神具を揃えて
王都へ戻ったワイチたちは、そのまま竜王の間へ向かった。
「よく戻った。青龍様のもとへ向かってから長い旅になったな。何があったのか、最初から最後まで聞かせてくれ。」
「ただいま戻りました。皆のおかげで無事に王都へ戻ることができました。
私たちは青龍様のもとへ向かい、イザナミと黄泉についてお尋ねしたのですが、青龍様はそのことについてお答えになることができず、大烏天狗様を訪ねるよう教えてくださいました。
私たちは大烏天狗様のもとへ向かい、八咫鏡を通して天照大神とお話しすることができました。
そこで天照大神から、イザナミを止めるためには黄泉へ向かわなければならないこと、そして黄泉へ向かうには三種の神具が必要だと教えていただきました。
その時、最初の神具である八咫鏡を授かり、大烏天狗様から、小次郎さんの右腕が治るかもしれないと教えていただきました。
私たちはその言葉を頼りに緑の狸の里へ向かい、小次郎さんの右腕を元に戻すことができました。
そのあと麒麟様のもとで八尺瓊勾玉を授かり、最後に酒呑童子様から天叢雲剣を授かりました。
これで三種の神具をすべて揃えることができました。
ただ、帰り道に土雷と鳴雷が現れ、戦いになりました。
退けることはできましたが、八雷はすでに動き始めています。
イザナミ側も、こちらの動きを把握しているかもしれません。
そして三種の神具は揃いましたが、黄泉の入り口がどこにあるのか、まだ分かっていません。
神具を揃えれば黄泉へ向かえると思っていましたが、入り口までは分かりませんでした。
以上が今回の旅で分かったことです。」
「よく分かった。
黄泉の入り口について、お前たちの中で何か目星はついているのか。」
「現時点では、何もわかっていません。」
「そうか。
では、入り口のヒントから探っていくしかないな。」
「私たちも、そのつもりです。」
ハロルドと別れたワイチたちは、そのまま仲達のもとを訪ねた。
「只今、戻りました。」
「ずいぶん長い旅だったな、何があった。」
ワイチは青龍のもとを訪れてから王都へ戻るまでの出来事を順を追って報告した。
天照大神から、イザナミを止めるためには黄泉へ向かわなければならないこと、そして黄泉へ向かうには三種の神具が必要だと教えられたこと。
八咫鏡、八尺瓊勾玉、天叢雲剣を授かり、三種の神具を揃えたこと。
帰り道で土雷と鳴雷が現れ、戦いの末に退けたこと。
八雷が動き始めていること。
そして、三種の神具は揃ったものの、黄泉の入り口だけは分からなかったことまで、すべてを話した。
「そうか、天照大神から直接その話を聞き、三種の神具まで揃えて戻ってきたのか。
しかも土雷と鳴雷まで現れたとなれば、八雷が動き始めているという話も間違いないだろう。
三種の神具が揃っても、黄泉の入り口だけは分からなかったのだな。」
「はい、私たちも三種の神具が揃えば黄泉へ行けると思っていましたが、入り口だけは最後まで分かりませんでした。」
「それなら王都へ戻ってきた判断は正しい。
今のまま探し続けても、新しい手掛かりは見つからなかっただろう。
まずは、分かっていることを整理してみよう。」
ワイチは八咫鏡、八尺瓊勾玉、天叢雲剣を仲達の前へ並べた。
「天照大神は、この三種の神具が必要だとは仰ったが、それ以上のことは話されなかったのだな。」
「はい、黄泉へ向かうには必要だと教えていただきましたが、それ以上のお話はありませんでした。」
「ならば、ここから先は私たちで考えるしかない。
まずは三種の神具について、分かっていることを一つずつ整理していこう。」
「天照は、黄泉へ入るには三種の神器が必要だと言っていた。」
「神器はすべて揃いましたが、黄泉の入り口がどこにあるのかは分かりません。」
「天照が入り口を教えなかったのなら、三種の神器から導き出せるようにしてあるのかもしれん。」
