若雷の儀式
「若雷……今まで倒してきた三体を、一つに融合させたのか!?」
「えへへ……。」
「そうだよぉ。」
「君たちが壊した三体でぇ……君たちを壊すためだけに作った、とっておきなんだぁ。」
「命まで弄ぶとは……!」
「はははは! マンモスちゃん、いっぱい遊んできてぇ!」
「パオオオオオオオッ!!」
マンモスドムが雪煙を巻き上げながら突進し、鼻から噴き出した吹雪で一行の視界を白く閉ざすと、左右の耳元に生えた巨大なハサミから火炎弾を連続で撃ち込んだ。
「このままでは全員まとめて吹き飛ばされる! 結界で受け止めるぞ!」
空海が広げた結界へ吹雪が激突し、白く凍りついた表面へ火炎弾が次々と炸裂した。
「正面から受け続けるのはまずい! 俺たちが左右へ回って、攻撃を散らすぞ!」
武蔵と小次郎が結界の左右から飛び出した瞬間、三本の尾が頭上から襲いかかった。
「三本とも来ます! 毒針をまともに受けないでください!」
武蔵は振り上げた刀で毒針を弾き返し、尾を大きく横へ飛ばすと、行く手を塞いだ炎を刀で左右へ裂き、割れた炎の奥から走った雷を身をかわして、その勢いのまま足元を突き破った土の槍を切り払って前へ進んだ。
一方、小次郎は二本目の尾を刀で流した直後、喉元へ迫った三本目へ刀を跳ね上げ、毒針を打ち返して横へ抜けると、押し寄せた濁流を刀で割りながら駆け抜け、肩口を狙った風の刃を紙一重でかわし、視界を覆った闇を切り裂いた。
「このままでは懐へ入れません! 一度結界へ戻って、攻撃を崩す順番を決めましょう!」
武蔵と小次郎が結界へ戻った直後、吹雪と火炎弾が再び正面へ叩きつけられ、結界の表面を覆った霜が内側まで迫った。
「どこから崩せば突破できますか?」
「至近距離では、鼻からの吹雪と耳のハサミが邪魔です。火炎弾が止まれば懐へ入れます!」
「鼻を潰せば、吹雪は止まるのかな?」
「鼻の流点が見えています。霊杭を打ち込めば、止まりはしなくても弱められるかもしれません!」
「なら、ハサミは俺たちが落とす。鼻の方は任せていいか?」
「私が霊杭を打ち込みます。吹雪が弱まったら、そのまま懐へ入ってください!」
「速度を上げた方がいいですか? それとも属性を弱めますか?」
「速度を頼む。この火炎弾を抜けるには、少しでも早い方がいい!」
阿国は笛を取り出した。
「回復は私が支えます。攻撃を受けても止まらずに進んでください!」
「ナリアの気はおいらが補うよ! 鐘を止めさせないから、みんなは前だけ見て!」
「おいらの炎で火炎弾を少しでも減らす! 二人が近付く道は任せろ!」
「鬼ども、二人が近付くまで時間を稼げ!」
晴明が式神を放ち、鬼たちは金棒を振りかざしてマンモスドムへ一斉に襲いかかった。
「はははは! みんなで頑張っても遅いよぉ! 鬼ちゃんたち、まとめて壊しちゃえ!」
六つの鬼面が並び、十二の瞳が同時に光ると、口から放たれた六つの力が一つになって絶界へ衝突した。
「このままでは破られる! 全員、衝撃に備えろ!」
ドォンッ――!
その力が絶界を大きく揺らした。
メキメキメキッ――!
絶界を走った亀裂が一気に広がった。
パリンッ――!
