シーン3:世界の命運を左右する話し合い
魔王城、会議室。
重厚な円卓を囲むのは、魔王、勇者、戦士、魔法使い、僧侶。全員、最終決戦で着ていた衣装や鎧のままだ。
円卓の上には、お茶と茶菓子。そして配布資料。
女将軍は記録を担当し、プロデューサーはハンチング帽を被ったまま進行表を広げた。メガホンは椅子の背もたれに引っかけてある。
「それでは、第256回、魔王城最終決戦通し稽古の反省会を始めます。まず本日の結果ですが、勇者パーティー、全滅です」
「知ってます」
「では、全滅に至った原因について、魔王様からご説明をお願いします」
魔王は腕を組んだ。
しばらくの沈黙。
「……気合が入った」
女将軍が静かに筆を走らせる。
『原因:気合が入った(本人談)』
「毎回そうじゃないですか」
「いや、今回は最初こそ抑えていたのだ。お前たちの動きを見ているうちに、つい」
「つい?」
「……気合が」
「だから、それをやめてくださいって」
魔王は申し訳なさそうに頷いた。
「次回は加減しよう」
「前回も同じことをおっしゃってましたよ」
「そうだったか」
「前々回もです」
「……むう。加減というのは、なかなか難しいものだな」
「そこからですか」
勇者が天井を仰ぐ。
「はい。では次に、勇者パーティー側からご意見を」
勇者は姿勢を正した。
「戦闘の組み立て自体は悪くなかったと思います。戦士が前に出て、俺が側面から攻める。魔法使いの援護も予定通りでしたし、僧侶の防御魔法も間に合っていました」
「魔法の発動にも、特に問題はありませんでした」
魔法使いが頷く。
「そうだな。とりわけ魔法使いの詠唱は素晴らしかったぞ」
「……ありがとうございます。前世でも滑舌の良さには自信がありました」
魔法使いは軽く頭を下げた。僅かに見える耳が赤い。
「ただ、あれほどの連携を見せられては、こちらも応えねばなるまい」
「応えなくていいんですよ!」
勇者が身を乗り出す。
「こっちは全力で防御魔法をかけてるのに、まとめて吹き飛ばされてるんですから!」
「いや、防御魔法も見事だった」
「褒めてもらっても困ります!」
僧侶まで声を張り上げる。
女将軍が書き足した。
『次回改善事項:魔王様、攻撃魔法の威力を抑制(継続案件)』
「では、戦士さん」
プロデューサーの声に、戦士が待っていましたとばかりに背筋を伸ばした。
「本日の崩れ方は、七十五点です。爆風を受けた際の右足の運びはよかったのですが、左肩の入りが少し浅かった。あそこで半回転を加えれば、さらに自然な倒れ方になったかと」
「……誰も聞いてないですよ」
「自己採点です」
戦士は真顔だった。
「しかし、そこまで倒れ方にこだわらなくても……」
勇者が呆れたように言った。
「それは聞き捨てなりませんね。前世で培った役者魂が、いい加減な芝居を許さんのですよ」
「……そうですか」
「大部屋時代は、斬られ役ばかりでした。今では魔王様直々に吹き飛ばしていただける」
「出世したみたいに言わないでください!」
戦士は満足そうに頷いた。
「これぞ役者冥利に尽きるというものです」
「次回は、もう少し大きく飛ばされてみたいですね。できれば階段のある場所で」
「階段?」
魔王が興味を示す。
「階段落ちという技法がありまして。うまく決まると非常に見栄えがよいのです」
「それは面白いな」
「ですよね。しかも段数が多ければ多いほどいいのです」
「では、次回の戦闘では階段を――」
「作らなくていいです!」
勇者が叫んだ。
「魔王様も戦士さんも、反省の方向が違います!」
「では、階段落ちについては別途検討ということで」
プロデューサーが進行表に書き込む。
「検討するんですか!?」
「進行が押していますので」
「……はい」
勇者は椅子に沈み込んだ。