仲達は大きな地図を広げた。
「八咫鏡は麒麟に、八尺瓊勾玉は大烏天狗に、天叢雲剣は酒呑童子に託された。天照は、なぜ三つの神器を三人に分けて守らせたのか。なぜ、あの三か所を選んだのか。」
麒麟がいた北西の湖と、大烏天狗がいた南の街道の先を線で結び、そこから酒呑童子がいた北東の山奥へ伸ばすと地図の上に大きな三角形が浮かび上がった。
「この配置そのものに意味があるなら、三つの神器が囲んでいる場所は――例えば、ここだ。」
「え?……ここは……緑の狸の里と赤い狐の里ですよ。」
「赤い狐の里と緑の狸の里だと!」
「二つの里は地図には載っていませんが、この位置はあの里で間違いありません。」
「三つの神器が置かれていた場所を結んだ中心に、地図にも記されていない二つの里があるというのか。」
「偶然で、こんなふうに重なるはずがない。」
「では、あの二つの里に黄泉の入り口が?」
「まだ推測にすぎないが、天照があの場所を囲むように三種の神器を配置した理由は、確かにあるはずだ。」
「天照は、黄泉へ入るには三種の神器が必要だと言ったならば、この三つを揃えた者にだけ分かる仕掛けがあるはずだ。」
仲達は八咫鏡を手に取り、八つある角を確かめるように縁へ指を滑らせていくと、指先がわずかな引っ掛かりを捉えた。
「ん?これは……」
八つある角の一つに、爪先ほどの小さな切り欠きが刻まれていた。
「こんなところに切り欠きがあるぞ、鏡を外すためのものか?」
仲達が切り欠きへ爪を掛けて持ち上げると、鏡面の一角が外枠から浮き上がった。
「鏡面が動いた。」
浮いた隙間へ指を掛け、そのまま持ち上げていくと八咫鏡の本体だと思われていた鏡面が、八角形の外枠からゆっくりと外れた。
「八咫鏡は、鏡面を取り外せるようになっていたのか。」
鏡面の下から現れたのは、複雑な紋様が刻まれた八角形の台座の中央には、八尺瓊勾玉と同じ形の窪みがあった。
「この窪みは……八尺瓊勾玉の形か?」
八尺瓊勾玉を窪みへ収めると、勾玉から光が流れ出し、台座に刻まれた紋様を走った。
光が八つの角を巡ると、台座の中央から一本の細長い溝が現れた。
「まさかこの溝は、天叢雲剣がはまるのか?!」
天叢雲剣の切っ先を溝へ差し込むと、勾玉から伸びた光が刀身へ流れ込んだ。
仲達が外した鏡面を元の位置へ重ねると、鏡面は外枠へ収まり、三種の神器が一つの形へ組み上がった。
八咫鏡の中央に一本の光の針が浮かび上がり、鏡の内側を回り始め、やがて光の針は一点で止まった。
「緑の狸の里と赤い狐の里の方角を指しているな。」
神器の向きを変えても、光の針は弧を描いて同じ方角へ戻った。
「やはり、あの二つの里の方角だ。」
「天照は、三つの神器を集めた者だけが黄泉の場所へ辿り着けるようにしていたのか。」
「三種の神器そのものが、黄泉への羅針盤だったのだ。」
「黄泉の入り口は、二つの里のどちらかにあるということですか?」
「針が示しているのは、どちらか一方ではない。二つの里がある方角だ。」
「なら、入り口を見つけるには現地で確かめるしかないですね。」
「三種の神器を持って行けば、近づくほど詳しい位置が分かるはずだ。」
「黄泉へ入る方法も、入り口まで行けば分かるのでしょうか?」
「そのために三種の神器が必要だと、天照は言ったのだろうな。」
「では、次に向かう場所は緑の狸の里と赤い狐の里で決まりですね。」
「では、出発はいつにする?」
「すぐに準備を始めて、黄泉へ入ったあと、何が待っているか分からないからな、必要な物はすべて揃えていきましょう!」
黄泉への道は、二つの里から始まるようだ。
【次回予告】
晴明
「三種の神器が導く先は、地図にも載らない緑の狸の里。」
「そこに、黄泉への入口があるという。」
「いよいよ黄泉への旅が始まる。」
「次回――『黄泉への道』。」
「お楽しみに。」




