黒き招待状
数日が過ぎても、若雷の行方は掴めなかった。
「各地へ調査隊を出していますが、有力な情報が入ってきませんね。」
「これだけ探しても手掛かりが見つからないとはな。」
「このまま待つしかないのでしょうか。」
「以前の目撃情報をもう一度整理して、何か共通点がないか調べ直すのはどうですか?」
「相手の狙いも居場所も分からない以上、今ある情報だけで動くのは危険です。」
誰も打開策を見いだせずにいた。
その時、廊下から激しく駆けてくる足音が近づき、扉が勢いよく開いた。
「失礼します! 大変です!」
兵士は肩で荒く息をしながら部屋へ飛び込み、震える声で報告した。
「ハロルド様! 東門で魔物十二体と交戦しましたが、守備隊だけでは持ちません! 屍武者十体は何度斬っても立ち上がり、後方には巨大な魔物二体が控えています! 大筒と巨大な弓で城壁を攻撃され、このままでは東門を突破されます! どうか加勢をお願いします!」
「何度斬っても立ち上がるだと……。」
「はい! 通常の兵では歯が立ちません!」
「大筒まで使う魔物がいるとは……。復興中で兵も足りていない今、東門を破られれば王都はひとたまりもない。兵だけでは抑え切れん。」
「隊長たちも命懸けで戦っています! ですが、もう限界です!」
「分かった。頼む、力を貸してくれ。」
「分かりました。」
「兵士さんたちは私たちが守ります!」
「結界は俺が張る。」
「敵の動きは私が抑えます。」
「しん吉、きゅうすけ、負傷者を頼む。」
「ようやく新しい刀の出番だな。」
「腕が鳴るぜ!」
ワイチたちは東門へ急いだ。
東門へ到着した瞬間、腹の底まで響く轟音が王都を揺らした。
ドォォンッ!!
黒い砲弾が城壁へ激突し、爆音とともに石壁が砕け散った。
爆風で兵士たちが宙へ吹き飛ばされ、砕けた石片が雨のように降り注いだ。
「うわああぁっ!」
十体の屍武者は城門へ向かって歩みを止めない。
その後方には、屍武者の三倍はある二体の四本腕の魔物が戦場を見下ろしていた。
四本の腕を持つ一体は、上の二本の腕で巨大な大筒を一門ずつ構え、下の二本の腕には漆黒の刀を握っていた。
もう一体は、上の二本の腕で巨大なクロスボウを一張りずつ構え、下の二本の腕には巨大な鎌を握っていた。
「怯むな! 押し返せぇ!」
兵士たちが一斉に屍武者へ斬りかかった。
屍武者が次々と石畳へ崩れ落ちた。
「頼む……これで倒れてくれ!」
倒れた屍武者は再び身体を起こし、無言のまま歩き出した。
「また来たぞ!」
「距離を取れ!」
屍武者の刀が兵士を盾ごと吹き飛ばし、援護に入った兵士も次々となぎ倒されていった。
「隊長! 倒せません! このままでは持ちません!」
「王都へ入れるな! 何としても食い止めろ!」
ドォォンッ!!
二門の大筒が再び火を噴いた。
「伏せろーっ!」
黒い砲弾が炸裂し、爆風が兵士たちを飲み込んでいった。
崩れた隊列へ巨大なクロスボウが続けざまに放たれた。
バシュッ! バシュッ!
黒い矢が盾を粉砕し、その後ろにいた兵士ごと貫き抜いた。
「ぐああっ!」
「次の攻撃が来るぞ!」
混乱の中、漆黒の刀が戦場を大きく薙ぎ払い、兵士たちは咄嗟に身を投げ出した。
漆黒の刃は兵士たちの頭上をかすめ、空を切った。
その直後、刀が通り過ぎた軌跡から黒い靄が噴き出し、周囲の兵士たちを一気に包み込んだ。
「ぐっ……!」
「なんだこれは……!」
「体が痺れるぞ!」
黒い靄を浴びた兵士たちが次々と膝をつき、その場へ倒れ込んでいった。
「刃を避けても駄目だ!」
「あの黒い靄に近づくな!」
武蔵は二本の新しい刀を抜き放つと、小次郎と同時に屍武者の群れへ飛び込んだ。
水の力を宿した二刀が閃き、先頭の二体が黒い気ごと両断され、そのまま石畳へ崩れ落ちた。
武蔵は返す刃で三体目を斬り裂き、その勢いのまま四体目へ踏み込んだ。
小次郎も炎をまとった刀を振るい、刃が触れた屍武者は炎に包まれ、そのまま灰となって崩れ落ちた。
「倒した……。」
兵士たちの間に驚きが広がる。
武蔵と小次郎は休むことなく残る屍武者を斬り伏せ、十体すべてをわずかな時間で倒し切った。
ドォォンッ!!
