六人の転移者と王との謁見
次回予告!
空海だ!いきなり転移したと思ったら、この世界をまもれ?おれは酒さえ飲めればなんでもいいが。
次回、感奮興起
次は麦焼酎が飲みたい
「これより、
この世界についてご説明いたします」
年老いた大臣の声が、
静かな大広間に響いた。
ワイチたちは、
大臣の後を歩いていた。
石畳の長い通路。
妙に空気が重い。
その時だった。
前方の別通路から、
三人の男が現れる。
向こうにも、
別の案内役らしき者がいた。
一人は細身の男。
もう一人は、
酒瓶を持った大柄な男。
最後の一人は、
黒い衣を纏っている。
向こうも、
こちらへ気付いていた。
だが、
誰も口を開かない。
二つの集団は合流し、
そのまま大広間へ通された。
誰も普通じゃない。
大臣は三人へ向き直った。
「こちらの御三方は、
昨日召喚された強者たちです」
そして静かに頭を下げる。
「まずは簡単に、
自己紹介をお願いできますかな」
最初に、
細身の男が口を開いた。
「……佐々木小次郎」
ワイチの眉が跳ねる。
(は?)
小次郎は淡々と続けた。
「職は剣士だ」
「書を読んでいた。
気付けば床に座っていた」
次に、
大柄な男が前へ出る。
「空海だ」
酒瓶を軽く持ち上げる。
「職は僧侶らしい」
「酒を飲んでおったら、
いきなり景色が変わりおった」
ワイチは思わず顔をしかめた。
(空海?
あの弘法大師の?)
だが、
目の前の男は、
ありがたい高僧というより――。
(これじゃ、
ただの破壊僧やん……)
最後に、
黒い衣の男が静かに口を開いた。
「安倍晴明」
その名前に、
ワイチの表情が固まる。
「職は魔法使いだ」
晴明は淡々と続けた。
「少々、
小道具を作っている最中だった」
空海が鼻で笑う。
「何が小道具だ。
紙がそこら中に散らばっておっただけではないか」
「で、何をしておったんだ?」
晴明はわずかに眉をひそめた。
「……余計なことを」
ワイチは晴明を見る。
紙と小道具。
何を作っていたのかはわからない。
だが、
聞かない方がいい気がした。
「では次に、
本日解放された皆様も」
大臣は、
ワイチたちへ向き直る。
「自己紹介をお願いいたします」
最初に、
がっしりした男が前へ出た。
「宮本武蔵だ」
「剣聖らしい」
その瞬間。
武蔵は、
すぐに小次郎へ視線を向けた。
「お主、もののふじゃろう」
小次郎が静かに返す。
「……フッ、そう見えるか」
武蔵は笑う。
「剣気がビシビシ感じるわ」
小次郎は静かに返した。
「お前もな」
ワイチは、
二人を交互に見た。
(いや待て待て待て……)
宮本武蔵。
佐々木小次郎。
決闘する仲の二人が、
普通に会話している。
しかも、
そのやり取りを、
自分は目の前で見ている。
(なんだこれ……
夢の共演じゃん……)
その空気を割るように、
一人の女が前へ出た。
鮮やかな着物。
華やかな化粧。
どこか芝居めいた立ち姿。
女はにこりと笑う。
「出雲の阿国です」
「職は魔法使い、
だそうです」
空海が目を丸くした。
「ほう……」
「えらい派手な子じゃが、
べっぴんやのー。
今度お酌してくれ、な!」
阿国は楽しそうに笑った。
「そりゃどうも」
そして、
最後に視線が集まる。
ワイチは一瞬詰まった。
(……あれ)
妙だった。
名前を言おうとした瞬間、
その先が抜け落ちる。
(苗字が……
あれ?なんだっけ)
皆の視線に耐えきれなくなり、
ワイチは仕方なく口を開く。
「……ワイチです」
「職は、
薬師見習い……
だそうです」
どこかふてくされた声だった。
空海が眉を上げる。
「ほう、薬師か」
ワイチは肩をすくめた。
「いや、
俺もよくわかってません」
「自己紹介が終わったようですな。
では、こちらへ」
大臣は静かに踵を返した。
六人は、
その後を歩き出す。
通路の奥。
そこには、
今までより遥かに巨大な扉があった。
金色の装飾。
見上げるほどの高さ。
まるで城そのものを塞ぐ壁のようだった。
大臣は、
その前で深々と頭を下げる。
「こちらより、
王の間となります」
「王様への謁見が許可されましたので、
これよりご挨拶していただきます」
重い扉が、
ゆっくりと開いた。
その瞬間。
空気が変わった。
ワイチは思わず目を見開く。
天井は遥か上。
柱一本ですら、
家ほどの太さがある。
まるで、
巨人のために作られたような部屋だった。
そして、
その時だった。
奥に、
巨大な影が見えた。
ワイチの視線が止まる。
「……え?」
玉座の前。
巨大な竜が、
静かにこちらを見下ろしていた。
(ドラゴン……!?)
