旅支度計画
緑狸の里での休養を終えたワイチたちは、根の国のさらに奥へ進むため、これからのことを話し合っていた。
「そろそろ根の国の先へ進まないとな。」
「次は黒雷がいた第一の門より先か。」
「そうなるんだけど、この先もっと奥まで進んだら、補給や休むために毎回ここまで戻ってくるのは大変じゃないか?」
「第二の門から黒雷がいた第一の門まででも、かなり距離があったからな。」
「その先がどれだけ続いているのかも分かりません。奥へ進むほど、往復するだけでも時間がかかりますね。」
「だったら、ある程度の荷物を持って進んだ方がいいんじゃないか?」
「それと、根の国の途中に休める場所も欲しいですね。第二の門と第一の門の中間くらいに拠点を作れれば、そこを使いながら先へ進めます。」
「まずは食料だな。」
「食材は多めに用意しておくよ。向こうでも料理できた方がいいでしょ?」
「それなら、鍋とか調理に使う道具も必要だね。」
「ポーションも多めに持っていきましょう。回復を魔法だけに頼るわけにもいきませんから。」
「傷の手当てに使う物も必要だな。」
「武器を手入れする砥石もいる。長く向こうにいるなら、手入れできねえと困るからな。」
食料や調理道具、ポーション、傷の手当に使う物、砥石と、必要な物を挙げていくうちに、全員で背負って運べる量ではなくなっていた。
「これだけ持っていくなら、運ぶ方法も考えねえとな。」
「荷車でもあれば、一度に運べるんじゃないか?」
「正宗さん、作れますか?」
「それなら作れるぞ。根の国を進むんだ、簡単に壊れねえように、それなりに頑丈なやつにした方がいいな。ただ、ここじゃ道具が足りねえからちょっくら赤狐の里まで行って借りてくるよ。使えそうな材料があれば、それも貰ってくる。」
「荷車を使うなら、向こうで壊れた時のために工具や修理用の材料も積んどいた方がいいな。その場で直せりゃ、わざわざ戻る必要もねえ。」
「これで荷物は何とかなりそうだな。あとは休む場所か。」
「それでしたら、天照様から授かった天幕がありますよ。」
「天幕ですか?」
「二張りありますので、野営する時には天幕を張って、その周囲に霊水を撒いてください。天照様の加護によって、邪なるものから皆さんの姿や気配を隠してくれます。」
「それなら、第二の門と第一の門の間に拠点を作れそうだな。」
「ただし、霊水を撒くのだけは忘れないでください。天幕を張っただけでは駄目ですからね。」
「そういや三吉さん、針ってまだ作れるのか?」
「作れますよ。」
「小次郎も、肘のあそこを刺激すりゃ炎を出せるって分かったんだ。だったら小次郎の分もあった方がいいんじゃねえかと思ってさ、どうだろ?」
「それなら、小次郎さんの分も用意しておきますね。それと、霊水は多めに持っていってください。」
「霊水を多く?何故ですか?」
「根の国で針を使った場合、一度身体に刺した針には血が付きます。その血が根の国の空気に触れると邪気が寄ってしまいますから、もう一度使う時には必ず霊水で清めてください。」
「小次郎、忘れんなよ。使った針は必ず霊水で清めろよ。」
「武蔵にだけは言われたくないですよ。こういうこと、一番忘れそうじゃないですか。」
「なにぃ!? 俺だってそれくらい覚えてるわ!」(忘れていたけど)
根の国で必要になる物が決まり、正宗は荷車を作るための道具や材料を揃えに赤狐の里へ向かい、ワイチたちも旅支度を始めた。
赤狐の里へ向かった正宗は、鍛冶場を訪れると、これから作ろうとしている荷車について相談した。
「根の国の奥まで進むことになってな。食料や薬だけじゃなく、天幕や道具までまとめて運べる荷車を作りてえんだ。」
「それだけ積むとなると、普通の荷車では少し厳しいですね。根の国は道も悪いんでしょう?」
「ああ。平らな場所ばかりじゃねえから、多少荒れたところを通っても壊れねえようにしたい。」
「でしたら、荷台は少し大きめにして、車輪の周りも補強しておいた方がいいでしょう。それと、荷物が増えても耐えられるようにしておいた方がよさそうですね。」
「そいつはいいな。途中で壊れて立ち往生なんて御免だからな。」
「せっかくですから、私も手伝いますよ。その方が早く仕上がります。」
「助かるよ。じゃあ、頼む。」
二人は必要な材料を揃え、根の国を進むための荷車作りに取りかかった。
その頃、緑狸の里でも旅支度が進んでいた。
「食料と食材はこれで大丈夫だよ。調理道具もまとめておいたからね。」
「こっちはポーションと傷の手当に使う物を用意しました。少し多めにありますから、しばらくは大丈夫だと思います。」
「天幕と霊水、それから針も用意できましたよ。」
