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【5万pv】ありあけの月 小話集【感謝申し上げます】  作者: 香居
松笠菊の花に寄せて ──保元三年(1158)葉月

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一話





 保元三年(1158)8月11日。

 後白河天皇陛下が譲位なさった。

 守仁(もりひと)親王殿下が〝しかるべき御歳〟におなりあそばしたからである。


 大内裏では、12月の即位の儀に向けて、各部署が準備をしているところだ。



「此度の譲位は前々から決まっていたことゆえ、朝廷の混乱は少なくて済みそうだな」


 父上が我が家の執務室にて、安堵の息を吐かれた。


「……突如祭り上げられるよりは、良いでしょうね」


 朝長義兄上が目を伏せられる。まるで、友人を心配するような……


「親王殿下と、親しいご様子ですね」

「意外かな?」

「接点が見当たりませんので……」

「たびたび話していたとは思うが……『千歳(ちとせ)様』が親王殿下だよ」

「えっ……」


 私が目を見開くと、父上が嘆息なさった。


「誠にそなたは、己に感心のあることにしか目が向かぬな」

「……申し訳ございませぬ」

「今は、伊行殿に夢中であるしな」

「おや。鬼武者はそちらの()に目覚めたのかい?」

「昨年の『遷御の儀』の後、奉納した童舞を褒められて頬を染めていたそなたは、大層愛らしかったぞ」

「恋する乙女のようでしたね」

「……お二方とも、お揶揄(からか)いになるのは、おやめください」


 伊行様のことは、敬愛しているだけだ。

 私が口をへの字にすると、お二方はお笑いになった。


「冗談はさておき。そなたはもう少し、視野を広げよ」

「何事を判断するにも、情報は多いほうが良いからね」

「はい。精進致します」

「うむ」


 父上が頷いてくださった。この話はここで終わりだろう。


「義兄上。改めてお伺いしたいのですが、千歳様とは、どちらでお会いになったのですか」

「……本当に、関心がなかったのだね」


 仕方のない子だと苦笑なさり、義兄上は馴れ初め(?)を話してくださった。


「私が殿下童の頃のことだよ。当時も、中務省(なかつかさしょう)に関係する部署にいてね。必然的に、内裏に足を運ぶ回数が増えたのだよ」


 内裏の女房さんたちから大人気だったという、あの頃か。


「その日はたまたま、少し近道をしていてね。生垣の前を通っていたら、木の間から飛び出していらした千歳様とぶつかった……のが始まりかな」

「……なんてベタな……」


 思わず突っ込んでしまった。

 どちらかがパンを咥えていたら、転校生とのラブロマンスが始まってしまうではないか。

 内裏は千歳様のお住まいゆえ、この場合の転校生は義兄上か……?


 この世界に存在しない言葉を思い浮かべてしまうほど、前世ではありがちとされる状況だった。


中務省:天皇の補佐、詔勅の宣下・施行から後宮女官の人事まで、朝廷に関する職務の全般を担う部署。


※敬称略



ブックマークと評価を頂きました。ありがとうございます。

また、お読み頂きありがとうございます。


皆様のおかげで、歴史(文芸)にて、週間70位にランクインすることができました。心より、御礼申し上げます。


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