第13話
ゴールデンウィークも明け、あっという間に姉妹校交流会前日を迎えた今日。
薫風が頬を撫でるのが心地良い季節となり、運動するのに最適な気候となった。
日曜日という事もあり、学園に生徒はそういない。
交流会の最終打ち合わせと軽い運動も兼ねて、学園に集まった交流会の選抜選手達は午後を迎え訓練所を後にする。
「佐々木ー、すまんがちょっといいか」
「どうしたん齋藤」
「すずな、お前も」
「はいはーい」
「明日についてなんだが」
三年生からは齋藤肇。琴吹すずな。佐々木桐也。
「つーか、モモゾノさん入ってないのまじ意味わからん。銃成績一位じゃん。俺でいいのかなぁ」
「当人たっての希望だ。仕方ないだろう」
「宵だって成績は悪くないだろ」
「でも俺中距離支援は行けっけど、懐入られたら終わりよ?」
「避けるの得意じゃん。頑張れって」
二年生からは朝凪朝緋。八神紗羅。望月宵。円藤昴。
以上が今年の選抜選手七名である。
近・中距離に特化した選手で編成を組んでおり、桃園の案であった。
選抜選手に今回入らないと予め先生に告げていた桃園を中心に、教師陣と成績や実践経験を踏まえ選抜。
『今回の模擬戦は廃モールが舞台なんです。外からは狙える場所は無く、また狙撃で狙えても居場所がわかりやすいんです。そのため今回は遠距離を外し、中距離や近距離が得意な生徒を選出しました』
桃園からの説明に誰も特に異論は無かった。
「朝緋、帰りなんか食ってこ」
「星河くんはいいの?」
「あー、うん。今日親父がいるからそっちにべったりだしお土産買ってはいくから平気」
親指を立てる宵の親指を押さえつけた朝凪。ぎゃーという宵の悲鳴を聞いて満足したのか、朝凪は手を離して制服のネクタイを締めた。
「どこ行くんだ」
「んー、適当に入ればいいだろ。駅までになにあったっけ」
最終的にチェーン店のファーストフード店にしようという流れとなり、子供向けの玩具で話し合いをしながら校門へと向かう朝凪と望月。
そんな二人の視界に、八神が入り込み望月が声をかけようと手を空に向かって上げる。大きく口を開け、いざというタイミングで朝凪は叩く勢いで望月の口元を塞いだ。
突然の友人の暴挙に望月は目を丸くし見上げるが、そんな友人の訴えを朝凪は無視していた。
視線を一点に集中させる姿に望月は視線の先を追う。
少し離れた光景に、望月は朝凪の凝視の理由を瞬時に理解した。
何せ幼馴染。小学生からの付き合いかつ、オタク趣味を理解している望月だから出来る判断だ。
「あれ、九条一鶴か」
「……」
「あー、最近八神さん見てる気がしたのそういうわけね」
「俺見てた?」
「ちょー見てた。廊下ですれ違った時とか」
気が付かなかったと朝凪は内省する。
「ゴールデンウィーク終わってからくらい?なんか見てる気がするって真日流が言ってから俺も気づいたけど、確かになーって」
やっと理由がわかったからなのか、望月は満足げな顔をして鞄を背負い直す。
(それにしてもどうしてここにいるんだ?八神さんに会いにきた、は俺の都合の良い妄想……だけどそれ以外で彼がここに来る理由がわからないしな)
朝凪も居心地の悪い肩紐を直して二人の様子を見守った。
会話の内容までは聞こえないが八神の表情がずっと険しく目線が定まっていない。リュックの肩紐を何度も直したり、ローファーの靴底を地面に擦ったりしている。どこか落ち着きがないように見える八神に、朝凪は無意識に歩み寄った。
「八神さん、お疲れ様」
「朝凪!」
顔を上げた八神が朝凪を見つめると空いた手が朝凪の袖に伸びてくる。
普段の八神からは考えられない仕草に朝凪が一瞬動きを静止させたが、近くにいた男子生徒に顔を慌てた向けた。
(あー、うん。なるほど……)
「こんにちは朝凪くん、去年の交流会以来だね。僕のこと覚えてる、かな」
「こんにちは。勿論、九条先輩ほどの強い方を忘れることなんてとても」
完璧な微笑みは、老若男女問わず好感を抱いてしまうものがあった。爽やかな好青年を絵に描いたような男だと、朝凪は惚れ惚れしてしまう。
だが、その微笑みの前に見せた一瞬の無表情は薄寒いものを感じさせた。
明らかな敵意を感じるというべきか。普通だったら裸足で逃げ出してしまうかもしれないほど厳かであった。このパーツから繰り出される表情ではない。
「朝緋ー急に歩き出すなよー。ったく、八神さんもおつー、今から帰るとこ?」
「……いや、まぁ」
「これからご飯を食べに行く所なんだ。せっかくだし君たちもどうかな?」
(ほぼ初対面の人間を誘うのか)
「マジか!行きたいっす……でどちら様?」
(そして受けるのか)
望月の物怖じしない態度に恐怖を覚えながら朝凪たちはファーストフード店へと向かった。
駅近ファーストフード店は休日のお昼時ということも考え、人で溢れていた。
「これどうやって注文するんだ?」
「こういう店初めて八神さん?バーガー食べられる?スイーツ系とかもあるけど」
「た、多分いける」
黄金水仙隊が結成された当時、政府組織に所縁のあった家系がある。
一条家の徒花流。
二条家の時雨流。
三条家の星原流。
六条家の疾風流。
八条家の夕顔流。
九条家の朝凪流。
今多くの刀使いはうち六種類の流派のうち一つを身につけているくらいには、今のご時世誰もが知る家系だ。
邪蓮華の誕生により生まれた流派は、百年経ちながらも人々を守るために受け継がれている。
そのうち、八条家との繋がりがある八神家は、経済的な意味でも影響の強い家だ。
そこの娘ということもあり、割と箱入り娘気質な八神がファーストフード店を利用したことがないとしてもなんらおかしいことはない。
「どれくらいのサイズだ?」
「モノによるよ、これくらい小さいのから、これくらいでかいのまで」
「ほぅ!そんな大きいのもあるのか」
「一応お魚のハンバーガーあるけど、魚嫌い?」
「いや好きだな」
「それじゃあそれにしてみる?お肉もあるけど結構種類が多いんだ」
「いや、魚がいい」
前で望月と八神が会話しているのを朝凪は九条の隣で眺めた。
弟の星河にするような柔らかな口調となっている望月と新鮮な反応をする八神を微笑ましく見守っていると、隣でレジを待つ九条が朝凪に話しかけてくる。
「朝凪くんは何にするの?」
「俺はいつもの特盛バーガーセットです。九条先輩は?」
「実は悩んでいてね、オススメはあるかい?」
「がっつりなら特盛バーガーですかね。俺は毎回これです」
「じゃあ僕も特盛バーガーセットにしようかな、朝凪くんがオススメしてくれたしね」
顔を覗き込まれながらあざとい笑顔で言われてしまった朝凪は僅かに動揺した。
(これは、狙ってやっててもそうじゃなくてもコロっといく人間はいるだろうな)
持ち合わせたカリスマ性に、人好きのする好青年っぷり。それに加えたあざとさなんて、属性を守り過ぎもいいところだ。
そこそこ癖に刺さっているから朝凪からしても勘弁して欲しかった。
勘違いしてはいけないのは、あくまでオタクとしての壁であり、朝凪の性的嗜好という訳ではない。
あまりにもオタク心に刺さるキャラ設定すぎて次元の垣根を超えたかと一年生の時に感じたことを朝凪は思い出した。




