第3話
駅前の謎のオブジェ。ここが望月さんとの集合場所だ。
彼女からのメッセージには、『10時に駅前集合!』としか書かれていなかった。電車でどこかに行くのだろう、ということだけはなんとなくわかる。
昨日まで降っていた雨が嘘のように今日は晴れている。だが地面にはまだ水気が残っていて、湿った空気が肌に張り付いてくる。
駅前は日曜日なのもあって大勢の人が目の前を行き交う。
人混みが得意じゃない僕は、それだけで疲れてしまいそうだった。
腕時計を見ると9時45分を指している。約束の15分前。
誰かと出かけるときは何分前に集まるのが普通なんだろうか。そんなことを考えるぐらいには、あまり誰かと出かけることがない。
ポケットのスマホが揺れた気がした。望月さんからだ。
『今着いたよ〜』
返事を打とうとスマホのキーボードを開く。画面に指を当てたところで、目の前に茶色のブーツが見えた。
しばらくしてもブーツの先はこちらに向いている。もしかしてと顔を上げる。
「おはよ!一ノ瀬くん!」
「望月さんおはよう」
弾むような声が人混みの中でもはっきり聞こえた。
水色のカーディガンに白色のスカート。その涼しげな姿が雨上がりの空気感を忘れさせてくれる。
「合流できたし、電車乗ろっか!」
「ちなみにどこに行くか聞いてもいい…?」
「んー…秘密!でも一ノ瀬くんは好きだと思うよ」
なぜ僕が好きだと思うのか、というのは無粋だろうか。言いたい気持ちをグッとこらえ、口を結ぶ。
今から行く場所への不安もある。それでも、誰かと出かけることへの小さな期待が、その不安を和らげてくれた。
電車で15分。
駅を降りた僕たちは、海沿いの小さな道を歩いていた。
相変わらず湿気は感じるが、それ以上に海からの風が心地よい。
「今日晴れてよかったね〜」
望月さんはたまに話しかけてくれる。ふっと息が口から漏れるが、これは疲れてるわけじゃない。
「ほんとに晴れてよかった」
「昨日まで雨すごかったもんね。私、止まなかったらどうしようって心配だったんだ」
砂浜にはちらほらと人がいるのが見える。日曜なのに人があまりいないことを不思議に思ったが、よく考えると海水浴のシーズンではないから、当たり前ではある。
「一ノ瀬くんは雨好き?」
「…どうなんだろう」
自分でも、変な返事だったと思う。
だけど、パッと頭に思い浮かんだのは、『わからない』だった。
「好きかどうかで言われたら、苦手なんだと思う。」
「…それはなんで?」
「雨の中歩いてると、体が濡れるからかな…傘をさしてても足元は濡れちゃうし、その時の靴下の感覚とかがちょっとね」
「それは私も嫌いだな」
隣から小さく笑っている声がした。そんなに面白いことだろうか。
「望月さんは?」
「え?」
「望月さんは雨好き?」
聞かれたのだから聞かないとフェアじゃない。なんとなく、そう思った。
目だけで彼女を見るとこちらを見て固まっていた。歩いてはいたけど固まっていた。
「私は雨好きだよ」
不思議とその言葉にだけ、説明できない輪郭を感じた。
「雨って普段見れないものが見れるでしょ?水たまりができたら、『ここって平坦に見えるのに凹んでたんだ?』とか」
「面白いところを見てるんだね?」
「そうかな?よく見ると色んな発見があって楽しいんだよ」
そう言ってまた小さく笑う。よく笑う人だ。
「あとね…」
砂浜にいる人の声が、波の音に混じって聞こえる。
「あと…?」
「…大切な思い出があるんだ」
何も言えなかった、というより何を言えばいいかわからなかった。
「私のおすすめの場所、もう少しで着くよ!」
その一言で空気が変わった気がした。
細い道を抜け、潮の匂いが遠くなっていく。
望月さんの話す量がさっきよりも多くなった気がした。
今回多分ちょっとだけ短くなっちゃったかも?
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