「酒呑と麒麟」
緑の狸の里を出発した一行はわ、残された二つの神具を求め、麒麟の湖へ向かっていた。
「麒麟の湖までは、四日ほどだったな。」
「前に来た時も、それくらいかかりました。山を二つ越えるので、今日のうちに少しでも進んでおきましょう。」
「四日も歩くなら、途中で温泉宿に泊まりてぇな。うまい飯と酒があって、給仕をしてくれる綺麗な姉ちゃんまでいたら、次の日は朝から元気に歩ける。」
「そんな宿が山の中にあるわけねぇだろ。俺は温かい飯が食えれば、それで十分だ。」
「しん吉は欲がなさすぎるんだよ。旅先でしか食えない物や、その土地の酒を楽しむのも旅の醍醐味だろ。」
「腹に入れば何でも一緒だ。それより正宗さんは、旅先で楽しみにしてる物はないのか?」
「良い鉄と炭が見つかれば、それでいい。土地が変われば採れる鉄も水も変わる。刀を打つつもりがなくても、見ておいて損はない。」
「やっぱり鍛冶のことばかりなんだな。きゅうすけが酒と女のことばかり考えてるのと同じだ。」
「一緒にするな、俺の方が旅を楽しんでる。」
「正宗さんも十分楽しんでるだろ。良い鉄を見つけたら、きゅうすけが美女を見つけた時と同じくらい喜ぶんじゃないか?」
「それなら俺と正宗さんは似た者同士だな。」
「どこがだ!正宗さんに失礼だろ。」
「お前が言うなよ。」
三人の話は途切れることなく続き、一行は山を越え、谷を抜け、四日後に麒麟の湖へ到着した。
湖のほとりには、以前と変わらぬ大きな岩台があり、その近くに黄金の麒麟がいた。
「麒麟様、お久しぶりです。天照大神から、八尺瓊勾玉をお預かりするよう申しつかってきました。」
ワイチが天照大神から預かった鏡を取り出すと、鏡の表面から白い光があふれた。
麒麟は岩台の前へ歩み寄ると、大きく前脚を振り上げた。
ドォンッ――。
岩台が大きな音を立てて崩れ落ちた。
砕けた岩の奥には、人が一人入れるほどの空間が広がり、その最奥には黒い宝箱が静かに納められていた。
「岩の中が空洞になっていたのか。」
「こんな場所に隠されていたなんて……。」
「外から探しただけじゃ、絶対に見つからないな。」
ワイチは空洞の奥へ進み、宝箱の前に立ち、ゆっくりと蓋を開いた。
箱の中には、透き通るような光を宿した八尺瓊勾玉が納められていた。
「これが、八尺瓊勾玉……綺麗だ。」
「二つ目の神具ですね。」
「残る神具は、酒呑童子が持つ草薙剣だけだ。」
ワイチは八尺瓊勾玉を両手で受け取り、麒麟へ向き直った。
「麒麟様、長い間、大切に守ってくださり、ありがとうございました。必ず三種の神具をそろえ、天照大神から託された役目を果たします。」
麒麟へ深く頭を下げた一行は、最後の神具を求めて酒呑童子のもとへ向かった。
一行は麒麟の湖を後にし、最後の神具を求めて酒呑童子の住処へ向かった。
「これで残る神具は草薙剣だけですね。」
「ようやく最後だな。」
「酒呑童子様なら、また歓迎してくださいますね♪」
「また酒を飲めって言われそうだ。」
「武蔵さん、草薙剣を受け取る前から飲まないでくださいね♪」
「そこまで待てねぇ酒好きじゃねぇよ。」
見覚えのある岩場へたどり着くと、大きな笑い声が響いた。
「グハハハハ! よく来たな!」
「酒呑童子様、お久しぶりです。」
「みんな元気そうだな。今日は何しに来た?」
「天照大神様から預かった鏡を持って参りました。草薙剣をお預かりするよう命を受け、伺いました。」
「鏡を見せてみろ。」
ワイチが八咫鏡を掲げると、鏡から白い光があふれ、酒呑童子を包んだ。
「なるほどな。天照大神様の御意思は確かに受け取った。」
酒呑童子は草薙剣を手に取った。
「実はな、お前さんたちが最初にここへ来た時は話せなかったが、俺はこの草薙剣を守るために、ここで待っていた。」
「前に若雷の奴を追っ払っただろ。あれからも何度となく奪いに来たが、そのたびに追い返してきた。」
「天照大神様から預かった神具を渡す時が、ようやく来たってわけだ。」
酒呑童子は草薙剣をワイチへ差し出した。
「さあ、受け取れ。」
ワイチは草薙剣を両手で受け取った。
「ありがとうございます。これで八咫鏡、八尺瓊勾玉、草薙剣、三種の神具がすべてそろいました。」
