血に飢えた闇のもの
若雷は刀で左の掌を裂き、滴る血を二つの黒い結晶へ浴びせると、そのまま戦場へ放り投げた。
地面へ叩きつけられた結晶から黒煙が噴き上がり、八本の腕すべてに刀を握る屍将軍と、二枚の巨大な盾で全身を覆う屍将軍が煙を押し分けて現れた。
「あはははっ! お前ら食べたいだろ? こいつらを刻んで生き血も残らず飲め! 魂ごと全て喰らい尽くすんだ!」
「では、誰から殺すかなぁ」
右側から振り下ろされた刀を武蔵が主刀で受け止めたところへ二本、三本と立て続けに刃が重なり、主刀一本では支え切れないと悟った武蔵は脇差を抜いて二刀を交差させ、そのまま叩きつけられた四本目を受け切った。
ギィィィィィン!!
踏み締めた足元が崩れ、土煙が弾け飛んだ。
「これはあかん!」
琵琶の重い音が戦場を走り、若雷達の攻撃力が下がる。
「負けるかぁぁっ!!」
武蔵は四本の刀を押し返す勢いのまま主刀を横一文字に振り抜いた。
ガァァァン!!
二本の刀で受けた八本腕の巨体が土を抉りながら横へ弾き飛ばされた。
「そこだ、もらった!」
武蔵は間合いを詰め、横薙ぎの軌跡へ脇差を重ねて十字に断ち切ろうと振り下ろした。
カァァン!!
横から滑り込んだ巨大な盾が脇差を弾き返し、八本腕の前へ二枚の盾が重なった。
「お前は逃がさん!」
小次郎が若雷へ踏み込んだ。
キィン!!
一本の刀が小次郎の刃を外へ弾いた。
「甘い甘い!肉切らせろ!」
肩口、脇腹、腹へ三本の刀が一斉に襲いかかる。
「あぶない! 絶界!」
ガガガン!!
透明な壁へ三本の刀が突き刺さり、白い波紋が幾重にも広がった。
「邪魔するんじゃねー!切らせろ! 殺させろ!」
ガガガガガン!!
四刀で四方八方から絶界を切りにかかる!
四本の刀が休むことなく絶界を打ち据え、透明な壁が大きく歪んだ。
「なんと言う連続攻撃だ、まだ……保ちます!」
四本の刀が弾かれた一瞬、
「そこだ!飛燕!」
懐へ滑り込み、首筋へ走らせた!
カァァン!!!
刃へ巨大な盾が割り込み、火花とともに刀が高く弾き上げられた。
「くっあの盾が邪魔だ!」
「ああ! あれを崩さねぇ限りきれねぇ!」
八本腕の屍武者が武蔵めがけて飛び込み、八方向から八本の刀が一斉に降り注ぐ。
武蔵は一歩引くと主刀を地面すれすれから一気に振り上げた。
ギィィィィン!!
八本の刀が一斉に跳ね上がった。
弾かれた八本の刃は、その勢いのまま再び武蔵へ振り下ろされた。
武蔵は主刀を返し、脇差を滑らせる。
キィン!!
ガァン!!
カキィン!!
火花が散った、その一瞬。
ザシュッ!!
死角から抜けた一本が肩口を裂き、鮮血が飛び散った。
返した脇差へさらに一刀が叩きつけられた。
ガァァン!!
痺れた指先から脇差が離れ、土の上を転がった。
カラン――。
「武蔵様!大丈夫ですか?」
白い光が肩口を包み、滴り落ちる血が止まり始めた。
晴明が式神を放つ!
「式神、鬼よいけ!」
式神が五体の鬼となり、一斉に若雷へ襲いかかった。
「バカにしてるのか!俺も舐められたものだな!」
シュバァッ!!
振り下ろされた金棒より早く四本の刀が一瞬にして弧を描いた!
ザンッ!!
