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異世界は勇者を待ち望んでいる  作者: 山本乃良
第1章:魔王城、決戦の火蓋は切られた
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シーン2:新たな場面への誘い

 広間の隅に、いつからいたのか一人の人物が立っていた。


 ハンチング帽にニッカポッカ。片手にメガホン、もう片手に分厚い進行表。

 片足に重心を預け、腰をねじり、メガホンを天井へ掲げている。

 彼、プロデューサー兼監督は、進行表を開いた。


「はい、お疲れ様でした。皆さん、復活をお願いします」


 床の灰が一つ、淡い光を帯びた。

 灰は宙に舞い、人の輪郭を形作る。ほどなくして勇者が姿を現した。


「……はぁ」


 最初の一声は、ため息だった。

 続いて僧侶、魔法使いが復活する。

 僧侶は服についた灰を払い、魔法使いは自分の杖を拾い上げた。


「……また全滅ですか」


 勇者が壇上を見上げた。先ほどまでの勇壮な面影は消えている。


「いや、その……つい」

「テヘペロじゃないですよ、先輩」

「次は加減するよ」

「それ、前回も聞きました」

「……そうだったけ?」

「前々回も、その前もです」


 魔王は腕を組み、しばらく考え込んだ。


「次こそは」

「そこじゃないんですよ」


 勇者の口調は飄々としている。しかし目はまったく笑っていなかった。


 玉座の脇では、凛々しい鎧姿の女将軍が黙々と筆を走らせていた。魔王軍四天王の紅一点にして、この現場の記録担当である。


『第256回通し稽古 結果:勇者一行全滅』

『原因:魔王様の過剰火力』


 女将軍は一瞬だけ魔王に視線を向け、表情を変えずに記録を閉じた。


「毎回これですよね」


 僧侶が呆れたように言った。


「せっかく防御魔法をかけても、全部まとめて吹き飛ばされるんですから」

「いや、見事な防御魔法だった。おかげでこちらも本気を出さねばと思ってな」

「だから出さないでくださいって!」


 勇者と僧侶の声が重なった。

 プロデューサーが、ぱんぱんと手を叩く。


「はいはい、そこまで。では反省会に移りたいと思います」


 進行表をめくり、広間を見回した。


「……戦士さんは?」


 四つあった灰の山のうち、一つだけがまだ床に残っていた。

 いや、正確にはすでに人の姿に戻っている。ただし、動かない。

 戦士は仰向けに倒れたまま、右腕を不自然な角度に伸ばしていた。


「復活処理、終わってますよね?」


 女将軍がステータス画面を開く。


「確認済みです。生命力は最大値。状態異常もありません」

「では、戦士さん。そろそろ起きてください」


 しばしの沈黙。

 やがて戦士の唇がわずかに動いた。


「……今日の崩れ方は、悪くなかった」

「はい?」

「最後の右腕の流れが、実に自然だった。爆風に煽られた瞬間、肩から力を抜いて……あの回転。なかなか再現できるものではない」

「戦士さん」

「もう少し、この余韻に浸っていたい」

「進行が押しています」


 戦士は名残惜しそうに起き上がった。


「……仕方ない」

「なんで全滅させられた側が一番満足してるんですか……」


 勇者が額を押さえる。

 魔王はどこか嬉しそうに頷いた。


「うむ。今日の戦士の動きは、私もよかったと思う」

「先輩は褒めなくていいです!」

「……はい」


 プロデューサーはメガホンを小脇に抱えた。


「それでは皆さん、反省会場へ移動をお願いします。魔王様も、ご一緒に」

「承知した」


 魔王は威厳たっぷりに答え、勇者たちと連れ立って玉座の間を出ていった。

 最後尾の戦士だけが、一度振り返る。


「……次は、もう少し左だな」

「戦士さーん! 早くしてください!」

「はい、ただいま!」


 戦士は小走りで後を追った。

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