クリスタル・ロード 0271 善意の協力者
「私のこと忘れていなかった?」
こちらの目をじ~っと見つめてそんな事を聞かれた。
「忘れてるわけ無いよ、ミミィさん」
「そう、良かった。 ずっとあの館に泊まり込みだったからみんなに忘れられてるかと思った」
「誰も仲間を忘れたりなんてしないよ」
そう、名前を思い出すのが少し遅れただけで忘れてなどいない。 本当だ。
「翻訳のお仕事はもう終わったんですか?」
リーシャが出発の準備をしてやってきた。 ここは家の畑の前、皆が準備中だ。
リーシャは小さめのリュックにやや地味な冒険者風のワンピース、ミミィは皮のズボンに白いブラウスで旅の商人のつもりかな? 大きめのバッグを持っている。
「ほんとは終わってないけど、師匠をごまかして逃げてきちゃった。 あはは」
快活に笑うけど多分後でかなり怒られると思うが、この人は気にしていない。 いつものことだろうしごまかせてもいないに違いない。
でも自分とリーシャは一緒に笑う。 リーシャもこの人のことはわかっている。
「おいおい、お前達元気なのは良いけど油断するなよ。 向こうは戦場なんだぞ」
レフが少し憂鬱そうにやってきて荷物をおろした。
「「は~~い」」
それから数分もすると全員が集まり、準備が完了だ。
ちなみに今回は皆が少しずつ変装をしている。
前回のトラブルで反省を踏まえ、なるべく顔を覚えられないようにとのことで、リーシャはカツラをし、自分は髪をオールバックにし茶に染めている。
フレアは極力暴れさせないためグロフがついて見張ることになった。
肩書は商人で、元冒険者としている。
緊急時だけ手伝う立場としてであり、それはこちらも同じで善意の協力者なのだ。
義によって助太刀である。
そして全員が馬車へ乗り込み、領主の館で転移門へと向かい一時間もしないうちに異国の地だ。
「早いな、もう着いたか」
「全くだ、これは便利だが・・いいのかこれで」
グロフ達が言うように本当にそうだ、他国に瞬時に着くなど普通なら大問題だ。
戦に使われてしまう。
「自分で言っといてなんだが、極秘だからなみんな。 騒ぐなよ、口外も禁止だぞ」
自分達が今いるのは聖剣帝国、使われなくなった山小屋だろうか? 少し広めの部屋の中だが窓には板が打ち付けられ、その隙間から外の森?が見える。
室内に見張りらしき狩猟服の男が3人小さな声で話した後、外を伺い手招きをした。
「後のことは外の者が案内するから、黙ってついていけ。 予定通りだ」
予定とは自分達がこの後、冒険者の登録証を受け取り火災現場の森へ向かうことだ。
消火と魔獣討伐のために。
外では馬車が2台待っていてグロフ、フレア、ミミィ、ジャンヌが商人グループ。
もう一台には自分他、リーシャ親子、ジョーイ、レフの冒険者グループとしてだが、ジャンヌさんが商人? ではなく護衛役なのか、短めの剣も帯びているしそうなのだろう。
「ここはまだ安全だが、30分程で火災現場だ。 迷うと火に巻かれるから勝手に動くな、こちらの指示通りで頼む」
皆で頷くと馬車が走り出す。
薄暗い森の中の狭い道、人通りは無く静かでここでは戦の気配は微塵もないが。
またあいつが来ているのだろうか、あの血の気の多い王子が?
会いたくないぞ、顔を合わせないよう気をつけねば!
リーシャ親子は隣で冷静に座っているが、その向かいジョーイは目が輝き溌剌だ。
多分ジャンヌが同行しているのもあるだろう、弓の師匠が久しぶりに参加なのだ。 良いところを見せようと張り切っているに違いない。
その隣のしおれたレフとは対照的だ。
あんな状態で働けるのかと思うが、戦いとなれば変わるはずだ。 今までもそうだし・な?
それから少し走ってわずかに煙の匂いがし始めたとき、馬車の速度が落ちて御者の男が声を掛けてきた。
「そろそろ着くぞ、馬車は離れて南で待機してるからあんたらは南へ向かってくれ。 別の案内が来るから、少し待つだけだ」
了解、と、気だるげに返事したレフだがさっきまで居眠りしていたのと違い、腰から剣を抜き少し見てから鞘に納めると目つきが変わった。
「さて久しぶりに冒険者だな、さて暴れるか~ 。 フレアは今回補欠だしな」
「そうだね、グロフが首輪をつけてるし。 こちらは心置き無くね」
ジョーイも元気が良い。 畑仕事から解放で純な冒険者役だ。
「フレアさんが暴走しないならこっちの出番だね、母さんも」
「言っとくけどドラゴンが来ても戦わないようにね、こちらは戦に出るわけじゃないから」
「そうそう、それは領主様から命じられてる。 従魔退治に協力する役だと」
馬車から降りるといっそう煙の匂いがしてきた。
森林火災が近い。 こちらは風上だと思うがそれでも感じる、魔獣の気配も。
それに血の匂いがした。
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