絶界が粉々に砕け散り、吹雪と火炎弾が剥き出しになった一行を飲み込んだ。
「リカバリーベル! 傷は私が塞ぎ続けます、ここで倒れないでください!」
鐘の音とともに広がった光が全員を包み、吹雪に切り裂かれた肌と火炎弾に焼かれた傷を次々と癒やした。
「まだ立てるなら、もう一度だ! 今度は絶界で攻撃を押し返す!」
空海が張り直した絶界へ吹雪と火炎弾がぶつかり、砕けた氷と炎が外側へ弾け飛んだ。
「速度を上げます! 吹雪の切れ目を逃さず、ハサミまで一気に駆け抜けてください!」
阿国が笛を吹き始めると、鋭く駆け上がる音色が武蔵と小次郎を包み、二人の足元から舞い上がった雪が一瞬遅れて後方へ散った。
「右の火炎弾はおいらが減らす! 左は二人で突破してくれ!」
灸介が吐き出した炎が右から迫った火炎弾へぶつかり、互いを焼き潰しながら赤い火の粉を撒き散らした。
「隙ができた! 今ならハサミまで届く、このまま左右から落とすぞ!」
武蔵と小次郎が絶界を抜けた途端、三本の尾が再び頭上へ回り込み、毒針を二人の背中へ突き下ろした。
「鬼ども、尾を近付けるな! 二人がハサミを落とすまで押し返せ!」
一本目の尾へ鬼の金棒が横から叩き込まれ、毒針が武蔵の背後を掠めながら雪原へ突き刺さると、二本目は別の鬼が両腕で抱え込んだ金棒に食い込み、そのまま巨体ごと横へ押し流された。
残る一本が小次郎の首筋へ迫ったが、武蔵が脇差で毒針を下から跳ね上げ、尾を頭上へ反らした。
「尾の軌道は逸らした! 今なら撃たれる前にハサミを落とせるぞ!」
右のハサミが口を開き、喉の奥へ赤い炎を膨らませた。
「その火炎弾ごと、俺が潰す!」
武蔵が水刃をまとった太刀を根元へ叩き込み、火炎を押し潰しながら右のハサミを断ち切ると、切断面から噴き出した黒い瘴気が水に洗い流され、地面へ落ちる前に細かな塵となって消えた。
左のハサミも大きく開き、火炎弾を吐き出そうと内部の炎を膨らませた。
「そのまま撃てば、自分の炎で燃え尽きますよ。」
小次郎の刀が開いたハサミの中央を真っ二つに断ち、行き場を失った火炎弾が内側で炸裂すると、朱雀の炎が左右へ割れたハサミを包み込み、黒い瘴気ごと焼き尽くして灰へ変えた。
「パオオオオオオオオッ!!」
両耳のハサミを失ったマンモスドムの絶叫が蛇骸ヶ原を震わせ、焼け落ちた灰と浄化された塵が吹雪の中へ散っていった。
「やめてよぉ! マンモスちゃんのハサミを壊さないでよぉ! 痛いよねぇ、苦しいよねぇ!」
「これで火炎弾は止まりました。次は鼻の吹雪を弱めます!」
ワイチが霊杭と鉄槌を取り出すと、マンモスドムは三本の尾を持ち上げ、鼻へ続く正面の進路を塞いだ。
「ワイチが鼻まで近付けるように、道を作る!」
右から振り下ろされた毒針へ武蔵が太刀を叩きつけ、尾を大きく横へ弾き飛ばすと、続けて正面へ突き出された二本目を脇差で受け流し、ワイチの進路から逸らした。
一方、小次郎は三本目の尾が目の前へ落ちてきた瞬間、毒針を刀で跳ね上げ、その下をくぐり抜けながら尾の内側を斬り裂いた。
「今です! そのまま鼻まで走ってください!」
阿国の笛から放たれた鋭い音色がワイチの全身を包み、ワイチは足元の雪を蹴り上げながら、武蔵と小次郎が開いた道を一気に駆け抜けた。
マンモスドムが鼻を持ち上げ、奥から冷気を吸い込むと、白い吹雪が膨れ上がった。
「流点はそこです!」
ワイチは鼻の中央に浮かぶ流点へ霊杭を押し当て、鉄槌を振り下ろした。
カァンッ――!
霊杭が深く食い込み、噴き出した吹雪が大きく揺らぐと、白い奔流はワイチの頭上を掠めて斜め上へ逸れ、砕けた氷と雪が背後へ降り注いだ。
「止まってはいませんが、これなら近付けます!」
「マンモスちゃんに何するんだよぉ! 全部まとめて壊しちゃえ!」
六本の腕がマンモスドムの顔の前まで伸び、六つの鬼面が横二列、縦三列に並ぶと、十二の瞳が同時に光った。
「またあの攻撃が来ます!」
「させるか!」
「うおおおおおっ!」
武蔵が渾身の力を込めて腕へ斬りかかると、太刀はまとめて腕を切り飛ばした。
ザンッ――!
雪原へ落ちた三本の腕は黒い瘴気を噴き出しながら崩れ、跡形もなく消えていった。
一方、小次郎は一番上の腕へ踏み込み、付け根へ刀を振り抜いた。
バシュッ――!
斬り落とされた腕が宙を舞い、切断面から噴き上がった炎に包まれた。
「燕は二羽いるんです。」
小次郎は残る二本の間を駆け抜け、すれ違いざまに刀を返した。
「飛燕返し!」
スパッ! ザンッ――!
残る二本も立て続けに切り飛ばされ、三本の腕が宙を舞った。
「ギャアアアアアッ!」
ゴォオオオオッ――!
切断面から噴き上がった炎が三本の腕を一気に包み、鬼面の叫び声ごと黒い瘴気を焼き尽くすと、燃え残った灰が吹雪の中へ散っていった。
六本の腕を失ったマンモスドムは鼻を持ち上げ、再び吹雪を吐き出そうと冷気を吸い込んだ。
「鬼ども、頭へ叩き込め!」
二体の鬼が左右から跳び上がり、振りかぶった金棒をマンモスドムの頭へ同時に叩き込んだ。
ドゴォンッ――!
「パオオオオオッ!!」
マンモスドムの頭が深く沈み、巨体を支えようとした両前脚が雪原へ大きく突き出された。
「その右脚、もらった!」
武蔵は太刀と脇差を重ね、右前脚へ向かって全身の力を叩きつけた。
「天魔剛界断!」
ズバァンッ――!
