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水仙に咲く彼岸花  作者: 雪村蓮
姉妹校交流会編
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第12話

 鳳蝶通りの外れにある朝凪探偵事務所と看板の掛けられたビル。

 兄である朝凪華燐(カリン)とその妻である桃花(トウカ)は、突如訪問した弟にも笑顔で出迎えた。

 今日は数少ない事務員も休みで、兄夫婦しかいない為に客人の座るソファーに案内され、お菓子とお茶も提供されてしまった。朝凪は申し訳思いながらも、気持ちを落ち着ける事を優先させ温かいお茶に口をつけた。喉を通る熱が心地よく、思わず息が漏れる。


(そうだ)


「義姉さん、買ったよこれ」

「え、やっだぁ。買ってくれたの」


 朝凪義姉に見せたのは、先程のサクライ書店で購入した少年漫画である。


「お兄ちゃんも喜ぶよ」


 帷入道。本名如月桔梗は義姉の兄であり、週間雑誌で連載をする漫画家である。


 朝凪がこうも男女カプに異様な執着心を見せるようになったのは、何を隠そう兄夫婦と帷先生の影響が大きい。

 朝凪が引き取られてから数年後、高校生で幼馴染であった兄夫婦たちの告白現場で脳を焼かれ、帷先生の作品ですっかりと沼に落ちたのだから責任をとってほしいものだ。


(健やかに幸せに死が二人を別つ事もなく生涯を過ごしてほしいな)


 朝凪の人生において推しカプランキング堂々の第一位に君臨する兄夫婦を眺めながら、朝凪は頬張った。


「……そうだ。聞いて欲しいんだけど義姉さん今平気?」

「なに?何かあったの?」


 眉を八の字にする義姉に朝凪は書店の前で起こった出来事を、説明した。若干主観が入った説明であったが義姉は相槌を打ちながら真剣に話を聞いてくれる。

 そんな義姉だからこそ、オタクな部分を隠さずに吐露できるのだ。


「ふむふむ、つまるところ朝緋くんはその同級生の女の子とその知人の男の子の関係性に萌えを見出しているわけね」

「他人の口から改めて聞いたら俺気持ち悪いな……まぁいいか。そうなんだよ、でも、八神さんが相手の男にいい感情抱いているのかないのかわからないからなんか、申し訳なくなって」

 

 今更なにを、と言われそうであったが赤の他人と知人だと訳が違うのだ。

 大した友人もおらず、幼馴染の男達は面倒臭いものが付属し、そもそもの話何故幼馴染の野郎に萌えを感じなければいけないのか。望月と近所のお姉さんが上手くいくことは願っているが、そこには友人としての応援の気持ちが九割を占めている。


 (残り一割は、まぁ邪な気持ちだけど……)


 朝凪は気を取り直す。

 関係性が希薄な分、また、朝凪が勘違いされやすいこともあり高嶺の花扱いを受け、異性よりも同性の方に距離を取られがちであった。

 褒めてくれているのは嬉しいが、それよりも普通に声をかけて欲しい。


 (俺が声をかけても、特に男子なんか恐縮されてまともに話せないしな)


 その点望月は男女問わず仲が良くなれるし、有明は女家庭での長男だからか女子と仲良くなるのが上手い。

 対人コミュニケーション能力が朝凪よりもずっと優れている。


 だからこそ、朝凪にとっては身近な人間が萌えの対象に変化するのは初めてであったのだ。

 生徒会のメンバーは、朝凪以外が女子生徒で構成されているが男の影など一切なく女子生徒だけでグループを作るタイプなので一切機会がなかったのだ。


「どうしよー義姉さん、俺このままでも平気?人間としてアウトじゃない?」

「うーん、まぁ心の内で留めておけばいいんじゃないかなぁ?誰かに迷惑かけてるわけでもないんだし」


 頭を撫でる義姉に、甘んじて朝凪は受け入れた。いつまで経っても子供扱いをしてくる兄夫婦にむず痒くも、満更ではないのだ。


「朝緋、あまり人様に迷惑をかけないようにね」

「わ、わかってる……」

「それと、お小遣いは足りてるのか?父さんはどうせ少しの小遣いしか渡していないだろう……本もう少し買いたかったんじゃないのかい?」

「兄さん、兄さん落ち着いて財布開けないで」


 華燐は年の離れた義理の弟が可愛くて仕方がないのか、定期的にお小遣いを渡そうとしてくる。それが数千円ならば喜ぶのだが、数万円と一桁増えているのだから高校生である朝凪からすれば受け取るのは少し遠慮してしまう。


「そうよー華燐さん。どうせなら一緒に買いに行けばいいじゃない」

「義姉さん!?兄さんを止めてよ」


 財布を取り出す兄を押さえながら朝凪は義姉に助けを求めるが、カラカラと笑う義姉は助けを無視して奥の部屋へと入っていく。


「義姉さん!ちょ、兄さんももうアラサーなんだから無理しないで」

「うるさいうるさい弟を可愛がらせろ」

「じゃあ一緒に飯食べよう!な、だから金はいらないから!」


 朝凪兄弟の微笑ましい光景に、義姉は笑うばかりである。


「まったく……俺肉食べたい、しゃぶしゃぶがいい」

「わかったよ」

「しゃぶしゃぶもいいな」

「好きなもん食べに行こ」


 華燐の説得に成功した朝凪はひとまず安堵の息を吐く。休日なのに無駄な疲労をしたと机に腕を乗せてしゃがみ込んだ。

 ふと視界に入り込んだ書類に癖で目線をやると、幼い少女の写真が複数枚あった。


「これ、どうしたの?」

「依頼人のお兄さんの娘さん、つまるところ姪っ子さんが行方不明なんだそうだ」

「へぇ……」

「警察に届けは出したらしいけど、未だに行方知れずらしいからこっちに」


 普段は不倫調査やペット探し、剪定や旗振りのボランティアなど探偵以外の業務すら請け負う探偵事務所にしては珍しい依頼だ。

 写真に写る女性と抱きついている女の子。よくある日常のワンシーンだ。


「俺も気にかけておくよ」

「ん、いいのか?」

「いいよ。でも、危ないな。邪蓮華と遭遇してなきゃいいけど」


 子供が一人で出歩く所か、子供だけが公園で遊ぶことすら危うい現代日本。

 全くもって嫌な世の中だと思わざるを得ない現実に、朝凪は嫌気が刺した。

 

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