六話
信頼様が手ずから切ってくださった私の髪は、弊帛用の絹織物で包まれた。
それを携え牛車にて、私を含めた『加冠の儀』に関わる方々が、氏神様の奉られている神社へと向かった。
神社にて弊帛をお供えし、神職の方にお祓いをして頂いた。この後、狩衣へと装束を変えて加冠の儀へと移るそうだ。
──理髪の儀にて、2つに結われていた鬟から、頭上で1つに束ねられる髻へ。
加冠の儀へ至るまでに、半尻の小狩衣から、裾の長い狩衣へ。
ひとつひとつの工程を丁寧に行うのは、「着衣を改める間に、成人となるための心構えをせよ」ということのようだ。
前世で言えば、「小学校を卒業したので、今日から大人と一緒に働きなさい」と言われるようなもの……精神年齢などを勘案しても、確かに心構えは必要だろう。
加冠の儀が始まった。
神職の方も見守る中、信頼様の手によって、髻に被せるように烏帽子がつけられた。
神前にて執り行うのは、
「汚れを知らぬ〝童子〟は、本日この髪をもって、そちらにお返し申し上げます。これより先は、新たに狩衣を纏い、冠をつけ、人として世に交わりながら生きて参ります」
と、神にお伝えするためだという。
「痛くはありませんか?」
信頼様が、ささやくように訊いてくださった。
「事もなく存じます」
と返答申し上げると、信頼様はホッとなさったように頷かれた。
私は初めての冠に新鮮さを感じつつ、今までより一層気を引き締めねばと、決意を新たにした。
邸に戻りひと息ついてから、お昼過ぎに宴が始まった。
名目が〝嫡男の元服〟ゆえ、父上の官位を越えない範囲で盛大に催されている。
ここでも、成人するにあたっての練習をさせて頂けるらしい。
そう。この世界に欠かすことのできない〝接待〟だ。
下っ端は、そこそこのお酌の技術とそこそこの話術が必要となる。
この宴は元服した者のお披露目を兼ねつつ、社交術を磨く場でもあるのだ。
主役は真ん中で鎮座しているなど、とんでもなく。
お招きした方々にお酌して回り、「よろしくお引き回しください」とご挨拶申し上げるのが礼儀──だそうだ。
縦にも横にもつながりを作っておくための下準備、といったところか。
ただ、さすがに父上の官位では第三位以上の方々は直にお招きできぬ。そのため、こちらはご挨拶の文をしたため、あちらは名代を立てて、宴にご参加くださっている。
最初につく席に座った際、不躾にならぬ程度に会場を見渡した。
清盛公はご嫡男の重盛様とご列席くださっている。
また、佐々木の祖父君と定綱従兄様もご出席くださっている。従兄様のお顔が必要以上に輝いて見えるのは、気のせいだと思いたい。
父上が口上を述べられた後、私は己の役目を果たすため各席を回らせて頂いた。
これまで「童ゆえ」と大目に見て頂いた言動にも、これからは配慮せねばと気を張る私を見かねてか。
ご列席の方々は私のつたない振る舞いを鷹揚に笑ってくださり、助言をしてくださった。
皆様の温かさに触れつつ、無事に宴が終了したことをありがたく思う。
その後私は、2月3日の宮司除目にて正式に皇后宮へ配属となり、冠を文官のものへと改めることとなる。
ブックマークと評価をいただきました。ありがとうございます。
また、お読みいただき、ありがとうございます。





