神を打つ火
大烏天狗の住処をあとにした一行は、赤いキツネの里を目指して山道を進んでいた。
「ようやく武器が作れますね。」
「いや、まさか武器を作れるようになるとは。」
「四神様から授かった品も揃いました。これでようやくご自身に合った武器作りに取りかかれます。」
「村正宗さんなら、きっと良い武器にしてくれると思う。」
「でも、普通の武器を作るわけじゃないだろ。四神様の力を宿した武器になるんだから、簡単にはいかない気がする。」
「まずは長老様に相談ですね。」
「そうだな、材料も限られているしな。」
赤いキツネの里へ入ると、キツネたちが一行に気付き、歓迎ムードで迎えた。
「ワイチさん!」
「皆さん、お帰りなさい!」
「皆様、ご無沙汰です。早速ですが、長老様はいらっしゃいますか?」
「何かあったんですか?」
「貴重な材料が手に入ったので、武器を作っていただけないか、ご相談しに来たんですよ。」
「そういうことですか。なら、すぐにお呼びしますね!」
「おお、皆さん! よくぞいらしてくださいました。」
「長老様、またお願いがあり伺いました。」
「何か不具合でもありましたかな? 実は鍛冶師たちも皆さんの帰りを気に掛けておりまして、すぐに呼んでまいります。」
長老の声を聞き、鍛冶師たちも工房から集まってきた。
「おお、ワイチ殿。いらしてくださったんですね! 霊杭や杭管は大丈夫でしたか? 霊水は足りましたか?」
「おかげさまで、皆さんに作っていただいた物は何一つ問題ありません。本日来たのは、四神様から授かった品々を使って、武器を作っていただきたいからなんです。」
「四神様から授かった品を……。」
「見せていただいてもよろしいですか?」
「これなんですが。」
「青龍様の鱗に、玄武様の甲羅、朱雀様の羽に、白虎様の爪と鬣……凄いですな。」
「神獣の力が、そのまま宿っています。これほどの素材は初めて見ました。」
「一つでも傷付ければ、二度と同じ物は手に入りません。これは絶対に失敗できません。」
「普通の炉では打てません。里に伝わる特別な狐火で素材を鍛える必要があります。」
「そして、最後の仕上げには、天照様のお力を借りた火が必要になります。その火を受けて初めて、神獣の力に耐えられる武器になります。」
「つまり、完成まで時間が掛かるってことか。」
「ちょっといいか? 俺は村正宗という鍛冶師なんだが、この武器作成に俺も加わりたいんだが、いいかな?」
「正宗さんは素晴らしい鍛冶屋さんです。武器の構想もあるみたいですので、皆様と一緒に作ってもらえれば、素晴らしいものができるはずです。私からもお願いいたします。」
「そんな方でしたか。こちらからもよろしくお願いいたします。」
「こちらとしても腕の見せ所だな。よろしく頼むよ。」
「必ず皆さんに相応しい武器を打ち上げてみせます。」
「よろしくお願いします。正宗さん、頼みましたよ。」
「任せておけ! 今まで見たことがない物を打ってやるぜ!」
一行は工房を後にした。
「なぁ、待ってるだけっていうのも時間が勿体ないな。武器が完成するまで、この近辺の調査といかないか?」
「青白い男の手掛かりが残っているかもしれないしな。」
「確かにそうですね。なら隣のヤーレ村まで行ってみましょうか。そこで何かあるかもしれませんし。」
一行は赤いキツネの里をあとにし、ヤーレ村へと向かった。
赤い鳥居を離れるにつれて景色は少しずつ変わり、山道を渡る風にも冷たさが混じり始めた。それでも前回来た時ほどの厳しい寒さはなく、氷結マンモスがいなくなった影響なのか、周囲の気温は落ち着いていた。
やがて、ヤーレ村の入口が見えてきた。
「皆さん! また来てくれたんですね。」
「また、お世話になります。だいぶ気温も安定したんですね。」
「あれから以前みたいな寒さはなくなりましたよ。旅人や商人も戻ってきました。」
「それは良かったです。ところで、少しお聞きしたいことがありまして、この辺りで変わった人物を見ませんでしたか?」
「前にも見た、あの気持ち悪い男をまた見かけましたよ。」
「相変わらず顔色が真っ青で、ずっと『へへへへへ』って笑ってました。」
「以前と違うのは、腰に刀を何本も差していたことですね。」
「刀を何本もですか。何本持っていましたか? 何をしに来たか、分かりますか?」
「確か、四本だったと思います。何をしに来たかまでは分かりませんが、何かブツブツ言いながら北西へ向かって行きましたよ。」
「やはり、王都で盗まれた一本もあいつが持っていたんですね。これで妖刀は四本すべて青白い男の手に渡ったことになります。」
「あの大きな湖の方です。気を付けてください。あの湖は昔から近付くなと言われている場所なんです。」
「あの湖ですか。ありがとうございます。」
一行は村人へ礼を告げると、北西の湖へ向かった。
山道へ入って間もなく、大地を揺るがす轟音が山々へ響き渡った。
ドゴォォォォンッ!!
