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世界を救ったのは剣豪でもなく陰陽師でもなく薬師?だったんですよ!  作者: 氣愛注入


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涙の帰り道

静まり返った黄泉坂の第一門前には、重く冷たい空気がただよっていた。

地面には、かつて杉山神社で共に過ごした風と雷の変わり果てた姿があった。

武蔵と小次郎が振り下ろした刃は、あまりにも重く、仲間の胸を締めつけていた。


「風……雷……っ」


武蔵は二刀を下ろし、血の滲む唇を噛み締めたまま動かず、小次郎もまた、抜いた刀を握りしめたまま、うつむいたきり一言も発しなかった。


しん吉ときゅうすけは小さく丸くなり、ぽろぽろと涙をこぼしながら風雷のそばに寄り添っていた。


ナリアは震える手で治癒の祈りを捧げ、阿国は顔を覆って声を殺して泣いていた。


空海は静かに目を閉じ、合掌していた。黄泉の冷気をわずかに揺らしていた。


ワイチは崩れ落ちた二頭のそばに膝をつき、その体にそっと手を当てた。

「……風ちゃん、雷ちゃん……」


ワイチの絞り出すような声が、誰の耳にも重く響いた。

このまま阿吽を放置することはどうしてもできなかったが、二頭の体は魔物と化した影響で大きく、この黄泉から連れ帰ることは到底できなかった。


一行は話し合い、その場に丁寧に墓を作り、手厚く埋葬して弔うことにした。


土を掘り、二頭を眠らせ、その上に石を積み上げ、墓標の前で誰もが言葉を失い、すぐに次の門へ向かう気持ちになど到底なれなかった。


心も体もすり減り、持ち合わせの物資も底をつきかけていた。


一行は一度第一の門から引き返し、山を登った天照の社がある休憩所を経て、かつて立ち寄った「緑の狸の里」まで戻ることにした。


緑の狸の里へ戻った一行は、長老のもとを訪れた。


「長老、お願いがあります」


「黄泉の第一の門に、風と雷を眠らせてきました。あの子たちを、この里へ連れ帰る方法はありませんか?」


長老は目を閉じ、しばらく黙っていた。


「……お気持ちは痛いほど分かります。しかし、それは残念ながらできません」


「な、なぜですか?」


「黄泉へ出入りできる者は限られております。まして、あれほど巨大化した魔物を運び出すことは、人の手では不可能です」


「……そうか。やっぱり、あの場所に眠らせてやるしかなかったんだな」


ワイチたちは現実を受け入れ、噛み締めるように頷いた。


里の中でわずかな休息を取り、不足していた物資の補給を済ませた。


その最中、仲間たちの胸には、あの柞雷に対する怒りと憎しみが激しく渦巻いていた。


(あんな非道なやり方で、仲間を操り、おれたちに殺させるなんて……絶対に許さねぇ!)


全員の心に、同じ決意が灯っていた。次こそはあの柞雷を討ち取り、仲間の仇を討つことを胸に秘めた!


出発の準備が整い、里をあとにする直前だった。 三吉が静かに歩み寄り、武蔵の前に姿を現した。


「あのさ、武蔵さん」


三吉は落ち着いた様子で、真剣な目で武蔵を見上げた。

「ん? どうした、三吉」


「前の戦いでさ、奥義を出すために自分の体に太い杭を打ち込んだだろ?あんなものを打ったら絶対に痛いし、体にものすごい負担がかかってるはずだ。それを聞いてさ……これ、使ってよ」


三吉が差し出したのは、小ぶりながらも鋭く妖しい光を放つ、何本もの小さな「霊針」だった。


「こりゃ……一体?」


武蔵が目を丸くすると、


「杭みたいに力任せに打ち込まなくても、この霊針なら気と血が交わる流点を正確に突くことで、これまでと同じように血流と気を爆発的に高められるんだ。医療の里であるうちの知識を込めた針だから、杭と同等以上の力が出せるし、何よりあんたの体への負担や痛みがぐっと軽くなるはずだよ」


武蔵はその霊針を手に取り、じっと見つめた。 己の肉体を限界まで追い込むための痛みを伴う杭打ちは、戦う上で避られないものだと思い込んでいた。


「……そうか。ありがとな、三吉。大事に使わせてもらうぜ」


武蔵が頼もしく笑うと、三吉は小さくうなずいた。

補給を終え、決意を新たにした一行は再び緑の狸の里を発ち、第一の門を抜けて黄泉坂の奥へと足を踏み出した。


風雷の眠る地を背に、第二の門へと続く険しい山道を登っていく。


どれほど歩いただろうか。 第二の門へと向かう道の中間付近に差し掛かった時、小次郎がふと足を止めた。


「……おい、あんなところに。何かあるぞ?」


小次郎が指さした先、黄泉の薄暗い道沿いに、ぽつんと灯りをともした一軒の建物が佇んでいた。


まさか、こんな死者の世界に店があるはずがない。


「茶屋……か?」


武蔵が目を凝らし、晴明や空海も怪訝な面持ちでその建物を見つめた。


黄泉の道に突如現れた謎の茶屋。 警戒と困惑が入り交じる中、一行はその建物へとゆっくり近づいていった――

予告 晴明です。


風と雷との別れは、あまりにもつらいものでした。


仲間の想いを胸に刻み、私たちは再び黄泉の奥へと歩みを進めます。


その道中で見つけたのは、死者の国には似つかわしくない、一軒の茶屋。


旅人を迎えるその灯りは、本当に安らぎを与えてくれる場所なのでしょうか。


それとも――。


次回、第75話「謎の茶屋」。


ぜひ、お楽しみに!


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