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異世界は勇者を待ち望んでいる  作者: 山本乃良
第1章:魔王城、決戦の火蓋は切られた
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シーン1:決戦! 魔王城、玉座の間

 重厚な扉が、鈍い音を立てて開いた。


 長い回廊の先に広がっていたのは、巨大な玉座の間だった。

 天井を支える黒い石柱。壁に等間隔で並ぶ、青白い炎の燭台。磨き上げられた石床には、複雑な魔法陣が刻まれている。

 そして最奥、数段高くなった壇上の玉座に、一人の男が腰掛けていた。


「……ようやく来たか」


 低く、静かな声。

 それだけで広間の空気が変わった。


 勇者は足を止めた。

 隣では戦士が大剣を構える。後方の魔法使いは杖を握り直し、僧侶は胸元の聖印に手を添えた。


「お前が……魔王か」

「いかにも。我こそが、この地を統べる魔王だ」


 男がゆっくりと立ち上がる。

 その瞬間、凄まじい魔力が広間を満たした。


「っ……! なんて魔力量……。こんなの、今まで戦ってきた魔族とは桁が違う……!」

「怯むな!」


 戦士が大剣を床に突き立てた。


「ここまで来たんだ。今さら引き返せるかよ!」

「わかっています!」


 僧侶が杖を掲げる。


「聖なる光よ、我らに加護を!」


 淡い金色の光が四人を包み込んだ。

 勇者は静かに聖剣を抜く。白銀の刃が青い炎を映し、澄んだ音を立てた。


「魔王。お前の野望も、ここまでだ」

「ほう? 何をもって、そう断言する?」

「俺たちは、お前の軍勢を打ち破ってきた。四天王も倒した。お前に苦しめられた人々の思いを背負って、ここまで来たんだ!」


 魔王は目を細めた。


「人々の思い、か。人は弱い。欲望に流され、互いを憎み、争いを繰り返す。そのような者たちのために、なぜ命を懸ける?」

「それでも!」


 勇者が一歩前へ出た。


「人は、誰かを信じることができる! 支え合うことができる! 俺は、その可能性を信じている!」

「……愚かな」


 魔王が右手を上げた。

 空気が震える。


「ならば見せてみよ。貴様の信じる、その人間の可能性とやらを」


 黒い魔力が掌に集まった。


「来るぞ!」


 勇者は仲間に叫んだ。


「前衛は俺と戦士! 魔法使いは後方から援護! 僧侶は回復と防御に専念してくれ!」

「おう!」

「了解!」

「はい!」


 四人が散開する。

 魔法使いの杖の先に、赤い魔法陣が浮かんだ。


「炎よ、我が呼び声に応え、灼熱の刃となれ――!」


 僧侶も祈りの言葉を唱え始めた。

 魔王は悠然と、その様子を見下ろしている。


「よかろう。この魔王を前にして、どこまで抗えるか……試してやろう!」


 凄まじい魔力の奔流が玉座の間を駆け抜ける。


「行くぞ、みんな!」


 勇者が床を蹴った。聖剣が白く輝く。


「うおおおおおおおっ!」


 魔王が、ゆっくりと右手を突き出した。


「――消し飛ぶがいい!」


 黒い光が炸裂した。

 轟音が玉座の間を揺るがし、四人の勇者たちは跡形もなく吹き飛ばされた。


 後に残ったのは、床に散らばる四つの灰の山だけだった。


 静寂。


 魔王は右手を下ろした。

 満足げな笑みが、その口元に浮かぶ。


「……ふっ」


「……はい、カット!」


 メガホン越しの妙に甲高い声が、玉座の間に響いた。


「……あ」


 魔王の表情が、一瞬で素に戻った。

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