第28話
「朝凪、どう見る」
モール爆破事件の翌日。
朝一で生徒会室にて報告書を纏めている八神に問いかけられ、朝凪は動きを静止した。瞬きをした後動きを再開した朝凪はリュックを地面に置いて席に着く。
「今回の爆破事件の事?」
「嗚呼」
「恐らくだけど、俺たちを狙った攻撃なのは確かだろう。黄金水仙隊なんて、警察組織よりもまず潰したい所だろうしね」
今や自警団時代の面影を残さない程強力な組織となった黄金水仙隊。
海外からの武器輸入は禁止する制度をしくことで、武器の製造源を明確にした黄金水仙隊の功績は意外と大きい。
邪蓮華の誕生により移民率が全盛期よりも低下し、海外からの観光客も同時に低下した。その中には観光客のフリをして勢力をまそうと餌を巻く者もいる。そういう者達に対しても処分が公的に課せるようになったのも大きな要因だ。
黄金水仙隊の初代統帥、一条椿は外国人との共生は目指しながらも共存はしないというポリシーであった。移民の受け入れを減らす事に当時は人権無視や人種差別という声も高々に挙がったが時の権力者とは恐ろしいものだ。
国内外の犯罪者問わず処分する自警団の域を越えた行為に恐れを直したグレーゾーンの者は仕方なく拠点を足早に移した。
正義に生きた人間といえば聞こえがいいが、結局の所自身の正義を正当化し多くの人間と邪蓮華を殺した男とも言える。
そういう経緯もあって黄金水仙隊は犯罪組織に狙われるリスクがある。
何も珍しい事では無いが、爆破事件に巻き込まれる事は早々無い。上は事態を重く見ているようで、現在黄昏学園の選抜組を返す為に護衛を付ける方向で話が纏まっている。
「黄金水仙隊が解体されれば、必然的に暁天と黄昏も潰せるしな。邪蓮華の被害を止める為にまた自警団が編成されるだろうが、日本の治安がまた悪化の一途を辿るだろう……嫌だな」
「今回の事件、結構マスコミに取り上げられてるしね」
朝凪がニュースサイトを確認すれば、コメント欄に罵詈雑言は勿論批判的な意見も多く見られる。
公的に武器を持つ事が許可される黄金水仙隊も、その傘下とも言える暁天学園と黄昏学園にはそう言う話が定期的に上がる。
武器を持った人間に襲われるのではないかという恐怖心、同じ生命体を簡単に殺す倫理観、正義の道から少しでも外れれば誰であろうと叩く集団心理の恐ろしさとはかくもたるや。
「恐らく昨日の別所で起きた爆破事件も関係しているかも」
「昨日の爆破事件——松園橋のか?」
「それだけじゃなくて、躑躅区の倉庫爆発も」
「……ああ!花桜倉庫は武器の運搬会社があるな。それでいうなら払暁タワーの付近には鍛刀場もあったはずだ」
「そうなんだ。ニュースではそっちの方は流れていないから分からないけど、死体の身元が判明すればいいんだけど」
「犯人の狙いは日本で製造する武器の減産と、黄金水仙隊の解体か———いささか大きく考え過ぎじゃないのか?偶然という可能性も無きにしも非ずだ。そもそも同一犯かもわからない」
嫌なピースばかりが揃ってしまう。
朝凪も八神も難しい顔をして手を止めた。こういう嫌な事件が多発していると嫌な想像ばかりできてしまう。
(——はぁ)
目下朝凪の悩みはそれだけではなかった。
昨日の八神へ湧き上がった謎の感情と九条と八神の関係性に対する萌え。ぶつかり合いすぎてビックバンを起こした朝凪は、昨晩あまり寝付けなかった。
(というか、人間として好意的には見ていたのは確かだけど、なんだろ。なんとなく納得出来ないモヤモヤがあるんだよな……それはそれとして九条先輩と八神さんの関係性がどう動くかも気になる。連絡とか取ってるのかな)
昨日事件に巻き込まれたにも関わらず平常運転だ。
ある意味日常生活を謳歌している朝凪らしいといえば朝凪らしい。ポーカーフェイスも健在であり、八神も事件について考察していると勘違いもされている。
「それより事情聴取今日の放課後だけど、八神さんも?」
「ああ。一ノ瀬たちもそうみたいだな」
「一ノ瀬……」
「朝一で連絡が来た。午前と午後で分けるらしい。あっちは護衛が着くらしいぞ」
一ノ瀬の戦闘好きっぷりには朝凪は苦手意識がある。
平穏な日常を何よりも重んじてその為に刀を振るう朝凪と、戦う事を好み強者と力比べをしようとする一ノ瀬。
価値観の相違があり過ぎる二人だが、明確に、相互間で昨日の戦いは脳に焼き付いている。
「一ノ瀬さんとは仲良いの?」
「ん?嗚呼、一ノ瀬とは中学の時に会ってから妙に懐かれたんだ。私とは戦おうとせんあたり、弱いとは思われてそうだがな」
「あー、うん。弱いかどうかは置いておいて、懐かれているのは納得する」
真面目な性格だがなんだかんだ慕われる八神。副会長として、会長である朝凪よりも周囲の人間に頼られやすい。
朝凪が声をかけずらいのもあるが、基本八神は人を放っておけない質なのだ。
そういう善性に朝凪は助けられていたし、九条も焦がれている。
八神が人を助ける事で得られる信用を見る度に、報われる世界に朝凪は安堵する。
ふと生徒会室の扉がノックされ、小柄な女子生徒が顔を覗かせた。
「おはようございます」
「おはよう……桃園顔色が悪いがどうかしたか?」
桃園が生徒会室へと入るなり、前のめりになり尋ねる。
朝凪が桃園の顔へ視線を向ければ、普段とそう変わらないように思え首をかしげた。
「いえ、その、大丈夫。それより紗羅ちゃんも朝凪くんも大丈夫ですか?怪我とか」
「幸い負傷者はゼロだ。ただ、試合は台無しになってしまったがな。折角推薦してもらったのに悪かったな桃園」
「い、いえ。大丈夫ならよかった……」
胸を撫で下ろした桃園が定位置である八神の隣へと腰を掛ける。
業務を再開する八神に続き、朝凪と桃園も仕事を始めた。




