第六十九話 これではまるで生贄じゃないか……
何か念仏めいた、輪唱みたいな交錯した声が俺を覚醒させた。
「うぅ……」とかすかに呻き声を漏らし、ついで瞼を閉じたまま考える。
何が起こったんだ……?
そして、即座に思い出す。
そうだ! 『キィビィーダンゴォー』に毒が盛られてて、犬猿雉は敵で、俺にゴブリン討伐を依頼してきた老人も老婆も敵で、ゴブリンじゃなくて黒尽くめの集団が……つまり、コブリンはいないのか……。じゃあいったいなんのためにこんなまねを……?
そうして、おもむろに目を開くと、青い火灯りが俺のいる場所を照らしていた。
どうやら俺は、洞窟の中にいるらしい。途轍もなく天井が高いし、そこから鍾乳石がいくつもぶらさがっている。
ふと、左に目を向けると、青い光を湛えた恐ろしい顔をした鬼と目があった。
水鬼(鬼型ウォーターゴーレム)よりも小型の鬼だったが、俺は思わずギョッとして、飛び起きようとした。
けれど……飛び起きることはできなかった。
どうも全身を縄で固くぐるぐる巻きにされているようで、しかも背には硬い感触があることから、岩でできた寝台のようなものに俺は仰臥しているらしいのだ。
また、どうやら俺の身体を締めあげているこの縄は、この岩でできた寝台めいたものに、何か楔のようなもので固定されているようだった。
だから、飛び起きることができなかったのか、と納得した手前、はっとして鬼に目をまたぞろ向けると、鬼が凍りついていることにそのとき初めて気がついた。
厳密に言うと、青い光を帯びた鬼は、鬼ではなく、鬼の石像であるらしかった。
目下の状況を端的に説明すると、鬼の石像があり、その前に石の寝台然としたものがある……。
嫌な予感がした。これではまるで生贄じゃないか……と。
そう思ったとき、耳が断続的に拾う音のことを思い出して、俺は目を右手に向けた。
直後、俺は鬼の像を見たときとは別種の恐怖に、目を剥かずにはいられなかった。
青い火の灯った長い蝋燭をさした銀の燭台を手にした黒衣の集団が芋を洗うようにいて、ぶつぶつと何かを唱えていたのだ。
何これ? どういうシュチュエーション? と戦慄していると、黒衣の集団の前の方に、黒衣のフードを背にのせた二つの影がいることに気づいた。
目を凝らすと、その二人組が老人と老婆であることを見出した。老婆の横手には犬猿雉がいる。
推察するに、俺をこの不可解な状況に陥れた黒幕は、あの老人と老婆で間違いないようだった。
俺の視線に気がついたのか、老人が燭台を持っていない方の手をすっと掲げた。
瞬間、唱和めいた声の嵐が完全に停止し、途端に周囲は嵐の前のような静寂に満たされた。
急に降りかかった不気味な静けさに俺がゴクリと喉を鳴らすと、急に老人が哄笑した。
「ふははは、目覚めたようだな!」
悪役のような笑いだった。こいつは悪いやつに違いない。そう思わざるを得ないほどに邪悪な笑声だった。




