新たな刃
六面鬼を倒した一行は、そのまま若雷が消えた北へ向かった。
「急ごう。まだ遠くまでは行っていないはずだ。」
森の道は入り組み、木々の影が先を隠している。
街道へ出るたびに前方を確かめ、分かれ道では北へ続く道を選びながら進んだ。
「若雷はいたか?」
「いや、どこにもいねぇ。」
「森を抜けても姿はありません。」
「気配も薄いですね。かなり慎重に逃げたようです。」
「しん吉、きゅうすけ、何か分かるか?」
「匂いも散ってる。これじゃ追えねぇな。」
「闇の気配も残ってねぇ。用心深い奴だぞ。」
「この先も探そう。」
街道は何度も森へ入り、また開けた道へ出る。
遠くまで見渡せる場所へ出るたびに若雷の姿を探したが、その姿は現れなかった。
「ここまで来ても見つからなかった。」
「これ以上は、当てもなく進むだけになりそうですね。」
「悔しいが、今日はここまでだな。」
「今は無理に追うより、次に備えるべきです。」
「全員、六面鬼との戦いの直後です。無理を重ねるのは危険です。」
「では、今日は休みましょう。」
さらに北へ進むと、見覚えのある家並みが見えてきた。
「ソーレ村だ。」
「追っているうちに、ここまで来たんですね。」
「ちょうどいい。ここで休ませてもらおう。」
一行が村へ入ると、畑で働いていた村人が声を上げた。
「ワイチさんたちだ!」
その声を聞いた村人たちが次々と集まってくる。
「また来てくださったんですね!」
「先日は本当にありがとうございました!」
「皆さんのおかげで、村も元の暮らしに戻れました!」
以前は壊れていた柵も直り、畑には青々とした野菜が育ち、子どもたちの声が村中へ響いている。
「村の様子がずいぶん変わりましたね。」
「皆さんが安心して暮らせるようになったおかげです。」
「魔物もほとんど姿を見せなくなりました。」
「こういう景色を見ると、助けに来られてよかったと思いますね。」
「ほんとだね。村の音が明るいもの。」
その時、村の奥から聞き覚えのある鳴き声が響いた。
以前助けた牙猪だった。
牙猪は一行を見つけると、嬉しそうに鳴きながらワイチたちの周りを回った。
「元気そうだな。」
「覚えていてくれたみたいですね。」
「この子、今では村のみんなの人気者なんですよ。」
「畑を荒らすどころか、魔物が近付くと知らせてくれるんです。」
「村の見張り役になってるんですね。」
「助けてもらった命ですから、村のみんなで大切に育てています。」
「おお、立派になったじゃねぇか。」
「牙猪に懐かれるとは、ワイチ殿らしいですな。」
「かわいいですね。最初に見た時とは、まるで雰囲気が違います。」
「怖がられていないのは、この村で大事にされている証拠ですね。」
しん吉は牙猪の顔をのぞき込みながら、「お前、いい顔になったな。村を守ってるって顔だ。」
きゅうすけは牙猪の背中に手を添えながら、「助かった命が誰かを守る。いいことだぞ。」
村には以前の不安がなくなっていた。
壊された場所を直し、畑を耕し、助けた牙猪と共に暮らしている。
若雷を見失った悔しさが残る中で、その穏やかな光景だけは、一行の心を少しだけ和らげた。
その夜、一行は村の宿へ泊まることになった。
夕食を囲みながら、話題は自然と今日の出来事へ移る。
「結局、若雷は見つからなかったな。」
「これだけ探しても姿がない以上、今は追う手掛かりがありませんね。」
「無理に探しても同じことの繰り返しだろうな。」
「焦れば、こちらが消耗しますし。追うにしても、情報がもっと必要ですね。」
「そういや、赤いキツネの里へ預けた武器は、そろそろ仕上がってる頃じゃねぇか?」
「あっ、そうだった。」
「完成しているかは分かりませんが、一度確認しに行く価値はありますね。」
「若雷を追う手掛かりも今はありません。まずは赤いキツネの里へ向かいましょう。」
「そうしよう。」
全員の意見は一致した。
翌朝、一行は村人たちへ礼を告げ、赤いキツネの里へ向かった。
山道を進み、赤い鳥居をいくつもくぐる。
鍛冶場へ近づくにつれて、鉄を打つ音が響いてきた。
カン、カン、カン――。
炉の熱が外まで伝わり、金属の匂いが空気に混じっている。
「戻ってきたぞ!」
「武器はできてるか?」
「騒がしいのう。帰って早々、里中に聞こえておるわ。」
長老が一行を迎えた。
「お久しぶりです。」
「皆、無事で何よりじゃ。」
「ありがとうございます。」
「こちらも準備は整っておる。」
「武器が完成したんですね。」
「村正宗たちも待っておる。さあ、鍛冶場へ参ろう。」
鍛冶場へ入ると、村正宗と赤いキツネの里の鍛冶職人たちが一行を迎えた。
「待たせたな。」
「ようやく完成しました。」
「四神の素材をここまで仕上げるのは容易ではありませんでした。」
「俺一人じゃ無理だった。ここの鍛冶師たちは凄いぞ!俺も勉強になったわ。そして、ここの炎があったから完成した。」
「いやいや、正宗殿の技術も流石です。私たちもかなり良い勉強をさせてもらいました。」
「四神の素材と霊鋼、その両方が揃って初めて、この刃は生まれたのじゃ。」
しん吉は霊鋼を持ち上げながら、「うちの里の霊鋼はすごいんだぞ。」
きゅうすけは炉の火を指しながら、「村正宗がいなかったら、形にはならなかったけどな。」
