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クリスタル・ロード 0284  開戦の噂

 緊張が走る。


向こうの隊列の人員はこちらと同等か、あるいはそれ以上。 もしも盗賊なら戦力も?

こちらの兵士は剣を握り、万一に備える。 グロフ達もそれぞれの武器を握り構えの寸前だ。


「緊張させて申し訳ない。 近づいてもよろしいかな? 我らは隣国の商隊の者です」


そう言ってくるのは予想の範囲内だ。 盗賊は正直に言うわけがないから。


「一人だけなら構いませんが、何か御用でしょうか」


こちらの兵士の隊長が少し前へ出て言うと、先程の男がゆっくりと馬を進めてきた。

後ろでジャンヌさんが弓を出す音がし、すかさず自分も剣に手をかける。


「私は武器を持っておりませんゆえ、ご勘弁願いますよ」


相手は手綱を握ったまま、両手を上げて見せた。   


細身で年嵩(としかさ)のその人はゆっくり近づいてくると隊長の前で止まった。


 「今、竜王国のドラゴンが来ているのはご存知かと思いますが、その件で続報がありましてね・・」

「続報とは、畑を焼いたり森への延焼に関してかな?」

「いえいえ、そうではなく竜王国がついに本格開戦したと」


開戦?! 今そう言ったのか?


「開戦?  この国に対してですか!」


これは盗賊の事よりも驚くべきことだ。

皆が緊張したのが伝わってくるほど、顔色が変わっている。


「ああ、いえいえ。  ここではなく東の国とかで、私も噂程度に聞いただけですが」

「そ、そうですか。  東・・・」   


一同ホッとする。  しかしこれも盗賊の嘘というのもあり得るので油断はできないが。


「私等はこれからそちらに向かう予定で海産物を仕入れてましたが、ここでも襲撃があったしこの後もとなると少々困りましてね、なにせ痛みやすい商品なので」

「ああ、なるほど。  魚だとかは早く売ってしまわないとね」

「そうなんですよ、他の国へ行くとしても予定と違うと手間取ってしまいそうで・・・」


 せっかくの商品が台無しと言うわけか。 それはもっともな話ではあるが。


「それでそちらの隊列を見かけまして、いくらかでも買っていただけるとありがたいのですが」

「そう・・ ですか。  魚介類ですね」


 セールスなのか、こちらもそれなりの人数だし馬車も兵士も貴族のだし金が有りそうと見てだな。

さすがは商人の目利き、機会は逃さないと。   


「良いんじゃないの、買おうよ。 肉と野菜はあるけど魚介は買ってないし」


それまで黙っていた貴族の子が窓から顔を出して言った。

すると妹の方も続いて顔を出した。


「ザリガニある? エビやカニと貝も!  食べた~い、 肉ばかりじゃ飽きる~~」

「そうだそうだ!  買おうよ」


兄弟揃って言い出したので兵士が振り返って苦笑している。


「そうですか? まあ金はありますし食料はまだ必要ですが・・」

「ザリガニ、エビも貝も新鮮で大きいのが入ってますよ。  お見せしましょう、ぜひどうぞ!」


 ここぞとばかりに売り込んでくるが、盗賊だとすればここで襲撃してくるはず。

グロフが兵士にゆっくりと近づき槍を握る。 彼も油断していない。   


「おい、商品をお見せしろ。  ザリガニやエビの大きいのをな!」


 商人が仲間に声をかけると、幌馬車の後ろが開いて中から声がしている。

少しして浅い箱がいくつか持ち出されて来た。

襲撃の気配は無いようだ。  少しホッとする。


 体格の良い若い男が二人で箱を持ち、近づいてきた。


「どうぞ見てください、良い品ですよ。 仕入れたばかりで新鮮ですからね!」


その時こちらの馬車から貴族の兄妹が勢いよく飛び出して、向かって行った。


「どれどれ!」

「私も見る~~」

「あっ まだ・・」   


 兵士が止めるまもなく箱へと走って行くので兵士とグロフが慌てて馬を降りて二人に寄り添うが、兄妹は気にせず箱を覗き込んでいる。


「エビおっきい~ 、貝もだ~~」

「魚もカニも良いね~」

「そうでしょう、そうでしょう?」


 商人は手応えアリと満面の笑みである。  この二人が決定権を持つと見透かしているようだ。

ある意味盗賊のような目ざとさだな。


「良いんじゃないの? 買おうよ」

「買おう買おう、 ザリガニ、エビに貝~~!」

「はいはい」   



 商人はホクホク顔で次々に荷を下ろして箱を開ける。 いくら買わせるつもりなんだか。

笑顔で手を振る商隊が離れて行ったとき、こちらの馬車には海産物がどっさり積まれていた。


「食べきれるかな、こんなに」

「みんなでお腹いっぱい食べようね、 お~~」

「確かに安かったけど、だいぶ値引になったし。 今日から海の幸(さち)が続くな」


 それにしても、これの原因になった竜王国、その開戦については誰も言わないが黙っている方が良いのだろうか。

この国に対してではないとはいえ、子供達に不安を抱かせない為か?


 確か東の国と言ったか、でも国名までは聞いていないな・・ 噂程度だからか? それでは憶測の話になるだろうし意味がないような気もする。   

だがなぜ、いま開戦なのか。


 竜王国の、あの血の気の多い王子が暴走したか。  どこの国へ仕掛けた? その理由は。

情報を集めなければ。




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