シーン11:戦士の裏切り?
「ところで」
戦士が手を挙げた。
「魔王様の強化訓練に、私も参加させていただけますか。より強力な攻撃を受けたときの倒れ方を研究したいのです」
教官の目が輝いた。
「実戦に近い訓練は有効です。ただし、別途、魔王様側の訓練補助員として契約していただく必要があります」
「報酬は出ますか?」
「もちろんです」
「では、ぜひ」
「おい!」
勇者が叫んだ。
「お前まで魔王側に行くのか!?」
「副業だ」
「副業!?」
「契約上、問題ないそうだからな」
「そういう問題じゃないだろ!」
プロデューサーがさらさらと追記する。
「では、戦士さんの兼任については別途協議ということで」
「協議しなくていいです!」
「進行が押しておりますので」
そこで女将軍が、静かに手を挙げた。
「……一つ、よろしいか」
「はい、将軍」
「魔王様の強化訓練には、勇者殿も参加できるのか?」
「……俺ですか?」
女将軍は至って真面目な顔をしている。
「互いの限界まで剣を交え、呼吸を理解し、やがて言葉を交わさずとも相手の動きが分かるようになる。互いの弱点を知り尽くした二人が――」
「将軍」
プロデューサーが遮った。
「その件は、戦闘演出の打ち合わせでお願いします」
「……承知した」
女将軍は何事もなかったように筆を動かす。
議事録の隅に、小さく記された。
『魔王様と勇者殿の合同訓練:要検討』
『重要』
僧侶が魔法使いにそっと耳打ちした。
「……また始まりましたね」
「……そうですね」
やがて説明会は終わった。
教官は爽やかに勇者の肩を叩いた。
「残りの期間、精一杯ご指導いたします。魔王様の訓練も全力で取り組む所存です」
「……そっちは、ほどほどにしてください」
「いえ、契約ですので」
戦士は教官を追って廊下へ出た。
「教官、階段の使用も契約に含められますか?」
「設備担当との協議になりますな」
二人の楽しそうな声が遠ざかっていく。
残された勇者は深いため息をついた。
「……転移者さんが来る前に、先輩に加減を覚えてもらわないと。本番でも瞬殺したら、全部台無しですからね」
僧侶と魔法使いが、顔を見合わせた。
「……確かに」
「……明日も、加減の練習ですね」
「……頑張りましょう」
三人は肩を落として会議室を後にした。