「お前ら、どっちも誇っていい。これは合同の仕事だ。」
「そうじゃ。人と里の技が合わさった刃じゃ。」
作業台には二振りの刀と一振りの脇差が並べられていた。
最初に現れたのは、小次郎の新しい刀だった。
長い刀身は細く、淡い赤の筋が刃の奥に走っていた。
「小次郎。まずはお前の刀だ。」
「白虎の爪、白虎の鬣、そして朱雀の羽を使っている。」
「長い刀身ですが、朱雀の羽のおかげで驚くほど軽く仕上がっています。」
「これほど軽いとは。」
「白虎の鋭さ、鬣のしなやかさ、朱雀の軽さ。その全てを込めた。」
「小次郎さんに合いそうですね。速さを邪魔しない刀です。」
「長さがあって軽いなら、間合いも広がりますね。」
「炎は刃に宿るぞ!」
「振るたびに炎を纏う。お前の剣筋そのものが炎になる。」
「飛ばす炎ではないんですね。」
「無理に火を撒き散らす刀じゃねぇ。斬る瞬間に炎が乗る。速さを生かして斬り抜けるお前には、それが一番いい。」
「炎をまとった斬撃……舞みたいに綺麗でしょうね。」
「綺麗なだけではありません。炎が乗るなら、斬った相手の穢れにも強く働くはずです。」
「さらに、その刀にはもともと天照の力が宿っておる。霊鋼も合わせてあるゆえ、屍や穢れた魔物も浄化しながら斬ることができるようになっている。」
「これで、屍が出ても刀で対処できるんですね。」
「そうじゃ。斬って浄化できる。」
「小次郎、すげぇ刀じゃねぇか。」
「責任も重いですね。」
「ありがとうございます。」
「この刀には名を付けたいですね。」
「決めたのか?」
「まだです。この刀と共に戦い、その名にふさわしい姿が見えてから付けます。」
「それでよい。」
続いて武蔵の太刀が運ばれてきた。
青みを帯びた刀身には重厚な存在感があった。
「武蔵。次はお前の太刀だ。」
「青龍と玄武の素材を使った。」
「これは、水の刀か。」
「ああ、水の力を宿している。斬撃と共に水刃を放てる。」
「面白ぇ。」
「水刃なら、武蔵さんの力強い斬撃にも合いますね。」
「炎とは違う、重く押し切る水の刃か。」
「相手を斬るだけでなく、押し流す力もありそうですね。」
「玄武の力で非常に硬く、折れにくい仕上がりになっております。」
「それは助かる。」
「武蔵さん、よく正面から打ち合いますからね。」
「おい、ナリアまで言うのかよ。」
「事実です。」
「晴明まで乗るな。」
「太刀にも霊鋼を使っている。浄化の力も備えている。」
「つまり、これも屍も斬れるんだな。」
「そうじゃ。」
「武蔵さんの太刀で前を切り開いて、小次郎さんの刀で速く斬り抜ける。前衛の形がかなり変わりますね。」
「こちらも援護の組み立てを変えられます。」
「私の音も合わせやすくなりそう。火と水なら、場面で役割が分かれるし。」
「回復の側から見ても、前で浄化できる人が増えるのは大きいです。」
続いて脇差が差し出された。
「こちらは霊鋼のみで鍛えた。」
「四神の素材は入ってねぇんだな。」
「材料が足りなかったからの。しかし浄化の力は十分に宿っておる。」
「太刀は水刃と浄化。脇差は浄化。」
「そのとおりじゃ。」
「二刀で戦う武蔵さんには必要ですね。」
「片方だけが浄化できるより、戦いの幅が広がります。」
「ありがてぇ。」
「大きな黒い結晶はこれまでどおり霊杭が必要ですが、屍や穢れた魔物への戦い方は大きく変わるでしょう。」
「頼もしいな。」
「ただし、油断は禁物じゃ。刃は力を与えるが、勝手に勝利を運ぶものではない。」
「分かっています。」
「武器に頼るのではなく、武器に応えられるよう戦います。」
新しい刀を受け取ったことで、一行の戦い方は確かに変わった。
小次郎は白虎と朱雀の力を宿す炎の刃。
武蔵は青龍と玄武の力を宿す水の太刀。
そして二人の刃には、穢れを断つ浄化の力がある。
あと逃げた若雷を追うだけだ!
次の戦いに向けて、新たな力を得た。
「これからどう動く。」
「若雷の名前がわかっただけで新しい手がかりはありません。」
「六面鬼のことも、王都へ報告する必要があります。」
「王も知りたがるでしょうね。」
「司馬懿にも話を通した方がいいかもしれません。」
「情報を整理してから次の手を考えるべきです。」
「一度、王都へ戻ろう。」
「それがいいでしょう。」
「まずは報告それが先ですね。」
「正宗さんは、一緒に戻らないの?」
「俺はもう少し、ここにいる。色々とやりたい事ができた。ここの鍛冶屋とかなり仲良くなったからな。」
「分かりました、では王都に戻りますね。」
「世話になりました。」
「次も無事に戻ってこい。」
「もちろんだ。」
「壊したら直してやる。でも、なるべく壊すなよ。」
「武蔵さん、気をつけてくださいね。」
「なんで俺を見るんだよ。」
「一番心配だからだ。」
「否定できませんね。」
「小次郎まで言うな!」
鍛冶場に明るい声が広がった。
新たな刃を携えた一行は赤いキツネの里をあとにし、王都への道を歩き始めた。
次回予告
村正宗
「若雷……名前が分かっただけでも大きな前進だ。」
「だが、嫌な胸騒ぎがする。」
「あいつは、こんなもんじゃ終わる男じゃねぇ。」
「次に動く時は、もっと厄介なことを仕掛けてくるはずだ。」
「急げよ。手遅れになる前にな。」
次回 『若雷の野望』




