クリスタル・ロード 0261 狂気の目
頭に迫る黒い塊、リーチの短い武器のはずなのに手足の長さ故か槍を相手にしているかのような出の速さ、これは相当の手練だ。
腕自慢の兵士程度では無いぞ、本気でやらないとすぐに死ぬレベル! 血の気が引くのを感じた。
ゴッ と、風切り音が響いて頭の脇を黒いものが通り過ぎる。
ヒヤリとするが体が反応してそれをかわしていた。 しかし顔に出ないよう気をつける。
「ほお、 初撃とはいえ今のを避けるとは・・ 少しは傷をつけるつもりだったがやるなあ、強いと噂されるだけはあるな。 親父に相当仕込まれたかい?」
ブレッドンと名乗った男は気だるそうに笑い武器を軽く振る。
それなりの重さのはずなのに短剣のように扱っているほど手慣れているらしい。
それにあの関節は少しおかしく腕が妙な動きをする。 特殊な鍛え方なのか?
「いいねえ、実にいい。 遠くから来た甲斐があるよ、ぜひとも本気で来てくれ。 俺を殺す気で頼むよ、な」
勿体つけるような言い方ではあるが、冗談ではないのがわかる。
正気というより狂気の範疇に入っているが、目が本気になっている。
そしてもう一人、女の方も・・ と、ちらりと見るとやはり狂気の入った目で、楽しそうにこちらを見つめている。 レフとジョーイの首をツタで締めながら。
「あら、よそ見してる場合? 前をよく見てないと、ほら」
言われた途端今度は横殴りで武器が繰り出され、頭のあったところをバオッと音を立て棍棒が通り過ぎた。
体が横倒しと反応していなければ頭が砕けていたところだ。
追撃が来ないうちに転がって距離を取った。
「これでも避けるか、 こりゃ凄い・・ 。 並の奴なら今ので深手を負って動けなくなってるぞ」
「ホント、凄いわあ、私がやりたくなってきたな、ねえ、かわらな~い?」
「ダメだ、お前は付いてきただけだろうが。 戦うと決めたのは俺だぞ、邪魔するな」
「むう、私が先に言えばよかった」
女はむくれてツルをクイクイと引っ張り、レフとジョーイが顔をしかめるが意に介さない。
しかし苦しめる気は無さそうだ。
ギンッ と金属がぶつかる音が木霊した。
今度はこちらが不意を付いて槍に仕込んだ分銅を繰り出したのだが、向こうはとっさに弾いている。
「それが自慢のからくり武器か、今のはどっから出てきたんだ? 」
不思議なのも無理は無い、分銅は槍の経より大きめであり入らない。
実は着脱式なのだが教える必要はない。
「はじめから付いてたよ、見てなかったかい?」
「そうよねえ、私も見てたから。 付いてたわよねぇ?」
「嘘つけ、そんな物なかったぞ。 俺が見落とすか」
女はさも愉快そうに微笑んでいるが、目に狂気が現れているのは元のままだ。
「面白いんだからいいじゃない? もっと出してよ色々と、ね」
「そうだな、出し惜しみするなと言ったのは俺だし。 何でもいいぞ、手加減などいらん!」
今度は二人が同時に攻撃を仕掛け、リーチのある槍をかわしながら敵が混棒を突き出すのをこちらは柄で弾き、槍先が死角へ入ったと思った瞬間別な仕掛けの刃を出して相手の足を斬りつける。
しかし寸前で体を捻って横倒しで躱され、体を突き刺そうとしてもさらにひねって避けた。
何だ今の動きは? 空中でさらに捻って避けるとは・・普通飛び上がると動きが限定されるがこいつは関節がおかしく、しかも姿勢が崩れない? 人間離れした動作だ。
実は魔物なのか? それとも魔術を使った変化だろうか?
「あ~~ 、そいつ魔術とか使ってないから。 それでも体術よ、変な動きでしょう?」
あれが・体術? 関節も? 一体どんな訓練をしたのやらだな。
「どうも坊やは心が顔に出やすいね、直しとくほうがいいわよ。 特に対戦中はダメ」
そうだ、その言葉で昔のことを思い出した。
剣の師匠が言っていたことだ、お前は顔に出やすいから気をつけろと。
寡黙だがいつも的確な忠告をくれた人だった。
教えるのがうまく、弟子達から慕われていたが病で亡くなってしまったのだった。
今度は棍棒が二本、別の角度とタイミングで向かってくる。
しかもよく見ると長さが? だけじゃなく太さも少し違う作り・・ 錯覚で惑わせるわけか?
これも師匠から教わったことだった。
同じに見えて違う武器があると、間合いや動きが異なればカンが狂うと。
矢継ぎ早に繰り出される武器をヤリで弾き刃で切りつけ分銅で打つ、が、相手も次々に避け、体を捻り弾き返して来る。
そのたびに音は響き、手はしびれ、間合いは変わり目まぐるしいが昔からの訓練で繰り返したことだ。
「信じられんな、 これがガキの動きか? まるで槍術の達人ではないか。 俺と張り合える奴など始めて見たぞ、しかもこの歳で・・」
間合いが開くと動きを止めて男が息を吐いた。 しかし息切れは無く平常だ。
「ほんとにねえ、もう降参すれば? おじさん負けました~てね」
女は相変わらず楽しそうに見つめて男をからかう。
「仕方ない、本気でやるか。 そこまでする気はなかったんだがな」
「まあ、坊や相手に本気なんて・大人気ないわねえ、まったく」
「仕方ないだろ、これじゃ埒が明かん。 これで帰るわけにはいかんし」
渋い顔で気だるげに言った男は一歩下がり、両手を下げて足をやや開いた。
「おい、俺は魔術の類を一切使わんが、お前はどんな手を使ってもいい。 俺を殺せ、でないとそっちの二人は死ぬからな」
そして確かに気配が変わった。
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