負の連鎖を止めろ!
工場の外へ出たワイチと小次郎、エレナは、その場を離れず物陰から入口の様子を窺っていた。
やがて工場の扉が開き、屍将軍を先頭に、刀を携えた屍侍、巨大な盾を持つ屍盾武者が次々と姿を現した。
その後ろから屍薬師、屍陰陽師、派手な装いの屍歌舞伎者、僧の姿をした屍まで続き、整然と列を作っていった。
屍将軍が刀を掲げた。
「よし! これより門を越えて、火雷様の所へ向かうぞ、遅れるな!」
屍たちは一斉に歩き出し、乾いた地面を踏み鳴らす無数の足音が暗闇へ広がっていった。
ワイチたちは物陰に身を潜めたまま、その一団が火雷のいる門へ向かって遠ざかっていくのを見送った。
「やっぱり、ここで作った屍をあっちへ送ってるんだな、しかし、なんであっちに屍達を連れて行くんだろ?」
「それはわかりませんね。ただ、あの工場が動き続ける限り、また次の者たちが同じように送り出されるのは間違いないでしょう。」
三人は工場を離れ、武蔵たちが待つ場所へ戻った。
「ワイチ、随分かかったじゃねえか。中まで見てきたのか?」
「武蔵、思ってたより、かなりヤバい場所だったよ。このままにはしておけないよ!」
ワイチは工場で見たことを仲間たちへ話した。
「黒い水晶で、能力が高い者を選別して、何の屍にするか決めてたんだ。」
「水晶で見た色で、薬師や陰陽師、歌舞伎者、それに僧の姿をした屍も作られてたよ。」
「でも、何の適性もない人は屍にはされず、別の場所に連れていかれて、大きな装置の中に入れられてたんだ。
そこで身体から霊力を吸い取られて、その霊力を集めて作ってたのが……あの黒い雫だった。」
「黒い雫を一つ作るのに、何人もの人が使われていたんだ。俺たちが今まで見てきた黒い雫は、全部、人の命と霊力を使って作られてたんだ。」
「だから、黒い雫が使われた時に、あれだけ大勢の亡霊が出てきてたんだと思う。助けてくれ、成仏させてくれって叫んでたのも……あの中に閉じ込められてた人たちだったんだ。」
しん吉が袋から黒い雫を取り出し、
「じゃあ……おいらが若雷から取ってきたこれにも、何人もの人が使われているのか……。」
「多分……そうだと思うよ。」
「くそったれが……。人の命を使って屍を作って、使った命でそいつらを生き返らせてやがったのか。」
「それだけではありません。私たちが工場を出た後、完成した屍兵たちが屍将軍に率いられて出てきました。そのまま火雷のいる門へ向かったようです。」
「伏雷のところで兵を作って、それを火雷のところへ送り込んでいるのか!ただ、何の為にだ?!」
「そこはまだわかりません。ただ、このまま工場を残しておけば、収容所からまた人が連れていかれ、屍にされる者も、黒い雫の材料にされる者も、どんどん増え続けます。」
「だったら、あの工場はぶっ潰すしかねえな。」
「でも、工場だけ壊しても駄目なんだ。まだ収容所には、大勢の人たちが捕まっているんだ。あの人たちを残したままにはできないよ。」
「工場の破壊と、収容所からの救出を同時に行う必要がありますね。」
「問題は、周りにいる屍どもだな。収容所にも工場にもいやがる。そいつらを相手にしながら大勢を逃がすのは無理だぜ。」
「なら、先に周囲の屍たちを別の場所へ引きつけるのはどうですか?」
「なるほどな。先に邪魔な奴らを工場と収容所から引き離しちまえば、その間に動けるってわけか。」
「ですが、全ての屍を引きつけられるとは限りません。工場の中や収容所に残る者もいるでしょう。」
「残った奴らだけは倒すしかねえだろうな、最初から全部まともに相手するよりは、ずっとマシだ。」
「それなら、囮になる人たちは戦わない方がいいね。できるだけ多くの屍を引きつけて、そのまま門とは反対の方へ逃げ続けるんだ。」
「だったら、あちきの横笛が使えますよ♪ 速さを上げてしまえば、追いつかれないように逃げ続けられます♪」
「おいらも行くよ! 大声出して走り回れば、いっぱい追いかけてくるだろ? 怖くてちびるかもだけど。」
「僕も行くよ。三人で別々に動くより、阿国さんの笛でまとめて速くなって、そのまま一気に引っ張った方がいい。」
