工場の正体
「あ……あれは……!」
隙間の向こうでは、黄泉の住人たちが次々と柱に磔にされ、屍薬師が首の付け根と肩甲骨の間へ漆黒の杭を金槌で打ち込んでいた。
ガンッ!
「ぐああああっ!」
杭を打ち込まれた男の霊体から、人の形をした淡い光が薄い帯のように浮かび上がった。
屍薬師がそれを鉄鋏でつかんで引っぺがすと、男の絶叫とともに人型の光が霊体からずるずると剥がれ、身体から少しずつ色が失われていった。
「おい、あれは、まさか……魂を剥がしてるんじゃないのか……?」
やがてすべてを剥ぎ取られると男の声は途絶え、人の形を残した抜け殻だけが柱に残った。
剥ぎ取られた魂は薄く光る人型の帯となり、何度か折り畳まれて、箪笥のように並んだ浅い引き出しへ重ねられていった。
同じ作業は別の柱でも繰り返され、工場内には金槌を打ちつける音と黄泉の住人たちの叫び声が絶え間なく響いていた。
やがて一つの引き出しに五人分の魂が揃うと、作業を監視していた屍将軍が声を飛ばした。
「よし、五人分揃ったな。では、製造機へ回せ。」
「なんだ、五人分って……?」
屍薬師たちが五人分の魂を巨大な製造機へ入れた。
屍薬師がハンドルを回し始めると、低い唸りとともに内部が回転し始めた。
ゴウン……ゴウン……。
折り重なった魂が混ざり合うのを確認すると、屍薬師はボタンを押した。
すると別の管から黒い物が流れ込み、淡い光を放っていた魂は次第に黒く濁り、やがてどろどろとした黒い液体へ変わっていった。
さらに回転を続けるうちに、黒い液体はどんどん濃縮されていった。
屍薬師が管の先に小瓶を置くと、濃縮された黒い液体がゆっくりと流れ出し、一本の小瓶を満たした。
「ワイチ、あれはもしかして……黒い雫じゃないですか?」
「まさか……黒い雫って、黄泉の人たちの魂から作られてるのか……?」
黒い雫が作られている場所から少し離れたところでは、魂を剥がされて抜け殻となった黄泉の住人たちが、次々とリアカーへ積まれていた。
「魂を抜いた後の人たちを、どこかへ運んでますね。」
「どこに運ぶんだろ? 嫌な感じだ……。」
ワイチ、小次郎、エレナは物陰に身を隠しながらその先へ進んだ。
工場の奥へ進むにつれて、先ほどまで響いていた金槌の音に混じり、ゴウン、ゴウンという低い音が大きくなっていく。
その先には、魂を失った黄泉の住人たちを積んだリアカーが六台ほど並び、列の先では巨大な円筒形の機械から突き出た何本もの棒を、たくさんの屍侍たちが押しながらグルグルと回していた。
一台のリアカーには何人もの抜け殻が重なるように積まれ、魂を抜かれたばかりの者たちも後ろから運ばれてきた。
先頭のリアカーに積まれた抜け殻が巨大な投入口へ次々と放り込まれていくと、ゴウン、ゴウンと回転していた機械の反対側から、レンガほどの大きさに固められたピンク色をした直方体が押し出されてきた。
ゴトン、ゴトン。
出来上がった直方体は大きな木箱へ詰められ、機械の中へ抜け殻が放り込まれるたびに、その数を増やしていった。
「まさか……あれ、さっきの人たちから作ってるのか……?」
「なんて酷いことを……。」
先頭のリアカーが空になると二台目が運ばれ、同じように抜け殻が投入口へ放り込まれていく。
その途中、排出口から出てきた直方体を一人の屍侍が取り、そのまま端をかじっていた。
「おい! 食うなよ! また怒られるぞ! それは魔物どもの分だぞ!」
「こんだけあるんだ、一つぐらいいいだろ、腹減ってるんだよ。」
「勝手に食うんじゃねえよ! また将軍様に怒られるぞ! さっさと箱に詰めろよ!」
「魔物の……餌……。」
「魂を剥がした人たちを……今度は魔物の餌にしてるのかよ……。」
「人をなんだと思ってるんだ……。」
二台目が空になると三台目が運ばれ、その後ろには新たな抜け殻を積んだリアカーが加わっていく。
遠くでは魂を抜く作業も続いており、ガンッという金槌の音に続いて黄泉の住人の叫び声が響くたび、新たな抜け殻がこちらへ運ばれてきた。
