感奮興起
次回予告
晴明です。
武蔵殿と小次郎殿が、なにやら楽しそうにしております。
私は嫌な予感しかしません。
こういう時は大抵、面倒事が起きるものです。
ええ。
大抵どころではなく、必ずです。
では次回、二刀流と物干し竿
第四話 感奮興起
「帰りたいか。」
竜王の声が広間に響く。
ワイチは少し黙った。
「……帰れるなら。」
竜王はワイチを見たまま口を開く。
「異界人は役目を終えると、元の世界へ還る。」
「そう記録には残っておる。」
「本当に帰れるんですか?」
「見届けた者はおらぬ。」
竜王は眉を細めた。
「まずは生き延びよ。」
大臣が前へ出る。
「それでは、まずは城下をご案内しましょう。」
「装備も必要になりますので。」
白髪混じりの男へ視線を向ける。
「こちらはハロルド。」
「城下の案内と護衛を兼任しております。」
ハロルドが軽く頭を下げた。
鎧には古い傷が残っている。
大臣は革袋を渡す。
硬貨の音。
続いて竜の紋章が刻まれた金属札。
「王都の一部施設で使用できます。」
「失くされませぬように。」
武蔵は無造作に受け取る。
その時。
「なら、刀はどこじゃ。」
ハロルドが少し首を傾げる。
「刀?」
「ああ、剣のことですか。」
武蔵は眉をひそめた。
「でしたら川向こうですな。」
「武器屋があります。」
ハロルドは城下町の方を見る。
「では、ご案内しましょう。」
城を出る。
門兵たちがハロルドへ敬礼する。
「ハロルド隊長。」
「ご苦労。」
外はよく晴れていた。
見慣れない小鳥が空を横切る。
少し凸凹した石畳。
子供たちが笑いながら走り抜けていく。
その横で、旅人たちが小声を漏らした。
「あの格好……。」
「東方の人間か?」
晴明を見た男が眉をひそめる。
「……変わった奴だな。」
その後ろのワイチを見て、
男の顔が引きつる。
「……いや待て。」
「もっと変なのがいるぞ。」
「なんだあの格好。」
ワイチは少し下を向いた。
「……なんか、
めっちゃ見られてるんだけど。」
露店には見慣れない果物が並んでいた。
赤い皮の実。
黄色と緑の細長い果実。
ワイチが足を止める。
「……なんだこれ。」
「これはハバネロリーパー。」
「世界で一番甘い実ですよ。」
ワイチは眉をひそめた。
「名前だけ聞いたら、
辛い想像しか出ないんだけど……。」
ハロルドは少し首を傾げた。
「そうですか?」
「うちの子は大好きなんですよ。」
「後でまた買って帰らないと。」
露店の老婆がハロルドを見る。
「あんた、この間の怪我はもういいのかい?」
ワイチが顔を向ける。
「怪我?」
「一角ネズミですよ。」
「最近は街道にも出るようになりましてな。」
ハロルドは苦笑した。
「旅人が襲われることもあるので、
討伐していたんですよ。」
「その時にやられましてな。」
「ネズミ?」
「でも犬ほどの大きさはあります。」
「犬ほど!?」
「油断しました。」
老婆が武蔵たちを見る。
「あんたら、転移してきた人かい?」
「転移……?」
ワイチが聞き返す。
「二十年くらい前にもいたんだよ。」
「東方の変わった格好した勇者様がねぇ。」
旅人が小声で呟く。
「……また暴れなきゃいいが。」
隣の男が顔をしかめた。
「よせ。」
老婆も気まずそうに口を閉じた。
「あんたも、
気をつけるんだよ。」
「ええ、ありがとうございます。」
少し離れた宿屋から、
賑やかな笑い声が聞こえてくる。
「この辺りは店も賑やかで、
旅人も職人も多いですな。」
空海が町を見回した。
「いい町ですな。」
ハロルドは遠くを見る。
「昔はもっと賑わっておりました。」
川向こうから黒い煙が上がっていた。
鉄を打つ音が風に混じる。
武蔵が煙を見る。
「ほう。」
ハロルドが川向こうを指した。
「あの辺りです。」
小次郎は通り過ぎる冒険者や兵士の剣を見ていた。
晴明だけが足を止める。
露店には筆や紙、扇子が並んでいた。
「……この世界にも、
こういう店があるのか。」
店の奥。
扇子を手にした男が、
晴明を静かに見ていた。
川沿いへ出る。
渡し舟が波に揺れている。
だが、船頭の姿がない。
ハロルドが眉をひそめた。
「……またアイツめ、酒飲んでるな。」
川の流れる音。
舟が波に揺れ、
木が小さく軋む。
その時。
甘い香りが風に流れた。
阿国がぴたりと止まる。
「……甘い匂いや。」
船着場の脇。
焼き菓子の店から白い煙が上がっていた。
「あたい、これ食べたいなー」
ワイチが腹を押さえる。
「そういえば腹減った……。」
阿国が振り返る。
「なら、一緒に行こ?」
「行く。」
ワイチは即答した。
「んーなら少し待ちますか。」
ハロルドが店を見る。
「船頭もそのうち戻るでしょう。」
阿国は楽しそうに店へ向かう。
空海は辺りを見回した。
「魚を焼く匂いがしますな。」
空海も酒場の方へ歩いていく。
晴明が小さく笑う。
「なら、私も気になる店を見つけたので。」
さっきの露店へ足を運んでいく。
小次郎はぼそりと言った。
「興味はない。」
「拙者はここで待つ。」
武蔵もその場に残る。
川の流れる音。
小次郎が口を開く。
「ハロルド殿、その剣を少し見せてもらえるか。」
「かなり使い込んでますが。」
ハロルドは腰の剣を渡した。
小次郎は静かに抜く。
一振り。
ヒュン……
小次郎は刃を眺めた。
「……両刃か。」
指で重心を確かめる。
「重いな。」
「しっくりこない。」
武蔵の口元がわずかに緩む。
「……お主。」
小次郎が武蔵を見る。
「ちと立ち合わぬか?」




