↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界は勇者を待ち望んでいる  作者: 山本乃良
第1章:魔王城、決戦の火蓋は切られた
PR
4/12

シーン4:世界の命運を左右している話し合い

「続きまして、第三四半期の魔力収支についてご報告いたします」

 女将軍が次の資料を広げた。それに対し、プロデューサーが応える。

「お願いします」


 軽い咳払いの後、女将軍が手元の資料を読み上げる。

「世界全体の魔力収支は、引き続き黒字です。農業部門、環境管理部門ともに予定を上回る効率を記録しております」

 報告を聞いて、魔王は満足そうに頷いた。

「うむ。結構なことだ」

 魔法使いは、要所要所で頷き、そして尊敬の眼差しで魔王を見つめていた。

 その様子を見ていた僧侶は視線を落とし、肩を震わせていた。


 そのとき、女将軍がやや声を落として報告を続けた。

「ただし、魔王城最終決戦リハーサル部門については、予算比で大幅な超過が発生しております」

「……む」

 魔王は押し黙った。


 女将軍が続ける。

「主な原因は、極大魔法の使用頻度です」

 勇者が目を輝かせた。

「ほら!」


 魔王は悪びれることもなく答えた。

「本番と同じようにしなければ、緊迫感が出ない。必要な処置だ」

「ですが、予算が――」

「不足分については、私の資産管理会社から特別予算を組もう」


 魔法使いは感嘆のため息を漏らした。

「まあ、魔王様……」


 勇者が慌てて口を挟んだ。

「いやいや、そういう問題じゃないですよ! 予算があっても全滅するんですから!」

 女将軍は、先ほど魔王から手渡されたメモを読み上げた。

「なお、次期予算案には、高低差のある階段の建設費用が計上されております」

「却下してください!」


「では、その他に何かございますか」


 僧侶が手を挙げた。


「転移者さん、本当に来るんですかね」


 部屋が静まり返った。

 魔王は腕を組んだまま固まり、魔法使いはお茶に目を落とす。戦士が天井を見上げ、女将軍の筆が止まった。

 プロデューサーだけが、普段と変わらない顔をしていた。


「来ます」

「……いつですか?」

「来ます」

「いや、ですから、いつ頃……」

「来ます」


 しばしの沈黙。


「……はい」


 僧侶は手を下ろした。


「では、次回の稽古についてですが」

「あの」


 勇者が手を挙げる。


「先代勇者としての登場シーンです。転移者が来たら、俺は先代勇者役に回るわけですよね」

プロデューサーが資料を確認する。

「その予定です」

「で、その先代勇者が颯爽と現れる場面。まだ一度も稽古してませんよね。そろそろ、そちらの練習もしたいんですが」


 魔王が頷いた。


「なるほど。確かに重要な場面だな」

「でしょう? 普段は飄々としているけれど、ここぞというときに真の実力を見せる。そういう登場を考えてまして」

「うむ。よいではないか」

「ありがとうございます!」

「では、次々回に」

「……え?」


 勇者の笑顔が止まった。


「次々回だ。次回は今日の反省を踏まえた最終決戦の再稽古があるからな。加減の練習もせねばならん。階段落ちも検討せねば」

「階段は忘れてください!」


 プロデューサーが、ぱんぱんと手を叩いた。


「先代勇者登場シーンの稽古は次々回に仮押さえしておきます。なお、転移者さんが到着された場合は本番優先ですので」

「……仮押さえ。そうですね」


 勇者は椅子にもたれかかった。

 顔にはいつもの飄々とした笑み。ただ、目だけが完全に死んでいた。


「以上で本日の反省会を終了いたします。皆さん、お疲れ様でした」


 魔王は満足そうに立ち上がった。


「うむ。有意義な反省会であった。次回こそは、よい決戦にしよう」

「……はい」


 魔王が上機嫌で去った後、勇者はその背中を見送っていた。


「……いつになったら、先代になれるんだろうな」


 誰も答えなかった。


*****


 翌朝。


 魔王城の小さな執務室で、一人の職員が半透明の管理画面を操作していた。

 人口、魔物配置、各地のダンジョン稼働率、冒険者ギルドの登録状況。

 項目を一つずつ確認し、必要な数字を更新していく。


「王都周辺、異常なし。魔物の配置、異常なし。ダンジョン稼働状況、正常……」


 画面を下へ送る。


『異世界転移者数:0』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。