第七十四話 こんな見苦しい格好ではありますが、本当に冒険者なんです!
「そのまま両膝をついて、両手を頭の後ろへ」
言われるまま、指示どおりのポーズを取った。
ただものではないところを見ると、フルプレートの彼らは、弱っちかった黒尽くめの集団の仲間なんかではなく、見た目どおり本物の騎士かそれに近い何かのようだった。
「それで、サー。あなたは何者で、こんな洞窟で何をしているんですか?」
そう誰何され、なんと言っていいかわからず、思わず言い淀むと、俺の顔に向けられた切先が、にわかに黄色い光を灯した。
それから、その光は鍔の辺りまで滑るように移動すると、いきなりバチバチという身の毛もよ立つような音を発し始める。
その音は俺にスタンガンを想起させた。
きっと、エンチャントだ。
そう考え。
属性は間違いなく電気か雷だろう、と憶測した。
電撃的に思い及んで、それを呼水に、我にもなく生唾を飲み込んだ。
俺は目の前のフルプレートが痺れを切らして、俺を痺れさせる前に、口火を切って質問に答えた。
「えっと、ギルド所属の冒険者です。名前は夜雲龍彦。クエストの関係でこの洞窟に足を踏み入れていた次第です」
「ほう、冒険者? そのなりで……ですか?」
言わんとしていることを即座に理解した。
普通、冒険者とは、革鎧やローブなんかに身を包んでいるものだ。しかし、俺は学生服。しかもぼろぼろの。足には金運効果アップを謳った白い蛇皮のサンダルをつっかけている。
きっと目の前の騎士さま(おそらく)の冒険者像と俺の風貌は異なっているんだろう。
こんな見苦しい格好ではありますが、本当に冒険者なんです! と言おうとしたところで、騎士は言った。
「冒険者にしては……その……奇怪な……いや……斬新な前髪ですね。ぶふふ」
「……は?」
一瞬、何を言われたか、わからなかったが、じわじわとフルプレートの言葉が脳に染み渡っていき、結句大量の血液が俺の脳中に到達した。
「何を⁉︎」と言って、飛びかかる寸前で、後頭部でパチパチという焚き火を喚起させる音と熱。左から、白く眩い光が閃いて、俺の溜飲は無理矢理さげられてしまった。
俺の殺気に気がついて、俺の三方を取り囲む三人のうちの二人が、咄嗟の判断で火と光のエンチャント(と思われる)でもって、俺の戦意を削いだのだ。
やはり、こいつらただものではない、とまたぞろ思い知らされ、またぞろ生唾を飲み込むと、眼前のフルプレートが言った。
「失敬、失敬。たしかに先の剛力、冒険者で間違いありませんね。私を力だけで吹き飛ばすだなんて、正直驚かされましたよ」
剣で目の前のフルプレートを吹っ飛ばしたときの光景が頭に浮かび、俺は目を伏せると、反射的に謝罪した。
「その節は、たいへん失礼しました。て……敵と勘違いしたんです」
「敵? それはどういう?」
「……黒尽くめの集団です。巨大なナイフと氷……たぶん氷のエンチャントを駆使する……」
「巨大なナイフに氷……。そいつらが、この洞窟内に?」
「はい。奥の方でのびてます……」
「のびて……いる?」
「全員無力化して、置いてきました」
「全員って……何人?」
「うーんと、五十はくだらないと思います」
手前のフルプレートと左手のフルプレートが顔を見交わす。
ややあってから、懐中電灯をオフにするように、剣の白い輝きが消えると、その剣をおろして、左手のフルプレートが、「君、その場所に案内してくれ。これはひょっとすると、報奨ものかもしれないぞ」と言った。冷たい鉄仮面から出たとは思えないような朗らかな男の声だった。
その声を皮切りに、バチバチという音とパチパチという音が聞こえなくなり、俺はほっとして自然溜息を漏らした。
それから、報奨という単語をふと反芻すると、「へ? ほ、報奨? ええ、もちろん、すぐに案内させていただきます! お任せください!」と一息で口に出した。
勘違いとはいえ、騎士(だと思われる)に襲いかかったわけだからタダではすまないだろう、と、正直今の今まで戦々恐々としていたのだが、この雰囲気のままいければ、お咎めなしに違いない、と希望の糸を手にした俺は、それ思いっきり引っ張り勢いよく立ちあがると、「こっちです!」と朗々たる声で言って、来た道を引き返し始めた。そのあとに、騎士たちは続いた。ガシャガシャという音が、今度はなぜだか耳に心地よかった。




