朝凪の後をついて行く。

 ろくに説明をしない朝凪に文句を言いながらも、律儀に着いていく八神。


 暁天学園では、そう珍しくもない光景であった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。