赤と緑が合わさる道
「右腕を再生させるには、鳳凰の羽が必要じゃ。」
「鳳凰の羽……。」
「骨だけでは右腕は再生できないのじゃ。」
「鳳凰はこの二つの里を見守る神聖な鳥で、谷から山にかけてを住みかとしておる。近づけば一帯が黄色く輝き、その光だけが居場所を知らせる。アゲダマの実や清らかな川の水を好み、里では供え物もしておるが、いつ現れるかは誰にも分からぬ。」
「問題は羽なんじゃ。姿を見せても必ず落とすとは限らず、落ちてもそのままでは霊力が散ってすぐ消えてしまうので、拾った瞬間に霊絹で包まねばならぬ。少しでも遅れれば跡形もなく消えてしまうのじゃ。」
「なので、鳳凰に出会えるかも分からないし、出会えても羽が落ちる保証はないのじゃ。落ちてもすぐに霊絹で包めなければ消えてしまう為、滅多に手に入らない。これが一番の難関なんじゃよ。」
「かなり厳しいですね。忍耐が必要そうだ。」
「小次郎の右腕のためだ。やるしかねぇ。」
一行と狸、狐たちは鳳凰の羽を求め、谷全体を監視した。
数日後、谷の一帯が黄色く輝いた。
「黄色く輝いたぞ! 鳳凰だ!」
一行と二つの里の者たちは、一斉に谷へ集まった。
朱色の翼を広げた鳳凰が静かに姿を現した。
鳳凰はアゲダマの実を食べていた。
やがて羽を毛繕いし、一枚の羽がゆっくりと地面へ舞い落ちた。
「羽が落ちたぞ!」
赤いキツネの里の者たちが駆け出した。
「俺たちが拾うぞ!」
「待て! その羽は緑の狸の里のものだ!」
互いに譲らず言い争ううちに、羽は淡い光を放ち始めた。
「消えちまう、早く拾え!」
誰かが手を伸ばした瞬間、羽は光となって消えていった。
「あーあ、消えちゃった!」
「狐共! お前たちが邪魔をしたからだ!」
「うすら狸が! そっちこそ邪魔したからだ!」
互いを責め合ったまま、その日は何も得られなかった。
きゅうすけもしん吉も呆れた顔でため息をついた。
数日後、再び谷が黄色く輝いた。
前回より早く谷へ集まった両里の者たちは、互いを警戒しながら鳳凰を待っていた。
鳳凰は小川の水を飲んでいた。
十分に水を飲み終わると、周りを見回し大きく羽ばたいて行った。
その拍子に、一枚の羽がふわりと舞い落ちた。
「今度こそ、取るぞ!」
両里の者たちは一斉に飛び出した。
「狐共、どけ!」
「どくのはそっちだ、狸!」
押し合いが始まり、誰も羽へ近づけない。
その間に羽はまた光となって消えた。
「まただ……大事な羽が……。」
「狐たちさえいなければ!」
「狸が、何を言う!」
しん吉ときゅうすけの苛立ちが募っていた。
数日後、谷は再び黄色く染まった。
両里は一目散に谷へ駆け下りた。
鳳凰は供物として祭壇に供えられていた油揚げを食べていた。
「これは狐の里の祭壇だ! 俺たちが取る権利があるぞ!」
お腹いっぱいになった鳳凰は勢いよく羽ばたいて、森の中へ消えていった。
その瞬間、一枚の羽が舞い落ちた。
「今だ! 行けー!」
狐たちが走り出した。
それを見ていた狸の一人が、狐の足を引っ掛けた。
「今だー! 狐たちが転んだぞ! 急げー!」
一人の狐が石を拾い、先頭の狸へ投げつけた。
石は狸の肩に当たった。
「もう我慢ならねー! 狐を許すな!」
「汚い狸に制裁だー!」
狐と狸は激しく殴り合いを始めた。
壮絶な喧嘩をしている間に、羽は誰の手にも渡ることなく光となって消えていった。
その様子を見続けていたしん吉は、ついに堪忍袋の尾が切れた。
「いつまでこんなくだらないことを続けるつもりなんだ!」
しん吉の怒声が谷に響いた。