「なら今日は祝いだ! 三種の神具がそろい、俺の役目も終わった。こんな日に酒を飲まねぇ理由はねぇ!」
「やっぱりお酒になりましたね♪」
「ここまで頑張ったご褒美ですね♪」
「今日は少しだけですよ。」
「分かった、今日は祝いだからな。」
酒呑童子は酒と料理を並べ、宴が始まった。
「武蔵、お前さんは相変わらず豪快に飲むな。」
「この酒がうまいからだ!」
「阿国も飲め、前に来た時もうまそうに飲んでいたからな。」
「ありがとうございます♪ 酒呑童子様のお酒、大好きです♪」
「そう言われると造ったかいがある。」
「村正宗、お前さんとは初めて会うな。」
「初めまして、赤いキツネの里で鍛冶師をしております村正宗です。皆さんの旅に同行し、武器や防具を任されております。」
「鍛冶師か。今度は酒を飲みながら刀の話を聞かせてもらおう。」
「ぜひお願いいたします。」
「こうして皆さんと一緒に食事ができるのは幸せですね。」
「本当ですね♪ 旅の途中で、またこんな楽しい時間を過ごせるとは思いませんでした♪」
「ここまで来られたのも、みんなのおかげだ。」
宴は笑い声に包まれながら、夜更けまで続いた。
「安倍晴明、お前に預けておく物がある。この髪を持っておけ。陰陽師のお前なら分かるだろう。この髪を使えば俺を召喚できる。本当に力が必要になった時だけ呼べ。どこにいても必ず駆けつける。」
「酒呑童子様のお力をお借りできるとは心強い限りです。本当に必要となる時まで、必ず大切に保管いたします。」
「酒を飲みたくなったから呼ぶんじゃねぇぞ。」
「それは武蔵さんに渡した時の心配ではありませんか♪」
「俺なら毎晩呼ぶぞ。」
「やっぱり晴明に渡して正解だったな!」
笑い声が再び岩場へ響き、三種の神具がそろった夜は穏やかに過ぎていった。
翌朝、一行は酒呑童子へ礼を告げ、草薙剣を携えて王都への帰路についた。
一行は、王都へ続く山道を進んでいた。
前方から尺八の音が響いてきた。
やがて、笠を深くかぶった二人の虚無僧が道の中央で立ち止まった。
「酒呑童子との宴は楽しめましたか?」
「お前たちは誰だ?」
「ふふふ、忘れたんですか?以前、私と会ったでしょ?私は土雷ですよ。」
「あ!土雷、なんでここに?そいつも仲間か?」
「こちらは鳴雷です。私達は、イザナミ様より生まれた八雷です。イザナミ様の命により、お前たちをここで止める為にきました。」
「八雷だと?」
「あの若雷と一緒にしないでくださいよ。あのバカは、八雷の中で格下ですからね!」
「僕ちんなんて、ものすごく強いんだよ。腕立て伏せ百回、腹筋百回、背筋百回を毎日やってるんだよ。漢字の書き取りも一日一ページやってるんだよ。」
「ところで、お前が吹いてるの、尺八じゃなくて大根じゃねえか。」
「え!なんで気づいたの?」
「鳴雷、尺八はどうした。」
「忘れてきたから、大根を吹いていたの。誰にも言わない秘密だけど。」
「それ言ったら秘密にならんだろ。」
「私たちはかなり強い!頭が良い!君達よりかなり格上なんですよ。だから私達がお前たちごときを直接相手にする必要はないのです。」
「そうそう、僕ちんが相手をする必要は無いのです。」
「お前たちには、私の素晴らしいこいつで十分なのです。」
土雷が黒い種を地面へ落とした。
地面を突き破り、巨大な植物が姿を現す。
ジャジャーン
「紹介します、駄留草です。」
「なんか妙にぐったりしてるな。」
「さぁ、駄留草、お相手してあげてください。ん?さっどうしました?」
「まだぐったりしてるのよねん」
「しょうがないな」
土雷は、手首を切り、その血を駄留草にかけた!
怠羅草は大きく口を開き、一行へ咆哮を響かせた。
「なんかやる気になったみたいだぞ!」
「さぁ、やっておしまい!」
予告 阿国です♪
駄留草を倒したと思ったら、今度は八雷が動き出します!
土雷さんと鳴雷さん、なんだか不思議な二人ですけど、このまま終わる相手とは思えません。
王都までは、もうすぐ。
待っているのは新たな戦いなのか、それとも別の試練なのか。
次回、第69話「二人の八雷」。
ぜひ、お楽しみに♪




