第24話
時は遡り、九条の方へと向かった八神と別れた齋藤と望月は東西の散策に分かれることになった。
現状五対四と若干の優勢を暁天学園が取っていた。
しかしあの九条がいる以上油断は出来ないとフラッグの探索を続行中だ。
「大丈夫かなー八神さん」
「紗羅ねー、どうだろ」
「いくら九条さんが八神さんの事好きでもそれとこれは別だと思うしなぁ」
望月の発言に斎藤がん?と眉を寄せた。
齋藤からすれば九条と八神の繋がりは知らないので当然の反応だ。
同じ夕顔流くらいの共通点から、望月の発言にうまく紐づけられず首を傾げる。
「な?え?なんて言ったの望月」
「え、九条さんが八神さんの事好きって……ああ、あの二人知り合いみたいですよ。昨日の態度的にも、九条さんって八神さんの事好きっぽいですしー」
ノマカプ好きで誰彼かまわず萌えるどこぞのオタクとは違うが、望月も男子高校生らしく他人の恋愛事情にはある程度鼻が効く。幼馴染の有明に恋人がいることも、望月はなんとなく察していた。
「へ、へぇ……」
対する齋藤は初出の情報に目を回しながらも、平然とした態度で振る舞っていた。
九条に対しては鼻につくイケメン程度の印象でしかなかった。それに加えて強い。
そんな九条が可愛がっている後輩に好意を寄せている、となれば複雑な感情だ。西都にいたことも八神家の人間であることも知っていた。だがあの九条と知り合いだということは初耳である。
「まぁ信じるしかない。それより、これからどうする望月?一緒に探すか二手に分かれるか。正直朝凪と八神が負ければ状況は瓦解するし、フラッグ探しを優先したいけどさ。一ノ瀬蛍、だっけ?彼女が一度も見かけてない以上一人で行動するのは危険だよねぇとは思う」
齋藤の言い分に否定はしなかった。
しかし齋藤にべったりだと効率が悪いというのもまた事実である。
望月は顎に手を添えながら作戦を練る。順当にいけば暁天学園が勝つだろう。しかし制限時間はまだまだ逆転を許せる範囲内だ。何が起こるか分からないのが現実だということを望月は嫌でも知っている。
「……いや、フラッグを狙いに行きましょう。俺は平気ですし、朝緋だって体力が無限にあるわけじゃないですし」
「そう、望月がそういうなら私は賛成するよ。ただ敵対して無理だと判断したなら私の元に帰って来な。出来るでしょ」
「うっす!甘えさせてもらいまーす」
調子の良い望月に肩を竦める齋藤であったが、満更でもない様子で望月を見下ろす。
先輩に素直に甘える望月は、足早に東側へと向かっていく。
小柄だが、それゆえに抵抗が少なく身軽な望月は高低差のある立地の方が活躍出来る。かつ、射程距離に入る速度や柔軟性を考えたら昨年のサバゲー会場の方が英雄になれたことだろう。齋藤は望月の若干の運の無さに同情し合掌した。
「おーい肇ちゃーん!やっほー」
琴吹の声が耳に入り、齋藤は顔を顰める。
可愛い後輩との別れの後に会ったのは、何を考えているのか分からない友人だ。
あからさまに残念だと態度を取る齋藤に槍を持つ腕を振る危なっかしい琴吹。その後ろで全力疾走をする二人組。
状況を瞬時に理解した齋藤は、モールに響き渡るほどの声量で突っ込む。
「貴様は敵を連れてくるなこのドアホが!」
琴吹は状況とは裏腹に満面の笑みで琴吹の隣に立った。
「望月くんは?」
「フラッグ探してる!貴様、ほんと、貴様!後で覚えておけよ」
「えぇー、後で麻辣担奢ってあげるから怒らないでよー」
「一ヶ月な」
文句を垂れる琴吹を無視して齋藤は勢いよくジャンプし、向かってくる二人の背後を取る。
抜刀し、二人組の片割れの男子生徒の向かって刀を振るった。しかし男子生徒は間一髪の所で女子生徒に襟元を掴まれ、胴体を前のめりに引っ張られ避けることに成功した。
「あっぶな……稲荷流の人じゃん」
「三百六十度気をつけなよ柳」
「兎じゃないんだけど」
二年の菊池鈴鹿と柳虎太朗。
おっとりして見える糸目の菊池と、右眉から右頬骨にかけての傷跡がある柳。
オーラだけで言えば、とても学生とは思えない二人だ。
やけに貫禄がある。二年生と言えど経験で劣るわけではないだろうと、齋藤は予測した。事実、琴吹が応戦ではなく逃亡をとっている。
琴吹は状況を見極める目が他人よりも優れている。後輩のためならと無茶をすることはあるが、基本三年生のみの時は無茶はしない。無茶をするべき相手ではないと判断したのだろう。
「鬼ごっこは終わりですかすずなさん」
「えー。勝手に鈴鹿ちゃんがついてきただけじゃなーい」
とはいえ、煽る事は忘れないあたり食えない人間だ。
その態度が齋藤は好きではない。そもそも不真面目な人間に見える態度をわざとする理由も不明で、底知れない振る舞いをする琴吹との相性はあまり良いとは言えない。
それでも二人は妙な縁で三年間一緒に過ごしている。
「槍の方は任せてもいいの琴吹?」
「んー、いいよー。じゃあ刀の方は任せるね」
前方の琴吹、後方の齋藤。間に挟まれた菊池も柳も言葉は交わさず、背中を合わせ二人と向き合った。