鬼の首は一気に飛び、一拍遅れて五体の鬼は黒い霧となって崩れ落ちた。
五体の式神は、若雷へ触れることすらできなかった。
「このままでは押し切られます!」
「このまま守っとるだけやと、ジリ貧や!」
「一体でも早く数を減らさなあかん!」
「だったら攻撃してくる八本腕から落とす!」
「晴明!双盾を止められるか!」
「任せてください!」
「若雷は俺が止める!」
「ならば先手必勝やね!」
阿国が笛を吹くと、澄み渡る音色が戦場へ広がり、武蔵の身体が軽くなった。
「武蔵様、回復は私が続けます! 安心して行ってください!」
白い光が武蔵の身体を包み、裂けた肩口がみるみる塞がっていく。
「行くぞぉぉっ!!」
小次郎の刀が若雷の懐へ飛んだ。
「お前が俺の相手か。早く切り刻まれろ。その叫び声を聞くのが楽しみなんだ。」
「貴様に負けるか! 飛燕!」
キィィン!!
白刃と黒刃がぶつかり合い、火花が弾けた。
ザシュッ!!
飛燕が若雷の肩を浅く裂き、黒い血が宙へ飛び散る。
「入った!」
だが、傷口から瘴気が溢れ出すと、裂けた肉は蠢きながら瞬く間に塞がっていく。
「そんな……傷が塞がった!?」
「まだまだ!」
キィン!!
キィィン!!
キィィン!!
飛燕の斬撃はことごとく四本の刀に弾き返され、若雷は小次郎へ休む間もなく斬撃を浴びせ続けた。
「晴明、今です!」
晴明が印を結び、
「業火・極!」
双盾を囲むように業火が円を描いて燃え上がり、燃え盛る炎が逃げ道を塞ぎ、双盾は踏み出そうとするたび炎へ阻まれ、その場へ足を止めた。
「今だぁぁっ!!」
武蔵が八本腕の懐へ飛び込んだ!
八方向から八本の刀が一斉に降り注ぐ。
ギィィィィン!!
主刀が八本の刀をまとめて跳ね上げた。
その瞬間、弾かれた八本の刃が振り下ろされるより早く、武蔵が懐へ潜り込む。
ズバァァッ!!
刀身が青く輝き、四本の腕を豪快に斬り捨てると一気に宙を舞った。
「終わりだぁぁっ!!」
返した主刀が首を薙ぎ払った!
ザンッ!!
八本腕の首が宙を舞い、巨体が轟音とともに地面へ崩れ落ちた。
ドォォォン!!
「やった!」
「まず一体!」
「ちっ……斬られたか。」
若雷が懐から小瓶を取り出し、八本腕へ投げつけた。
パリン……
小瓶が割れ、黒い雫が八本腕の屍将軍へ降り注ぐ。
その瞬間――
「ギャァァァァァァッ!!」
地の底から無数の絶叫が噴き上がった。
黒い地面から半透明の亡霊たちが次々と這い上がる。
「早く成仏させてくれぇぇぇ!!」
「お願いだぁぁ!!」
「もう離してくれぇぇぇ!!」
亡霊たちが天へ向かって必死に手を伸ばした、その瞬間。
地面から無数の黒い腕が這い出し、亡霊たちの足や腕、身体へ一斉に絡みつく。
「いやだぁぁぁ!!」
「助けてくれぇぇぇ!!」
必死にもがく亡霊たちは黒い腕に地の底へ引きずり込まれ、黒い靄となって八本腕の屍将軍へ吸い込まれていく。
ゴキッ……
ゴキゴキッ……
転がった首が胴へ引き寄せられ、裂けた首筋が黒い肉を蠢かせながら繋がっていく。
切り落とされた四本の腕が再び生え揃い、八本の刀がゆっくりと持ち上がった。
「復活の雫……これがある限り何度斬っても無駄なんだよ。」
「そ、そんな……。」
「人の魂は、こうやって使うのさ、雫はまだまだあるぜ。」
次回予告
ワイチです。
八本腕を倒したと思った、その瞬間でした。
復活の雫――人の魂を喰らい、何度でも蘇る最悪の力。
このままでは、何度斬っても終わりません。
どうすれば若雷を止められるのか。
どうすれば、この悪の連鎖を断ち切れるのか。
みんなで力を合わせ、必ず攻略法を見つけます。
次回――
第56話 悪の根を断ち切れ
絶対に、この戦いを終わらせます。




