青龍が語る
王都を発ったワイチたちは、青龍の住む洞窟へ向かっていた。
街道を外れて森へ入ると、木々の間を流れる水音が少しずつ近づいてきた。湿った土と苔の匂いが漂い、枝葉の隙間から差し込む陽射しが、細い道の上で揺れている。
やがて岩壁の間に洞窟が現れ、その奥から澄んだ水が流れ出していた。
「青龍様、いらっしゃいますか!」
ワイチの声が洞窟の奥まで響くと、水面に波紋が広がった。渦を巻いた清流の中から青龍が姿を現した。
「久しいな。皆でここへ来たということは、若雷との戦いは終わったのじゃな」
「若雷は倒しましたが、青龍様には心苦しいお話をしなければならないことがあります。先代の青龍様は若雷にその血を奪われていました。玄武様、白虎様、朱雀様も同じです。若雷は先代四神の血を四本の妖刀に使い、大量の血を集めて儀式を行いました」
「その儀式によって生まれたのが、闇神獣です。玄武様の体に朱雀様の翼、白虎様の顎と牙を持ち、尾には青龍様の頭がついていました。瘴気をまとい、傷を負っても回復を続け、最後には若雷まで喰らい瘴気の塊となりましたが、皆で力を合わせ、どうにか倒すことはできました。」
「先代たちは、若雷に殺されただけではなく、その血まで利用されておったのか……。お前たちが闇神獣を倒してくれたことで、先代四神の魂もようやく眠ることができるじゃろう。礼を言う」
「ただ、若雷を倒しただけでは終わりませんでした。戦いが終わった直後、土雷という者が現れ、その者の口から、イザナミ、黄泉の扉という言葉も出ています。俺たちは土雷が何者なのかも、イザナミや黄泉の扉が何を意味するのかも分かりません。青龍様が以前言っていた根の者とは?教えていただけませんか」
「何!土雷じゃと……土雷という名は知っておる。若雷と同じく、間違いなく根の者だ。根の者は、こことは違う世界の者である。」
「だが、奴らが、この世界に来てるとなると……嫌な予感がする。」
「イザナミや根の者に関しては、詳しいことは、私の口からは話せんのじゃ、すまぬ。」
「そのことを知っている方に心当たりはありませんか」
「大烏天狗なら、何か知っておるかもしれぬ。あやつは長い時を生き、わしの知らぬ古い話にも通じておる。土雷、イザナミ、黄泉の扉について聞くなら、大烏天狗を訪ねるがよい」
「以前お会いした大烏天狗様ですね。土雷のことも、イザナミのことも、黄泉の扉のことも聞いてみます」
「では、大烏天狗様のもとへ向かいます。ありがとうございました、青龍様」
ワイチたちは青龍の住処を後にし、大烏天狗の祠を訪れた。
「大烏天狗様、いらっしゃいますか?」
「ワイチか。久しいな」
「ご無沙汰しております。今日は、お聞きしたいことがあって来ました」
「何があったのじゃ?」
「俺たちは若雷を追って蛇骸ヶ原へ向かい、若雷は四本の妖刀から生まれた闇神獣に喰われました」
「若雷が闇神獣に喰われたのか?」
「はい、俺たちはなんとか闇神獣を倒し、その直後、土雷と名乗る男が現れたんです」
「土雷だと! 土雷までこの地へ現れたのか。この地へ姿を見せた以上、若雷を倒して終わったとは考えられぬな」
「土雷をご存じなのですか?」
「うむ。若雷と土雷は、八雷と呼ばれる八柱の神のうちの二柱じゃ」
「八雷とは何なのですか?」
「お前たちが暮らすこの世界とは別に、黄泉の国、根の国、イザナミ宮と呼ばれる三つの地があり、そこには八雷と呼ばれる八柱の神がおる。若雷と土雷も、その一角じゃ」
「だから若雷は、人間離れした力を持っていたんですね」
「そのとおりじゃ。若雷がこの地で何をしようとしていたのかは分からぬが、土雷まで現れたとなれば、八雷の動きが若雷一人だけのものではない可能性もある」
「土雷は、若雷を殺したのは俺たちかと聞いてきました。そして、闇神獣に喰われた話をしたら、あいつは勝手なやつだと言ったんです」
「若雷を止めるために来たのではないのか?」
「分かりませんが、土雷は若雷が死んだことを喜んでいるようでした。そのあと、持っていた黒い水晶から女の声が聞こえてきたんです」
「何と申しておった?」
「私の大事な一部を壊したな。この世界も許さない。黄泉の扉が開くのも近い。止められるかな、と」
「その声は、イザナミと名乗りました」
「イザナミが、黒い水晶を通してお前たちに告げたのじゃな?」
「はい、俺たちにはイザナミが何者なのかも、黄泉の扉が何なのかも分かりませんでした。王都でも誰一人知る者はおらず、青龍様を訪ねたのですが、青龍様もご自身の口からは話せないと仰いました。そして、大烏天狗様なら知っているかもしれないと教えてくださったのです」
「それで我のもとへ来たのじゃな」
「残りの六柱も、この世界へ来る可能性があるのでしょうか?」
「それは分からぬが、若雷に続いて土雷まで現れたとなると、残る六柱が動かぬと断言することもできぬ」
「八雷は、黄泉の国や根の国を治めている神なのですか?」
「八雷がその三つの地にいることは確かじゃが、それぞれが何を担っているのか、我もすべてを知っておるわけではない」
「では、イザナミとは何者なのですか?」
「その名は知っておるが、我が軽々しく語れる御方ではない」
「黄泉の扉についても話せないのですか?」
「黄泉の扉が開けば、黄泉や根にいる者、魔物達がこちらに来ることになる。そうなれば、みなまで言わなくてもわかるな」
「イザナミは、その扉を開こうとしているのでしょうか?」
「お前たちが聞いた言葉から考えれば、扉が開く時が近づいていることは間違いあるまい」
「それでは、俺たちは何を止めればいいのかも分からないままです」
祠に祀られていた鏡から白い光があふれ、ワイチたちの前に広がった。
「む! 少し待て。我を呼んでいるな。席を外す」
鏡を持って大烏天狗が戻ってきた。
「こちらの方がお前たちと話をしたいと申しておる」
次回予告 晴明
ここで終わりではない。
一つの答えへ辿り着いたと思えば、その先には、さらに深い謎が待っておる。
わしらの歩みは、まだ始まったばかりじゃ。
次回、第63話「世界を語る者」。
見逃すでないぞ。




