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【5万pv】ありあけの月 小話集【感謝申し上げます】  作者: 香居
新たな装い ──保元三年(1158)睦月

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六話




 信頼様が手ずから切ってくださった私の髪は、弊帛(神前の供物)用の絹織物で包まれた。

 それを携え牛車にて、私を含めた『加冠の儀』に関わる方々が、氏神様の奉られている神社へと向かった。


 神社にて弊帛(へいはく)をお供えし、神職の方にお祓いをして頂いた。この後、狩衣へと装束を変えて加冠の儀へと移るそうだ。



 ──理髪の儀にて、2つに結われていた(みずら)から、頭上で1つに束ねられる(もとどり)へ。

 加冠の儀へ至るまでに、半尻の小狩衣から、裾の長い狩衣へ。


 ひとつひとつの工程を丁寧に行うのは、「着衣を改める間に、成人となるための心構えをせよ」ということのようだ。

 前世で言えば、「小学校を卒業したので、今日から大人と一緒に働きなさい」と言われるようなもの……精神年齢などを勘案しても、確かに心構えは必要だろう。


 

 加冠の儀が始まった。

 神職の方も見守る中、信頼様の手によって、髻に被せるように烏帽子がつけられた。


 神前にて執り行うのは、


(けが)れを知らぬ〝童子〟は、本日この髪をもって、そちらにお返し申し上げます。これより先は、新たに狩衣を纏い、冠をつけ、人として世に交わりながら生きて参ります」


 と、神にお伝えするためだという。


「痛くはありませんか?」


 信頼様が、ささやくように訊いてくださった。


事もなく存じます(問題ございません)


 と返答申し上げると、信頼様はホッとなさったように頷かれた。


 私は初めての冠に新鮮さを感じつつ、今までより一層気を引き締めねばと、決意を新たにした。



 邸に戻りひと息ついてから、お昼過ぎに宴が始まった。

 名目が〝嫡男の元服〟ゆえ、父上の官位を越えない範囲で盛大に催されている。


 ここでも、成人するにあたっての練習をさせて頂けるらしい。

 そう。この世界に欠かすことのできない〝接待〟だ。

 下っ端は、そこそこのお酌の技術とそこそこの話術が必要となる。


 この宴は元服した者のお披露目を兼ねつつ、社交術を磨く場でもあるのだ。

 主役は真ん中で鎮座しているなど、とんでもなく。

 お招きした方々にお酌して回り、「よろしくお引き回しください」とご挨拶申し上げるのが礼儀──だそうだ。


 縦にも横にもつながりを作っておくための下準備、といったところか。

 ただ、さすがに父上の官位では第三位以上の方々は直にお招きできぬ。そのため、こちらはご挨拶の文をしたため、あちらは名代(代理人)を立てて、宴にご参加くださっている。


 最初につく席に座った際、不躾にならぬ程度に会場を見渡した。


 清盛公はご嫡男の重盛様とご列席くださっている。

 また、佐々木の祖父君(おじいさま)と定綱従兄様(にいさま)もご出席くださっている。従兄様のお顔が必要以上に輝いて見えるのは、気のせいだと思いたい。


 父上が口上を述べられた後、私は己の役目を果たすため各席を回らせて頂いた。

 これまで「童ゆえ」と大目に見て頂いた言動にも、これからは配慮せねばと気を張る私を見かねてか。

 ご列席の方々は私のつたない振る舞いを鷹揚に笑ってくださり、助言をしてくださった。


 皆様の温かさに触れつつ、無事に宴が終了したことをありがたく思う。



 その後私は、2月3日の宮司除目にて正式に皇后宮へ配属となり、冠を文官のものへと改めることとなる。


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