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異世界は勇者を待ち望んでいる  作者: 山本乃良
第2章:今日も世界は回っている
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シーン11:戦士の裏切り?

「ところで」


 戦士が手を挙げた。


「魔王様の強化訓練に、私も参加させていただけますか。より強力な攻撃を受けたときの倒れ方を研究したいのです」


 教官の目が輝いた。


「実戦に近い訓練は有効です。ただし、別途、魔王様側の訓練補助員として契約していただく必要があります」

「報酬は出ますか?」

「もちろんです」

「では、ぜひ」

「おい!」


 勇者が叫んだ。


「お前まで魔王側に行くのか!?」

「副業だ」

「副業!?」

「契約上、問題ないそうだからな」

「そういう問題じゃないだろ!」


 プロデューサーがさらさらと追記する。


「では、戦士さんの兼任については別途協議ということで」

「協議しなくていいです!」

「進行が押しておりますので」


 そこで女将軍が、静かに手を挙げた。


「……一つ、よろしいか」

「はい、将軍」

「魔王様の強化訓練には、勇者殿も参加できるのか?」

「……俺ですか?」


 女将軍は至って真面目な顔をしている。


「互いの限界まで剣を交え、呼吸を理解し、やがて言葉を交わさずとも相手の動きが分かるようになる。互いの弱点を知り尽くした二人が――」

「将軍」


 プロデューサーが遮った。


「その件は、戦闘演出の打ち合わせでお願いします」

「……承知した」


 女将軍は何事もなかったように筆を動かす。

 議事録の隅に、小さく記された。


『魔王様と勇者殿の合同訓練:要検討』

『重要』


 僧侶が魔法使いにそっと耳打ちした。


「……また始まりましたね」

「……そうですね」


 やがて説明会は終わった。

 教官は爽やかに勇者の肩を叩いた。


「残りの期間、精一杯ご指導いたします。魔王様の訓練も全力で取り組む所存です」

「……そっちは、ほどほどにしてください」

「いえ、契約ですので」


 戦士は教官を追って廊下へ出た。


「教官、階段の使用も契約に含められますか?」

「設備担当との協議になりますな」


 二人の楽しそうな声が遠ざかっていく。

 残された勇者は深いため息をついた。


「……転移者さんが来る前に、先輩に加減を覚えてもらわないと。本番でも瞬殺したら、全部台無しですからね」


 僧侶と魔法使いが、顔を見合わせた。


「……確かに」

「……明日も、加減の練習ですね」

「……頑張りましょう」


 三人は肩を落として会議室を後にした。


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