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世界を救ったのは剣豪でもなく陰陽師でもなく薬師?だったんですよ!  作者: 氣愛注入


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六つの属性

湿った森へ響く足音は、逃げる者を追うというより、腐敗した何かへ吸い寄せられていくようだった。


「急げ! まだ間に合うはずです!」


ワイチは森の奥に淀む瘴気を睨む。


「この先だ! この先は瘴気が濃い!」


枝葉を抜けた先から、場違いな童歌が流れてきた。


「ふふふ……♪ ひーらいた、ひらいた。なんの花がひらいた……♪」


「奴がいたぞ!」


若雷はどろりと溶けた古木の根元で、切り刻まれた死体の破片を積み木でも組むように組み替えながら、童歌を口ずさんでいた。


腕の骨と脚を繋ぎ、違うと思えば放り投げ、別の腕を拾っては繋ぎ直す。その遊びに夢中な姿は、壊れた玩具を前にした子どもそのものだった。


「あ、見つかっちゃった。ねぇ、今ちょうど楽しいところだったのに、どうして邪魔するの?」


「今度こそ終わりだ!」


「終わり? うふふ、それは違うよ。まだ始まってもいないんだから。」


「ほら、この子たちも、ずっとお腹を空かせて待ってたんだよ。いっぱい遊んでもらわなきゃ。」


若雷が指を鳴らした。


乾いた音が森へ弾けた瞬間、地面がぬかるみのように波打ち、黒い瘴気が噴き上がり、腐り落ちた鎧、捻じ曲がった骨、千切れた肉を針金で無理やり縫い合わせた屍武者が、土を掻き分けながら次々と這い出してきた。