「これ全部、餌にするのか……。」
三台目の抜け殻が次々と機械へ放り込まれていく中、エレナが小さく声を漏らした。
「そ、そんな……おじいちゃん……おばあちゃん……。」
「四台目……手をつないでいる二人……。」
「くっ、すでに……抜かれていたのか……。」
四台目のリアカーには、大勢の抜け殻に混じって年老いた男女が並んで横たわり、魂を失って色の薄くなった手を互いにつないでいた。
「……一緒に収容所から逃げようとした二人です……。」
ゴウン、ゴウンと巨大な機械が回り続ける中、三台目に残っていた抜け殻が次々と投入口へ消えていく。
やがて三台目のリアカーが空になると、屍将軍の声が響いた。
「次! 四台目を回せ!」
じいさんとばあさんを乗せたリアカーが、巨大な機械へと運ばれていった。
四台目のリアカーが巨大な機械へ運ばれていく中、先ほど作られていた黒い雫は、屍薬師たちによって工場のさらに奥へ運ばれていった。
「黒い雫をどこへ持っていくんだ……?」
その先の部屋では、赤や黄色に変色した黄泉の住人たちが何人も椅子へ縛りつけられ、周囲を屍侍たちに囲まれていた。
「お、おい……なんだよ、これ? こ、これから俺に、何をする気なんだ……?」
「聞いてんのかよ? 俺の質問に答えろよ……。」
「頼むよ、誰か教えてくれよ……何をするんだよ……。」
黒い雫の入った小瓶が運ばれてくると、黄泉の住人たちの間にざわめきが広がった。
「おい、それ、な、なんだよ……。」
「おい、聞いてんのか? 何を飲ませる気だ!」
「やめろ! そんなもの近づけるな!」
赤く変色した男の鼻を屍侍が塞ぐと、男は必死に抵抗した。
「んんっ! んんんっ!」
「やめろ! そいつに何するんだ!」
「離してやれよ!」
息を止めて耐えていた男が苦しさに口を開いた瞬間、黒い雫の小瓶を突っ込まれた。
「さっさと飲め! 飲み込め!」
「んぐっ……! ぐっ……!」
「やめろおおおっ!」
一本分すべてを飲まされると、赤かった霊体に黒い筋が浮かび上がり、瞬く間に全身へ広がった。
「うっ……なんだ…………ぐあああああっ!」
「おい! どうした!」
「しっかりしろ!」
男の身体つきが変わり、黒い鎧が全身を覆っていった。
「ワ、ワイチ! あれは……屍侍じゃないですか!」
「嘘だろ……あの人が……。」
先ほどまで助けを求めていた男から抵抗する様子が消れた。
「おい、さっさと立て! そこに並べ!」
「ワァァァウ!」
屍侍となった男は命じられた場所へ移動し、そこで立ち止まった。
「よし、そこで待機していろ。」
「そんな……さっきまで必死に助けを求めてたのに……。」
「姿だけじゃない……意識まで変えられてるのかよ!」
「人を無理やり兵に変えて、言うことまで聞かせるなんて……!」
目の前で何が起きるのかを知った黄泉の住人たちが一斉に騒ぎ始めた。
「嫌だ! あんなものになりたくない!」
「嫌だ! あんなのになるなら、死なせてくれ! 頼むから消してくれ!」
「誰か! 誰か助けてくれ!」
「いい叫び声だ! 必死にもがくのを聞くと興奮してくるわ! もっと叫べ、喚け!」
「嫌だ! 殺せ! さっさと殺せ!」
「五人も犠牲にして黒い雫を作って、魂を抜いた後は魔物の餌にして……その黒い雫で別の人間を屍に変えて、言うことまで聞かせるのかよ……!」
「こんなことのために黄泉の人たちを捕まえていたなんて……酷すぎます!」
助けを求める声が部屋中に響く中、黒い雫の入った小瓶は次の黄泉の住人へと運ばれていった。
黒い雫を作るための魂も、魔物へ与える餌も、そしてワイチたちがこれまで戦ってきた屍たちも、すべて黄泉から連れ去られた住人たちから作られていた。
【次回予告】
小次郎です。
あの工場で見たもの……決して、このままにはできません。
ワイチ、まずは皆さんのところへ戻りましょう。私たちだけで動くには危険すぎます。
次回、第93話「黒の連鎖を止めろ」。
これ以上、黄泉の人たちを犠牲にはさせません!




