↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界は勇者を待ち望んでいる  作者: 山本乃良
第2章:今日も世界は回っている
PR
8/12

シーン8:女将軍は見守りたい

「……そういえば、今日の稽古も魔王様、やりすぎでしたよね」


 僧侶が話題を変える。


「せっかく防御魔法をかけたのに、あっという間に全滅ですもん。勇者さんだって、ろくに剣を振れてませんでしたし」

「確かに、あれでは最終決戦として少し……」


 カチリ。


 女将軍が静かにカップを置いた。


「……もったいない」

「え?」

「極大魔法で瞬殺など……実にもったいない」


 女将軍は遠くを見つめた。


「勇者と魔王。互いに剣を取り、真正面から対峙する。周囲の者は手出しできぬ。二人だけの戦い」

「……ああ、演出の話ですね」


 僧侶が頷く。


「剣と剣が激しくぶつかり合い、火花が散る。息遣いが聞こえるほどの距離で、幾度となく刃を交え、互いに傷を負い、それでも退かぬ二人」


 女将軍の声は少しずつ熱を帯びる。


「ついに勇者の剣が魔王の肩を捉える。だが魔王も勇者の剣を払い、胸元へ踏み込む。そして、剣を交えたまま、至近距離で視線がぶつかる」

「……なかなか迫力がありますね」

「互いに荒い息を吐き、額には汗が浮かぶ。勇者が言うのだ。『なぜだ……なぜ、そこまで俺に執着する!』と」


 僧侶の手が止まった。


「……執着?」


 女将軍は聞いていない。


「魔王は答えぬ。ただ勇者を見つめ、やがて低い声で囁く。『お前だけだ……ここまで私を追い詰めたのは』」


 女将軍は胸元で、そっと拳を握る。


「互いに認め合いながら、決して相容れぬ二人。剣を交えることによってしか、己の想いを伝えられない……そのとき魔王が勇者の腕を掴み――」

「将軍」

「勇者は抵抗する。だが魔王はその手を離さず――」

「将軍! いや副社長!」

「はい、どうしました?」


 女将軍が顔を上げた。即座に口調を元に戻す。

「前世での役職で呼ぶな。で、何だ?」


「……それ、戦闘の演出ですよね?」

「無論だ。最終決戦にふさわしい演出を考えている」

「……そうですか」

「稽古の改善案として、申し上げたまでだ。他意はない」


 僧侶と魔法使いは、無言で視線を交わした。


「……ちなみに、剣はどうなるんですか?」


 魔法使いが恐る恐る尋ねる。


「剣は落とせばよい。互いに武器を失い、それでもなお向き合う。素晴らしいではないか」

「……もう戦闘じゃなくなってません?」

「戦闘だ。魂と魂の戦いだ」


 僧侶が天を仰いだ。


「……ずるいですよね」

「何がですか?」

「魔法使いさんは魔王様が気になってるし」

「気になっていません!」

「将軍は魔王様と勇者さんが気になってるし」

「戦闘演出上の問題だ」

「私は! 全員、気になるんです!」


 僧侶は両手を握りしめた。


「選べないんです! 選べないのに、選ぶ権利すらないんです!」

「……そもそも、選ぶお立場なのですか?」

「ありますよ! 可能性は無限大ですから! なのに恋愛禁止令という、たった四文字で!」

「五文字です」

「細かいことはいいんです!」


 僧侶は椅子の上で身を縮めた。


「……ガルルルル」

「僧侶さん。少し落ち着きましょう」

「……努力します」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。