三つの卵
第2話
巨大な広間に、青白い炎が静かに揺れていた。
召喚士達が巨大な魔法陣を囲み、その後ろでは鎧を纏った兵士達が固唾を飲んで見守っている。
魔法陣の中央には三つの卵が置かれていた。
二つは縦に立っているが、最後の一つだけが、なぜか横向きに倒れている。
「では、これより開封の儀を開始します」
召喚士が告げると、最初の卵の下に描かれた魔法陣が赤く発光し始めた。
次の瞬間、天井から一本の光が真っ直ぐ卵へ落ちる。
バキィ!!
大きな音を響かせながら卵が真っ二つに割れ、その中から現れた男が木刀を勢いよく振り下ろした。
「せいっ!!」
ビュン!!
木刀が空を切り、そのまま床を激しく叩いた。
「拙者は外で素振りをしていたはずだが……ここはどこだ?」
男が木刀を構えたまま周囲を確かめる中、召喚士が手元の記録へ何かを書き込んだ。
「一体目、確認」
続いて、二つ目の卵の下に描かれた魔法陣が紫色へ変わった。
パキ……。
殻が静かに割れ、中から少女が転がり落ちてきた。
「きゃっ!?」
少女は片手に番傘、もう片方の手に食べかけの串団子を持っていた。
「あれ? 歩きながら食べていたはずなのに……ここ、どこです?」
少女が番傘を閉じながら辺りを確かめると、兵士達の間にざわめきが広がった。
召喚士が再び記録を書き込む。
「二体目、確認」
そして、最後の卵。
横向きに倒れた卵の下で、魔法陣が白から黒へ、黒から白へと不気味に点滅し始めた。
「……なんだ、これは」
召喚士達の顔色が変わり、一斉に杖を構えた。
ピキ……。
卵に亀裂が走った直後、バキィ!! と音を響かせながら殻が割れた。
中には、一人の男が横になっていた。
「ンゴー……」
男はいびきをかきながら、眠り続けている。
兵士達の間に戸惑いが広がった。
「……寝てるぞ」
「なんだ、こいつ」
召喚士は戸惑いながらも記録へ書き込んだ。
「三体目……確認」
その時、男がゆっくり目を開けた。
「……ん」
半分眠ったまま床へ手をついた男は、その冷たさに動きを止めた。
「……冷たい。布団がない」
手を動かして周囲を探ったものの、どこにも布団の感触はない。
「……まだ夢見てる?」
男が身体を起こした瞬間、兵士達のざわめきが一気に耳へ飛び込んできた。
「目を覚ましたぞ!」
「成功したのか……!?」
「……は?」
◇
「まずはそちらの御方、こちらへ」
召喚士が広間の奥へ手を向けると、木刀の男が怪訝そうな表情を浮かべながら歩き出した。
広間の奥には、巨大な水晶が置かれている。
男が水晶の前で立ち止まると、召喚士が告げた。
「水晶に手を」
男が巨大な水晶へ手を添えた瞬間、まばゆい光が広がり、空中に文字が浮かび上がった。
【職業:剣聖】
兵士達がどよめいた。
「剣聖……!?」
男は浮かび上がった文字を確かめながら、眉をひそめた。
「剣聖? 何を言っておる。拙者は宮本武蔵という名だ」
「えぇぇぇぇ!?」
突然響いた大声に、武蔵が振り返った。
「貴様、拙者を知っておるのか?」
「知ってるも何も、超有名人だよ!!」
兵士達は意味が分からず、互いの顔を見合わせた。
続いて、番傘の少女が恐る恐る巨大水晶の前へ進んだ。
「水晶に手を」
少女がそっと手を添えると、再び水晶がまばゆく光り、空中に文字が浮かび上がった。
【職業:吟遊詩人】
「吟遊詩人……支援系か?」
兵士達がざわつく中、少女は浮かんだ文字を不思議そうに確かめた。
「ぎんゆうしじん? うちは出雲のお国どすえ?」
広間が一瞬、静まり返った。
「……かわいい」
兵士の一人が思わず漏らした瞬間、すぐ横にいた上官が後頭部を叩いた。
ピシッ!
「こら! 私語を慎まんか!!」
「はいっ!?」
「……わかる」
小さく漏れた声を聞き、武蔵が言い放った。
「お主まで腑抜けた顔をしておるな」
その声に、兵士達の視線が最後の男へ集まった。
「……あの装束、見たことがない」
「異界の勇者装束では……?」
兵士達の間に囁きが広がっていく。
武蔵も男の服を確かめた。
「妙な生地だな」
「そのお召し物、どこの国のものどす?」
「え? 普通の部屋着だけど……」
「もしや、あの御方が勇者様では……?」
「いや、俺はただの学生だし……」
「こちらへ」
召喚士に呼ばれ、男は恐る恐る巨大水晶の前へ進んだ。
「水晶に手を」
男が巨大水晶へ手を添える。
水晶が光った。
だが、その光はすぐに白から黒へ、黒から白へと不気味に切り替わり始めた。
「卵の時と同じだ……!」
「なんだ、あの光は……!」
広間にざわめきが広がる中、空中に文字が浮かび上がった。
【職業:薬師?見習い】
「えーーーーー!?」
広間中から一斉に声が上がった。
その直後。
「はぁぁぁぁぁ……」
まるで合唱でもしたかのような巨大なため息が、広間全体を包み込んだ。
「薬師? 見習いってなんだよ?」
「薬師……の見習い?」
「勇者様ではなかったのか……」
「結局、今回も勇者様はいないのか……」
広間に重い空気が広がった。
「いや、俺の前で落ち込むなよ!!」
「はっはっは! 確かに、お主が一番弱そうだな」
「うるせえ!!」
お国が串団子を食べながら、落胆する兵士達へ問いかけた。
「なんや、みんな急に元気がなくなりましたなぁ」
その時、広間の奥から豪華な衣装を纏った老人が現れた。
「皆様、これより我々が皆様をお呼びした理由について、ご説明いたします」
次回予告!
武蔵だ!いきなり変なところに来たと思ったら、変なやつと一緒になった。強そうには見えないが
次回、六人の転移者と王との謁見
強いやつはいないかー?




