第19話
朝凪と九条が刀を交えている同時刻。
廃モール二階フードコートで睨み合う槍使いが二人。
客人のいない閑散とした食事場には似つかわしくない様相で距離を保つ男女がいた。
一人は琴吹すずな。女性の平均身長よりも上背のあるおっとりとした三年生の女子生徒だ。
もう一人は二宮竜也。至って平均的な容貌の、同じく三年生の男子生徒だ。
互いに初対面ではあるが、同じ槍使いということもあり戦う場面はあるであろうと想定していた。
先手を取ったのは琴吹だ。机を足場にし飛びかかる琴吹の攻撃を槍で受け流す。
叩きつける勢いに任せ身を翻し、背後に回る。琴吹が槍の穂先を地面に突き刺し回転を殺さぬまま二宮に一発蹴りを入れる。
微かに重心がブレる二宮に追撃を狙うが、二宮の槍により妨害をくらい琴吹は後ろに下がった。
二宮が顔を顰めながら琴吹の方へ体を向ける。先ほどの蹴りが思ったよりも深いところにきたのだろう。胸を張り、肘を後ろに引いた二宮が「いたぁ」と声を漏らす。
「スッゲェ蹴り。噂通りめちゃくちゃ強いっすねあんた」
「えー、ありがとぉ。でも本気でもない人にお世辞言われても悲しいだけだよー」
琴吹が笑顔で対応すると鏡のように二宮も笑って対応する。
敵意の無い和やかな雰囲気が二人の間で流れる。まるで偶然出会った知り合いとの軽い挨拶くらいの空気だ。
「本気でやっても俺じゃ勝てるかなぁ」
「やって見ないとわからないと思うよー」
軽く聞こえる二宮の発言だが、紛れもない本音である。
二宮竜也。今年初出場な二宮は、他のメンバーと比較すれば突出した才能が無い。背丈は平均的であるし、力だって鍛えているのなら相応程度。跳躍力が特別あるわけでも打たれ強い強靭な肉体があるわけでもない。
それでも高校生活で一度も努力を怠らず、立ち止まることもなかった。
「でも、負けたくないな」
「それは私も同じー。可愛い可愛い後輩に情けないところあんまり見られたくないしねぇ」
互いが間合いをとるために、ジリジリと槍を軽くぶつけ合う。
肌で物の配置を確認しながら牽制をしつつ、攻撃のタイミングを伺う時間。周囲から見れば息を呑むその短い時間は、どちらかが攻撃を始めた瞬間終わりを迎える。
「わっ」
先に攻撃を仕掛けたのは二宮であった。
槍を弾き後ろに重心が傾いた琴吹に槍で打撃を与え、体勢が完全に崩れた所を狙い襟を掴み地面に倒す。背中を打ちつけた琴吹の手から槍が溢れ落ち、地面に転がる。
「は、はぁ、はぁ……」
二宮は地面に転がされ目を丸くする琴吹を見て、達成感が胸を満たす。
邪蓮華と戦い勝った命懸けの戦いではない。
けれども誰もが憧れる大舞台できちんと動けたことに対する高揚感と達成感。役に立てた実感が安堵へと徐々に形を変えていく。
襟を掴む手が緩んだ。
「ダメだよー、ちゃんと捕縛してからじゃないとー」
「え、うわっ!?」
腕を力強く引っ張られたかと思えば視界が回る。
気がつけば二宮の視界には天井を背景にしたにこやかな琴吹がいた。あまりにも綺麗に笑うものだから二宮は言葉を失い、全身の力が抜けていく。
「ふふふかわいー」
まるで子猫でも愛でるような声色で、子供を撫でるような手つきで二宮の前髪を梳く。掌が顔をなぞり、真っ直ぐに首元まで落ちてくる。ゆっくりと体重がかけられ若干の息苦しさと倒錯感に襲われた。
琴吹の槍を持っていた手には拳銃が握られていた事に気づいた二宮は対して大きくはない目を見開き、そして両手を顔下まで上げ降参する。
額に衝撃が走った二宮のインカムに、審判の声が無慈悲に響く。
『黄昏学園選手、二宮竜也くん脱落です』