交差した刃が巨大な右前脚を根元から断ち切り、切り飛ばされた脚が雪原を削りながら転がった。
「左脚は私が穿ちます。」
小次郎は刀の切っ先を左前脚へ向け、一直線に踏み込んだ。
「瞬燕流・神風牙!」
ドシュンッ――!
白い閃光となった切っ先が前脚を貫き、反対側まで突き抜けると、肉厚な脚の中央に大きな風穴が開いた。
両前脚で巨体を支えられなくなったマンモスドムは前のめりに傾き、頭から雪原へ崩れ落ちた。
ズズゥンッ――!
地面が激しく揺れ、舞い上がった雪煙の中から、体内に埋め込まれた巨大な黒い結晶が露わになった。
「これで終わりです。」
晴明が五行の気を巡らせ、陰と陽の力を黒い結晶の周囲へ重ねると、巨大な太極図がマンモスドムの全身を包み込んだ。
「陰陽の理、天地の調和を以て、穢れを払わん。」
『太極陣』
パチンッ――!
白と黒の光に触れた場所から、マンモスドムの肉も骨も、音もなく細かな塵へと崩れ始めた。
「ああ……マンモスちゃん、いなくなっちゃった。まあ、いっかぁ。あれは飾りだもんねぇ。」
若雷は腰から赤い妖刀を抜き、赤黒い液体が入った瓶を取り出した。
「本当に見せたかったのは、こっちなんだぁ。これをねぇ……こうするんだよ。ほら。」
瓶を傾けると、濃い血が赤い刀身へ降りかかった。
ドォンッ――!
妖刀から噴き上がった邪気が地面を叩き、若雷の周囲を黒い渦となって駆け巡った。血を吸い込んだ刀身が脈打つように明滅し、刃の奥から赤黒い光が膨れ上がった。
「できたぁ。これで本当の妖刀になったよぉ。信長ちゃん、役に立ったねぇ。ずっと使って、ここまで育ててくれたんだぁ。最後に朱雀ちゃんの血を浴びせて、やっと完成したよぉ。」
「四神の血を使っただと……?」
「そうだよぉ。このために、先代の四神はみんな僕が殺したんだぁ。」
若雷は残る三本の妖刀を抜くと、赤い妖刀とともに切っ先を地面へ突き立て、四本で四角を描くように配置した。
「この赤い刀は朱雀ちゃん。この三本も、白虎ちゃん、青龍ちゃん、玄武ちゃんの血に染まってるんだよぉ。」
四本の妖刀が呼応するように震え、甲高い金属音を響かせた。刀身から流れ出した邪気が地面を這い、四角の中央へ集まり始めた。
「今の四神たちは、すぐに代替わりした若造だから、もう血はいらなかったんだけどねぇ。せっかくだから僕の使える駒にしようと思って、黒い矢を打ち込んだんだぁ。化け物にして、もっと力を蓄えさせれば役に立ったのに……君が全部邪魔してくれたもんねぇ。」
四本の妖刀から溢れた邪気が四角の内側へ集まり、黒い渦を作った。
「四神の血を浴びたこの四本が、闇神獣を復活させる鍵なんだよぉ。あとは、この真ん中へ僕の血をかければ……世界を壊してくれる闇神獣が復活するんだぁ。」
「だけどぉ……君たち、やっぱり邪魔だなぁ。」
青白い体に黒い筋が浮かび上がり、皮膚の下を這い回った。
メキッ――!
背骨が盛り上がり、細かった体が内側から押し広げられた。
メキメキメキッ――!
肩と胸が膨れ上がり、腕も脚も太く引き伸ばされていく。青白かった肌は青黒く染まり、額から湾曲した二本の角が突き出すと、裂けた口から鋭い牙が覗いた。
背中まで伸びた白髪が噴き上がる邪気に巻き上げられ、左右の肩が大きく盛り上がった。
ズブッ――!
肩の肉を突き破り、新たな二本の腕が生え出した。
白い骨が巨体へ次々と食い込み、胸、肩、腹、腰を覆いながら鎧を形作っていく。先代の青龍、朱雀、白虎、玄武から奪った骨が組み合わさり、四神の骨で作られた禍々しい鎧となって若雷の全身を包んだ。
四本の腕が伸びると、骨の鎧から四振りの刀が突き出し、その柄を四つの手が握り締めた。
屍将軍をも上回る巨体は、青黒い肌と白髪、角と牙を持つ鬼の姿となり、四本の妖刀が作る陣の前へ立ちはだかった。
牙の隙間から吐き出された息が黒い瘴気となり、足元の雪を黒く腐らせながら広がった。
「てめえら、まとめて殺してやる。」
次回予告
阿国です。
「マンモスドムを倒したと思ったら、あの男……今まで隠していた姿を現したわ。四神の血を奪い、その骨まで身にまとっていたなんて、どこまで命を弄べば気が済むのよ。
でも、もう好きにはさせない。ここまで追い続けてきたすべてを、今度こそ終わらせるわ。
次回、第55話――血に飢えた闇の者。」