誰もすぐには動けなかった。
巨大な竜は、
ただそこにいるだけだった。
だが、
それだけで空気が重い。
ワイチたちが固まる中、
大臣が静かに口を開く。
「こちらが、
この国を治める王様です」
「そして、
皆様を異世界より導いた存在でもあります」
ワイチは思わず竜を見上げた。
「……俺たちを?」
「皆様が目覚めた卵は、
異世界とこの世界を繋ぐ門」
「卵の内部を経由することで、
別世界の存在を、
安全にこちらへ通すのです」
ワイチは思わず振り返る。
あの卵。
閉じ込められていたと思っていた場所が、
門だったのか!
ワイチは、
さっきまでいた卵を思い出す。
そして、
ゆっくり竜を見る。
「……ってことは」
「王様じゃなくて……
女王様ってこと?」
広間が静まり返る。
空海がわずかに目を丸くした。
武蔵は、
巨大な竜を見上げたままだった。
大臣は軽く咳払いした。
「いえ。
王様は雄でございます」
「ただ、
卵は産み落とされるのではなく――」
大臣は竜へ視線を向けた。
「口より吐き出されるのです」
ワイチの顔が引きつる。
「……口から?」
大臣は続けた。
「そして、
卵を解放するには、
特別な魔法陣が必要となります」
広間の奥には、
巨大な水晶が据えられていた。
「あの水晶の力を用いて、
魔法陣は起動されるのです」
「ですが、
あれほどの魔力を使うため――」
大臣は静かに息を吐く。
「一日に解放できる卵は、
三つまでが限界なのです」
大臣は静かに一歩下がった。
「……では王様。
皆様へ、この世界の現状を」
その瞬間。
巨大な竜が、
ゆっくりと目を開いた。
「皆の者、
突然この世界へ呼び寄せたこと、
許してほしい」
低い声が、
王の間全体へ響いた。
ワイチは思わず息を呑む。
声が、
腹の奥まで響いてきた。
「だが、
各地で異変が起きている」
巨大な竜の瞳が、
静かに細められる。
「本来ならば、
私自ら動くべき事態だ」
「だが、
もはやその力は残されておらぬ」
広間の空気が重く沈む。
「故に、
そなたらを呼んだ」
誰も口を開かない。
「この世界には、
古くからの言い伝えがある」
竜の声が、
ゆっくり響く。
「異世界より現れし者たちが、
災厄を鎮め、
世を平定する――とな」
ワイチの口元が、
少しだけ緩む。
(勇者伝説みたいな話かよ……)
だが、
誰も笑わない。
竜は静かに続けた。
「今、
この世界では疫災が広がっている」
広間の空気がさらに静まる。
「本来おとなしかった動物たちが、
突如魔物化し、
人を襲い始めた」
ワイチたちは黙って耳を傾ける。
「村は荒らされ、
各地で死者も増えている」
ワイチは黙ったまま、
竜の話を聞いていた。
「こちらでも討伐は行っている。
だが、
増加が止まらぬ」
巨大な瞳が、
静かに六人を見下ろした。
「そなたらには、
その原因の調査、
そして魔物の討伐を頼みたい」
少し間が空く。
「……頼む」
王の間が静まり返る。
誰もすぐには口を開かなかった。
その沈黙を破るように、
武蔵が口を開く。
「では、
褒美も出るのだろうな」
武蔵は真顔のままだった。
「命懸けなのだ。
当然じゃろう」
そして、
静かに笑う。
「俺は、
この世界で一番強いやつと
戦わせてくれればそれでいい」
武蔵は、
ゆっくり竜を見上げる。
「……あんたでもいい」
空気が止まった。
空海は酒瓶を持ったまま、
武蔵を見ていた。
ワイチは思わず息を呑む。
小次郎は、
何も言わなかった。
空海は鼻で笑った。
「儂は酒じゃな。
うまい酒を山ほどくれ」
阿国がくすりと笑う。
晴明は何も言わない。
ワイチは少し迷い、
ゆっくり口を開く。
「……俺は」
全員の視線が集まる。
ワイチは頭をかきながら、
ぼそりと呟いた。
「元の世界に返してくれれば、
それでいいです」
王の間が静まり返った。