「囮は阿国、しん吉、きゅうすけの三人だな。かなり危ねえ役になるから、絶対に戦うんじゃねえぞ、とにかく捕まらねえように気をつけてくれ。あとはできるだけ遠くまで引きつけて、ヤバくなったら無理せず逃げるんだぞ。」
「そうなると、残りは工場を破壊する者と、収容所の人たちを救い出す者に分かれる必要がありますね。」
「収容所の方は人数が多いから、エレナも一緒に来てもらった方がいいよ。中のことを知ってるし、捕まってる人たちにも俺たちより話が通じやすいからさ。」
「それなら、私が案内しますよ。収容所の周りには屍がいますから、囮についていかなかった者が残っていたら倒さなければなりません。」
「なら俺も収容所に行くぞ。残ってる奴らをさっさと片づけて、全員まとめて連れ出すぞ。」
「なら、俺も行こう。大勢を逃がすなら、途中で襲われた時に守る奴も必要だろ。」
「じゃあ、収容所は俺と武蔵、村正宗、ナリア、エレナで行こう。」
「それなら、私は工場ですね。あの建物を破壊するのであれば、式神と術が使えますからね。」
「では、ワシも晴明殿と行きましょう。工場に残っている屍との戦いになれば、結界も必要になるでしょう。」
「私も工場へ向かいます。残っている屍は私が引き受けますので、晴明殿は工場の破壊に集中してください。」
「問題は、どうやって工場そのものを壊すかだね。何かいい方法はある?」
「それなら、天狗の術で工場を支えている柱を狙います。それでも足りなければ酒呑童子に柱の根元を叩かせて、一気に崩しましょう。」
「それなら工場は晴明、小次郎、空海の三人でいけそうだな。」
「でも、助け出した後はどうする? 収容所にはかなりの人数がいるぞ。このまま第一の門まで一気に連れていくのは、さすがに無理があるよ。」
「なら、まずはここの拠点に戻るしかねえな。三組とも仕事が終わったら、それぞれ別の道を使ってここへ戻って、全員揃ってからその先を考えりゃいい。」
「囮の三人は、ここへ戻ってくる前に追ってきた屍を振り切ってくださいね。」
「あちきたちは十分に引き離してから、大きく回って振り切って戻ってきますよ♪」
「工場を壊して、収容所の人たちも全員助け、それが終わったら、ここで落ち合おう。」
「それじゃあ、行こう。まずは阿国たちが屍を引きつけて、十分に離れたところで俺たちも動き出すよ。」
ワイチたちは工場と収容所へ向かい、三組に分かれる場所まで進んだ。
「それじゃ、あちきたちが先に行きますよ♪」
阿国の横笛から軽快な音色が流れ出すと、しん吉ときゅうすけの身体にも力が満ち、三人は工場と収容所の間へ向かって一気に駆け出した。
「おーい! こっちだぞー! 捕まえられるもんなら捕まえてみろー!」
しん吉の声が暗闇の中へ響き渡り、収容所の周囲を巡回していた屍侍たちが一斉に反応すると、工場の前にいた屍たちも次々と三人の方へ向かい始めた。
「うわっ! 思ったより来た! これ、おいら本当にちびるかも!」
「しん吉、喋ってないで走れ!」
「きゅうすけだって逃げるの速すぎるだろー!」
横笛の音を響かせながら阿国が先を駆け、その後をしん吉ときゅうすけが追いかけると、集まった屍たちは三人を追って工場と収容所から次々と離れていった。
その様子を離れた場所から確認していたワイチたちは、まだ残っている屍がいることを確認した。
「全部は行かなかったけど、かなり減った。今ならいけるよ。」
「ここからは二手に分かれるぞ。俺たちは収容所だ。」
武蔵、村正宗、ナリア、エレナがワイチと共に収容所へ向かい、晴明、小次郎、空海は工場へ向かった。
三組はそれぞれ別の方向へ走り出し、収容所に残された人々の救出と工場の破壊が始まった。
【次回予告】
エレナ
「まさか、あの工場でこんな恐ろしいことが行われていたなんて……このまま放っておけば、また多くの人たちが犠牲になってしまいます。」
「工場を破壊する者、収容所の人たちを救い出す者、そして屍たちを引きつける者……作戦は決まりました。あとは必ず、みんなで無事に戻ってくるだけです。」
次回、第94話「工場を潰せ! 黄泉の住人を救い出せ!」
「私も、必ず皆さんを収容所から連れ出してみせます!」