「また瘴気で身体を繋ぐ気か。」


武蔵と小次郎は間髪入れず屍武者の群れへ飛び込み、太刀と長刀で次々と斬り伏せた。


しかし裂けた身体から溢れた黒い泥が傷口を埋めるように絡みつき、切り離された肉も砕けた鎧もゆっくりと元の形へ戻った。


首を刎ねられた屍武者は、自らその首を抱え上げて胴へ押し当て、骨の軋む音を響かせながら再び刀を握り締めた。


「晴明! やってくれ!」


「承知しました。穢れそのものを断ちます。――光芒。」


白い奔流が森を貫いた。


屍武者を包んでいた瘴気は一瞬で焼き払われ、鎧は灰となり、黒い泥は音もなく土へ吸い込まれていった。


森の殺気がわずかに静まった。


「……つまんないなぁ。せっかく綺麗に縫ってあげたのになー。光なんて使われたら、すぐ壊れちゃうよ。」


若雷は袋から、熟れたメロンほどもある黒い結晶を取り出すと、足元へそっと置いた。


「さぁ、僕の宝物、お腹すいたよね。」


背中の妖刀をゆっくりと抜き、刃を左手首へ静かに滑らせた。


赤黒い血が傷口からじわりと盛り上がり、細い筋となって手首を伝い、指先から一滴、また一滴と黒い結晶へ落ちていった。


「いい子、いい子、いっぱい食べてね。もっと、もっと大きくなって。」


「そう、そのまま全部飲んでいいんだよ。慌てなくていいよ。誰も取ったりしないから。ほら、もっと飲んで。」


結晶が血を貪るたびに、周囲の樹々が不気味に軋みを上げていった。


結晶の表面にどろりとした粘液が滲み出し、硬い殻が内側から「ぐしゃり」と腐り落ちるように崩れていった。


中から現れたのは、胎児のように丸まった巨大な影、それがゆっくりと手足を引き伸ばし、大地を爪で抉りながら這い出ていった。


「……さぁ、起きて、お友達が待ってるよ。今日はいっぱい遊べるからね。」


最後の一滴を吸い込んだ結晶が完全に崩れ落ち、中から異形の影が立ち上がった。


禍々しい鬼面を頭上に戴き、胴体から生えた六本の腕には、それぞれ異なる表情を浮かべた六つの鬼面が寄生していた。


六つの鬼面が、ぬるりとまぶたを開き、頭がつくところに、極太の腕が伸びて棍棒を持ち上げた。


「おはよう、今日のお友達は、この人たちだよ。壊れるまで、好きなだけ遊んでおいで。」


六つの鬼面が一斉に、ワイチたちを飢えた獣の眼差しで射抜いた。


森を支配していた澱んだ瘴気が六面鬼の巨体へ渦巻くように吸い寄せられ、周囲の木々が耐えきれずに悲鳴を上げて軋み始める。


極太の棍棒が、空気を引き裂く重低音を響かせて唸りを上げた。


「武蔵、くるぞ!」


「分かってる!」


武蔵は棍棒が叩きつける軌道へあえて飛び込み、その凄まじい風圧を紙一重でかわしながら、渾身の力で太刀を振り抜いた。


鋼の刃が、硬質な肉を断ち切り、極太の腕が血飛沫を上げながら宙を舞った。


「小次郎いけー!」


「飛燕!」


落ちていく腕へ重なるように、小次郎の長刀が冷徹な閃光となって走り、肩口から首までを一気に両断した。


宙を舞った鬼面が、地面へ叩きつけられた。


「やった!」


次の瞬間、切断面から黒い瘴気が噴き出し、地面へ転がった腕が、意思を持つかのように跳ねていた。


肉が蠢き、骨が軋み、飛ばされた腕は肩へ吸い寄せられ、首も黒い泥をまといながら元の位置へ戻っていった。


鬼面が再び唸り叫ぶ!


「再生した!?」


「瘴気で元に戻るのか……!」


棍棒が再び振り下ろされ、武蔵と小次郎は左右へ散るが、地面が爆ぜ、岩が砕け、吹き飛んだ巨木が二人へ襲い掛かる。


「くっ! 速ぇー!」


「なんていう威力だ。」


「晴明、光術で!」


「光芒!」


晴明の放った白い光の奔流が六面鬼を包み込んだ。


眩い光が瘴気を焼き、森が昼のように照らされた。


光が消えたが、六面鬼は何事もなく立っていた。


「そんな……!」


「光術は効かないのか。」


若雷が嬉しそうに笑う。


「そうだよ。この子、とっても丈夫なんだ。いっぱい壊しても、いっぱい元に戻るの。」


六面鬼の赤い鬼面が口を開き、火炎術を放つ。


「阿国! 属性を!」


「任せて!」


尺八の音が森へ響き、阿国が懸命に奏でると、赤い鬼面が放つ炎の勢いが目に見えて削がれ、属性の力が減衰していった。


勢いが弱まった炎を、武蔵たちは紙一重でかわした。


「今です!」


その瞬間、赤い鬼面が口を閉じ、代わりに青い鬼面がゆっくりと笑った。


「えっ……!?」


轟音とともに激流が森を飲み込んだ。


「きゃあっ!」


阿国は音を奏でることに集中していたため回避が間に合わず、激流へ呑まれ、岩へ叩きつけられながら後方へ流されていった。


「阿国大丈夫か?」


「くそ、属性が……変わった……。」


「その鬼面ごとに属性が違うのか!」


「うふふ。そっちを下げたら、こっちで遊ぶだけだよ。」


晴明が符を投げた。


「鬼、召喚!」


黒い霧の中から鬼の式神が姿を現し、雄叫びを上げながら六面鬼へ突進した。


「今です!」


六面鬼の棍棒を式神が抑えた直後に青い鬼面が開いた。激流が鬼を呑み込んだ。


続いて黄金の鬼面が開き、雷光が鬼の式神を撃ち抜いた。


鬼の式神は踏み止まるが、茶色の鬼面が低く唸り、地面が盛り上がり、巨大な岩塊が鬼の式神を押し潰した。


「式神まで……!」


「まだです!」


晴明が霊力を送り続けたが、黒い鬼面が口を開いた瞬間、目には見えない闇の衝撃が一直線に走り、鬼の式神の身体へ無数の亀裂が走り、霊体は砕け散り、符に戻り破れた。


「晴明!」


「申し訳ありません……!」


緑面の鬼、赤面の鬼、黄面の鬼の口が同時に開き、風で勢いを増した雷炎が降り注ぐ。


一瞬の不意をつかれた皆は、火傷を負った。


「ナリア、回復できますか?」


「皆さん、動かないでください!」


ナリアが柔らかな光で傷付いた仲間を包み、裂けた皮膚が少しずつ塞がっていった。


「空海! 結界を!」


「ここから先は通しません!」


数珠が激しく震え、黄金の絶界が一行を包み込んだ。


「それで終わり?」


若雷が嬉しそうに両手を叩いていた。


六つの鬼面が同時に口を開き、十二の眼が光った瞬間、六つの気が一つの渦となり、森全体を震わせながら絶界へ襲い掛かった。


ドゴォォォォォン!!!


轟音と共に絶界が悲鳴を上げる。


光の壁いっぱいに亀裂が走った。


「ぐっ……!」


空海の声が震え、亀裂がさらに広がる。


六属性の奔流が絶界を食い破った。


「うゎぁぁぁぁぁぁっ!!!」


次回予告


晴明

「光芒は効かず、式神も破られました……。」


「六つの属性が次々と切り替わる以上、今までの戦い方では勝てません。」


「ですが、陰と陽は常に表裏一体。」


「その理を見抜ければ、必ず道は開けます。」


次回


第49話 陰陽激唱

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