「鳳凰の羽が落ちるたびに、お互い邪魔して! 三回も羽を消したじゃねぇか!」
「狸どもが邪魔をしたからじゃ!」
「先に邪魔をしたのは狐どもだ!」
「いい加減にしろ!まだ相手のせいにするのか!」
「先祖代々、わしら狸は、狐共を信用してはならんと伝えられてきたんじゃ!」
「うちらだってそうだ!先祖代々、わしら狐は、ずる賢い狸共を信用してはならんと伝えられてきたんじゃ!」
「だったら、その教えが間違ってるんだろうが!昔からそうだったからって、これからも同じことを続けるのか!」
「お前たちは隣同士の里なんだぞ! 困った時に一番早く助けられるのは、遠くの誰かじゃねぇ! すぐ近くにいる相手だろうが!」
「赤いキツネの里には、大鹿の角を加工する技術がある!」
「緑の狸の里には、身体を治す医術がある!」
「どっちか一つだけじゃ、小次郎さんの腕は治せねぇんだ!」
「力を合わせれば素晴らしい結果になるのに、狐だから、狸だからって争って、必要な鳳凰の羽まで三回も消したんだぞ!」
「そんな争いに何の意味があるんだよ!争って何か得したのか!」
「里が豊かになったのか!誰かが幸せになったのか!何もねぇだろうが!」
「おいらは…おいらは悔しいよ。」
「……わしらは、昔からの教えを守ってきただけじゃ。」
「その結果がこれだろ!目の前に必要な羽が現れても、相手を邪魔することしか考えなかった!」
「それをこの先も続けるのか!子供たちにも、同じことを教えるのか!」
「キツネだから狸を憎め、狸だからキツネを憎めって、また同じ争いを受け継がせるのか!」
「そのうち、あんたらは殺し合いまで始める勢いだよ……」
しん吉は、泣いていた。
「……それは違う。そんなことはさせない。」
「確かに、こんな意地の張り合いは、わしらの代で終わらせねばならんな。」
「狸の長老、私らが悪かった、これからは里のためにも仲良くやりましょう。」
「狐の長老、こちらこそ悪かった、お互いの発展のためにも、仲良くやりましょう。」
「すまんな、さっき足を引っ掛けて、本当に悪かったよ。」
「こっちこそ、石を投げて。怪我はないか?」
「これまでの争いは、今日で終わりじゃ。これからは、互いに足りぬものを補い合おう。」
「赤いキツネの里にしかできぬことは、わしらが引き受ける。」
「緑の狸の里にしかできぬことは、わしらが引き受けよう。」
「小次郎殿の右腕も、二つの里で力を合わせて治しますぞ!」
「昔からの争いじゃなく、今日ここで決めたことを、次の者たちに伝えていこう。」
黄色い光が谷を満たし、鳳凰が二つの里の前へ舞い降りた。
鳳凰は片方の翼を広げ、自ら一枚の羽を抜き、赤い羽は黄色い光に包まれたまま、二つの里の間へ差し出された。
「鳳凰が……羽を。わしらに託してくださるのか。」
「霊絹をとってくれ。」
「鳳凰が、わしらの和解を認めてくださったんじゃ。」
「これで小次郎さんの右腕を治せる!」
「鳳凰の羽は、緑の狸の里で大切に使わせてもらう。」
「小次郎殿の右腕を、必ず元に戻せそうだ。」
しん吉ときゅうすけは肩を組んで、二つの里の人の背中を見て喜んでいた。
次回予告 武蔵
「長い間争い続けてきた赤いキツネの里と緑の狸の里は、ようやく手を取り合うことができた。
力を合わせることの大切さを知り、二つの里は新たな一歩を踏み出したんだ。
俺たちも、小次郎の右腕を取り戻し、また前へ進むことができる。
立ち止まっている暇はねぇ。
世界を救う旅は、まだまだ続くんだからな。
次回 『ツバメが舞う、どこまでも』。」