次々と準備された物が一か所に集められていくと、食料だけでもかなりの量があり、そこへ二張りの天幕や調理道具、ポーション、霊水などが加わっていった。
「こうして集めると、結構な量だな。」
「荷車を作ることにして正解でしたね。これを全部持って歩くのは大変です。」
「これだけあれば、いちいち戻ってこなくても何日かは向こうで動けそうだな。」
準備が整った頃、赤狐の里では荷車が完成していた。
「よし、こんなもんだろ。」
「かなり積めるようにしてあります。これなら根の国でも使えると思いますよ。」
「ありがとな。ついでに向こうで直せるよう、工具も借りていっていいか?」
「もちろんです。補修に使えそうな物も一緒に持っていってください。」
「助かるよ。壊れるたびにここまで戻ってくるわけにもいかねえからな。」
正宗は工具と補修用の材料を荷車に積み、そのまま緑狸の里へ戻った。
「できたぞ。」
「おお、これなら全部積めそうだな。」
「そのために作ったんだ。工具と修理に使える材料も借りてきたから、こいつも一緒に積んでおくぞ。」
用意していた食料や調理道具、ポーション、傷の手当に使う物、二張りの天幕、霊水、針、砥石が荷車へ積み込まれ、最後に正宗が持ち帰った工具と補修用の材料も加わった。
「これで全部か?」
「必要な物は揃っていると思います。」
「よし。あとはこれを引いていくだけだな。」
「ところで、これ誰が引くんだ?」
「これだけ人数がいるんだ。交代で引きゃいいだろ。」
「まあ、それが一番だな。疲れたら代わればいい。」
「疲れたと聞いたら私の番かな♪?!」
阿国はハリセンを振りかざしていた。
「なんで、おいらをみるんだよ、ワイチ怖いよ。」
「ははははは」
皆の笑いが場の雰囲気を緩めた。
旅支度を終えたワイチたちは、荷物を満載した荷車とともに緑狸の里を出発した。
「よし、これで根の国まで一気に行くか。」
「ちょっと待て。この荷車、転移できるのか?」
「……無理じゃないか? さすがに大きすぎるだろ。」
「荷物だけ運んでも、荷車を置いていったら意味ねえしな。」
「仕方ねえ。第二の門まで、このまま引いていくぞ。」
ワイチたちは転移を使わず、荷車を交代で引きながら黄泉坂を進んでいった。
「おい、晴明、そろそろ代わってくれ。思ったよりこいつ重てえぞ。」
「武蔵さん、さっき出発したばかりですよ。」
「うるせえな。だったらお前が引いてみろ。」
「はいはい、なら式神に引かせますよ。」
「ずるいな!なら最初から式神に引かせろよ!」
「それは疲れるから嫌ですよ。」
荷車を引く者を替えながら黄泉坂を進み、第二の門が近づいてきた。
「もうすぐ第二の門だな。」
「ここを越えれば、また根の国ですね。」
「……おい、ちょっと待った。」
第二の門の近くにあった風と雷の墓は、盛られていた土が崩れ、大きく掘り返されていた。
「風と雷の墓が……なんだよ、これ……。」
「誰だよ! こんなことしたのは!」
「魔物が掘り返したのか?」
「それとも、この辺りには埋めたものを食う魔物でもいるのか?」
「せっかくここに埋めてやったのによ……。」
「気をつけて進んだ方がよさそうですね。」
「そうだな。行くぞ。」
ワイチたちは再び荷車を引き、第二の門をくぐった。
門を抜けると、乾き切った大地にねじれた枯れ木が立ち並び、その先には漆黒の闇がどこまでも広がっていた。
「またここに戻ってきたな。」
「今度はここから先へ進むんだ。」
「荷物もたっぷりあるしな。しばらく戻らなくても大丈夫だろ。」
「まずは拠点を作る場所を探しながら進みましょう。」
荷車の車輪が乾いた地面を転がり、ワイチたちは根の国の奥へ向かって進み始めた。
【次回予告】
しん吉「しん吉と!」
きゅうすけ「きゅうすけの!」
二人「次回予告!」
しん吉「準備もできたし、いよいよ根の国の奥へ出発だ!」
きゅうすけ「ここから先は、まだ何があるのか分からないから気をつけないとね。」
しん吉「大丈夫だって! 食い物もいっぱい持ってきたし!」
きゅうすけ「食べ物があれば大丈夫って話じゃないよ。」
しん吉「腹が減ったら戦えないだろ?」
きゅうすけ「それはそうだけど、しん吉、全部食べちゃ駄目だからね。」
しん吉「食わねえよ! おいらをなんだと思ってんだよ!」
きゅうすけ「食いしん坊。」
しん吉「即答すんなよ!」
きゅうすけ「でも、本当にこの先には何があるんだろうね?」
しん吉「そんなの行ってみなきゃ分かんねえよ!」
きゅうすけ「そうだね。それじゃあ――」
しん吉「次回、第90話「『根の国の人?』」
しん吉「……人?」
きゅうすけ「さあ?」




