二刀と物干し竿
小次郎はハロルドの剣を軽く振り、
「……この剣でやり合う気ですか?」
「それもそうだな」
武蔵は周りを探し始めた。
少し歩いて舟のそばまで来ると、脇を見て
「お!……これでいっか」
櫂を引き抜き、小次郎に向かって、
「俺の木刀、持っててくれ」
小次郎は受け取った瞬間、腕が一瞬だけ落ちる。
(……なんて重さだ)
(こんなものを、振れるのか)
「そのハロルドの剣、貸してくれ」
武蔵は受け取るとその場に座り込み、
「ちょっと待っとれ」
ハロルドの剣で櫂を削り出した。
ザッ――
ザッ――
「……こんなもんか」
武蔵が櫂を小次郎に放ると、小次郎は軽く振る。
ヒュン。
「……長いですね」
「ハンデだ」
「後悔しますよ」
二人が構えた瞬間、風が止まり、水辺の音が消えた。
張り詰めた空気が、この場を支配する。
一枚、落ち葉が舞う。
小次郎が疾風の如く踏み込む。
(速い)
武蔵の顔が引きつる。
ヒュッ。
武蔵の髪が数本舞い、紙一重でかわすと、そのまま凄まじい音を立てて振り下ろした。
ブンッ。
小次郎はなんとかかわす。
ゴッ。
背後から岩が砕ける音が響く。
小次郎は思わず振り返った。
岩肌が大きく抉れていた。
(……なんて威力だ)
小次郎が踏み込み、
「飛燕」
(さっきより速い!)
武蔵は足元の剣を掴み、小次郎の神速を二刀でなんとか防いだ。
バシィッ。
櫂が欠け、武蔵の木刀も欠けて落ちる。
同時に、落ち葉が地面に触れた。
ハロルドが血相を変えて割って入ってきて
「待て待て待て!!」
武蔵が笑いながら、
「お主、速いな」
小次郎も口元を緩める。
「お主こそ、なんという豪剣だ」
武蔵は欠けた木刀を見つめる。
そして、足元に落ちた剣を握り直した。
(……二刀、これは面白い)
小次郎も削られた櫂へ視線を落とす。
(……悪くない長さだ)
張り詰めた空気がほどけ、そこへ皆が戻ってきた。
「いやぁ、驚いたのぉ」
空海が酒樽を抱えたまま笑う。
阿国は蒸しパンを頬張りながら、
「まさかパンの中に、こんな美味い蜜が入ってるなんて! もう一個買えばよかった……」
ワイチも笑いながら、
「空海、まさかそれ、お酒?」
「今回は樽ごとじゃ」
晴明だけは何も言わない。
紫の扇子だけが、ゆっくり揺れていた。
ワイチは扇子に釘付けになり、
「……なんだよ、その扇子」
晴明は薄く笑うだけだった。
そこへ船頭が慌てて駆け込んでくる。
「す、すみません!! お待たせしました!!」
舟へ乗り込もうとした船頭の動きが止まり、
「あれ? 櫂どこいった?」
舟の脇を探したが見当たらず、少し先に落ちていた物へ視線を下げると木屑が散らばっていた。
「……なんだこれ」
しゃがみ込み、指先で触る。
削りかすだった。
ゆっくり顔を上げ、小次郎の持っている物で止まる。
「ん? あれ……まさか」
近づいた瞬間、船頭の顔が引きつる。
「まさか、削ったのか!? 俺の櫂を!」
ハロルドはバツ悪そうに頭を掻き、
「いや、まぁ……ちょっとな」
船頭は頭を抱え、
「もう使えねぇじゃねぇか……」
ぶつくさ言いながら船小屋へ向かい、しばらくして新しい櫂を肩に戻ってきた。
「ったく……勘弁してくださいよ……」
「皆揃ってますね! では、船が出るぞー」
舟がゆっくり岸を離れ、川の流れる音が皆を穏やかにする。
ワイチは武蔵を見ながら小声でハロルドへ聞く。
「……なんかあったの?」
ハロルドは咳払いしながら、
「……まぁ、ちょっとな」
城下町はだんだんと小さくなっていった。
次回予告
阿国です♪
武蔵さんと小次郎さんは楽しそうでしたね。
でも、私も負けてませんよ?
だって今、とっても大事なものを探しているんですから。
見つかるかどうかは……
次回、刀を探していまそかり
ふふっ♪




