事の始まり①
終礼のチャイムが鳴って、クラス全体の挨拶が終わると帰る用意をすっかり済ませた七海が話しかけてきた。
「七星ちゃーん。今日、帰り駅前のドーナツ屋さん行こー。」
「えっ・・・七海、部活は?」
七海はソフト部のピッチャーで、学校内ではだいぶ顔が割れている。なぜなら、七海の豪速球のおかげでこの学校がはじめて地区大会優勝を飾ることができたのだ。
「んー。今日は・・・サボろうかなぁ~。だって、七星ちゃんとドーナツ屋さん行きたいもん。」
「いや、私は・・・。あ、今日、私財布忘れたから行けない。」
七星はとっさに嘘をついた。別に行きたくないわけではないが、ただ気分が乗らなかった。ドーナツ屋さんは、七星の家とは真逆の方向で、じめじめした、こんな暑い日に歩きたくなかった。
「七星ちゃん、嘘下手すぎ・・・。昼休み、購買にパン買いに行ってたじゃん。」
あ・・・嘘がバレた・・・。七星は心の中で舌打ちする。
結局、七海に連れられて七星はドーナツ屋さんに行くことになった。
「本当に、部活はいいのか?」
七星が七海に再度確認した。
「んー。私、今、部活行きたくないんだー。」
七海が困った顔をする。
「先輩とか困ったりしないのか?」
「今・・・ちょっと・・・。先輩は多分私がいない方がいいんだと思う。ほら、私投げる球だけは人一倍は速いでしょ?それで、顧問の先生がずっとピッチャーやってた先輩をはずして私をレギュラーに入れちゃったから・・・今ちょっと大変なの・・・。」
七海が下を向きながら言った。
「妬みか・・・。でも、顧問の先生が外したってことは実力の差ができてたってことじゃないのか?」
「そ、そうなのかもしれないけど、やっぱ先輩だもん。後輩に自分のポジションとられて嫌じゃない人はいないよ。」
2人の間に少し沈黙が訪れた。
「あっ、そうだ。七星ちゃんは部活入らないの?」
沈黙がこれ以上続かないようにと思ったのか、七海が話し始めた。
「あー・・・ああ。めんどくさい。」
「入ればいいのに。七星ちゃん運動できんじゃん!ってか、今思ったけど七星ちゃん、何でも出来るよね~。」
「私は、料理ができないな・・・。」
七星がぽつりと呟く。
七海は、驚いたように目を見開いて、
「え!?料理、七星ちゃんできないの?」
「ああ。無理だ。前、包丁でキャベツを切ろうとしたら切る前に指をグサッとしてしまった。」
七星がその時の傷を見せるように右手をヒラヒラとさせた。
「え?それって、料理ができないんじゃなくて不器用なだけじゃない?」
七海が声を上げて笑った。涙目になりながら七星の方を見て、また、笑った。
2人は、放課後の教室を後にしてドーナツ屋へと向かった。