二発の砲弾が炸裂し、爆風が兵士たちを飲み込む。
大筒を持つ四本腕の魔物は煙の向こうで二門の砲口を武蔵へ向け、もう一体の四本腕の魔物は巨大なクロスボウへ黒い矢を番えた。
空海は兵士たちを結界で包み込み、ナリアは倒れた兵士へ駆け寄り、しん吉ときゅうすけも負傷した兵士の治療を始めていた。
晴明が印を結ぶと、風刃が大筒を持つ四本腕の魔物へ降り注ぎ、魔物は漆黒の刀を振るって風刃を切り払う。
晴明が印を組み替えると、雷鳴とともに雷が大筒を持つ腕へ落ち、魔物は巨体を揺らしながらも砲撃を続けた。
阿国は琵琶を奏でると、重く響く音色が二体の四本腕の魔物を包み込み、その力を削いだ。
武蔵は飛来した砲弾を二刀で斬り裂き、そのまま漆黒の刀へ斬り結び、何度も刃をぶつけ合う。
小次郎は黒い矢を炎をまとった刀で弾き返すと、巨大な鎌の内側へ踏み込み、炎をまとった刀で四本腕の魔物を斬りつける。
武蔵の刀が肩口を裂き、小次郎の炎が脇腹を焼いても、二体の四本腕の魔物はなお攻撃の手を緩めない。
晴明が再び印を組み替えると、風刃が漆黒の刀へ叩きつけられ、その瞬間に武蔵の二刀が斬り込み、続いて落ちた雷が巨大なクロスボウを支える腕を打ち、小次郎はその隙へ踏み込む。
しかし二体の四本腕の魔物は残る腕で武器を振るい、武蔵と小次郎を再び押し返した。
空海の結界には黒い矢が突き刺さり続け、ナリア、しん吉、きゅうすけは傷ついた兵士の治療を続ける。
ワイチは二体の四本腕の魔物へ視線を向けた。
「屍武者とは違う……。胸へ埋め込まれた黒い結晶も一回り大きい。この二体が屍武者を率いる屍将軍なんだ。」
武蔵の二刀が再び屍将軍を斬り裂いた瞬間、胸へ埋め込まれた黒い結晶が傷口から一瞬だけ姿をのぞかせた。
「武蔵さん! 今見えた結晶です!」
武蔵は屍将軍へさらに踏み込み、先ほど裂いた傷口へ二刀を振り下ろす。
屍将軍は漆黒の刀で受け止めるが、ぶつかり合った衝撃で傷口がさらに裂け、胸の黒い結晶が大きく露出した。
「小次郎さん! 結晶です!」
小次郎は炎をまとった刀を露出した黒い結晶へ突き出した。
パキッ。
黒い結晶へ一本の亀裂が走り、武蔵も間髪入れず二刀を振り抜いた。
パキパキパキッ――。
巨大な黒い結晶は砕け散り、二体の屍将軍は全身へ無数の亀裂を走らせながら崩れ始めた。
巨体は黒い晶器となって砕け散り、その中央から一枚の黒い紙が石畳へ舞い落ちた。
ワイチは黒い紙を拾い上げると、表に書かれた「しょうたいじょう」の文字を見つめながら紙を開く。
そこには短く記されていた。
ここまでおいで、待ってるよ。
じゃがいがはら
「じゃがいがはら……蛇骸ヶ原か。」
聞き覚えのない地名に、その場にいた誰も言葉を失った。
【次回予告】
武蔵:
「何度斬っても立ち上がる屍武者に、胸へ黒い結晶を埋め込まれた屍将軍。
ようやく手に入れた手掛かりは、一枚の『しょうたいじょう』だけだった。
あの『じゃがいがはら』って場所に、何が待ってやがるのか。
次回、『蛇骸ヶ原』。
楽しみに待っててくれよな!」