「何だ、この雷は!」
空は雲ひとつないが、それでも黄金の稲妻だけが、同じ方角へ何度も落ち続けていた。
「あの湖です!あの湖にだけ雷が落ちてます!急ぎましょう!」
山道を駆け抜け、木々を抜けた瞬間、激しい落雷の嵐に一行は足を止めた。
黄金の雷が絶え間なく湖へ降り注ぎ、そのたびに爆風が湖畔を吹き荒れ、巨大な水柱が空高く噴き上がる。砕けた岩は宙へ舞い、雷鳴は休むことなく山々へ響き続けていた。
その雷の中を、一人の男が笑いながら麒麟へ向かって進んでいくのが見えた。
「へへへへへ……。」
「あれは、青白い男だ!」
麒麟は青白い男を睨むと、頭上から雷が落ちてきた!
ドゴォォォォンッ!!
黄金の雷が目前へ落ちたが、青白い男は砕けて跳ね上がった岩を踏み越え、その勢いのまま黒い弓を限界まで引き絞って麒麟を狙っていた。
「へへへへへ!」
ヒュン
黒い矢が風を裂き、麒麟目掛けて飛んで行った!
キィィンッ!!
麒麟の体に刺さらずに弾かれ、黒い矢は、そのまま湖へ落ちていった。
再び、黄金の雷が一斉に降り注いだ!
爆風が吹き荒れ、水柱が視界を覆う中、青白い男は笑い声を響かせながら雷の切れ間を縫うように駆け抜け、再び黒い弓を引き絞った。
再度、放たれた黒い矢も麒麟の目前で甲高い音を響かせて弾かれた。
飛び散った岩片が肩を裂き、血が流れても笑みは消えず、肩から出血を男はぬぐい、その血を舐めて、再び笑っている。
「へへへへへ!」
さらに大きく弓を引き絞り、唸りを上げた黒い矢もまた麒麟に弾き返された。
怒涛のような黄金の雷が降り注ぎ、爆風が木々を揺らし、水柱が湖面を覆い隠していた。
やがて水煙の向こうから青白い男が姿を現し、右手には赤黒い妖刀が握られていた。
「あ、あれは王都で盗まれた妖刀だ……。」
降り注ぐ雷を正面から突っ切り、青白い男は一気に麒麟との間合いを詰めて切り掛かった!
「へへへぇっ!」
渾身の力で振り下ろされた赤黒い妖刀は、刃が触れた瞬間、甲高い音を響かせ、弾き返された。
「へへへ……やっぱり、これは駄目か、なら、こっちならどうかな。」
赤黒い妖刀を納めると、今度は青黒い妖刀を抜き放った。
その瞬間、ワイチの表情が変わった。
「あの刀……どこかで....」
黄金の雷が降り注ぐ中、青白い男は素早く雷を交わし、青黒い妖刀を握り締めたまま麒麟へ飛び込み、全身の力を乗せて斬り下した!
キィィィンッ!!
再び刀身は弾き返され、衝突した瞬間、湖面が大きく波打ち、轟音が山々を震わせた。
「なんだ、さっきより威力が違うぞ!」
黄金の雷がさらに激しさを増し、爆風が湖畔を飲み込む。
それでも青白い男は笑ったまま、下がり、
「青ちゃんでも、こんなものか...へへへ……やはり、ダメだなー儀式が先だ。」
刀を鞘に納めて、森の中へ
「麒麟、儀式が終わったら、へへへへ...今度は、バッサリだぞ...へへへ」
そう言い残し、森の中へ消えていった。
「おい、逃げたぞ、急いで追うぞ!」
一行が駆け出した、その瞬間――。
ドゴォォォォンッ!!
黄金の雷が目の前へ突き刺さり、土煙が晴れていく。
その先には、黄金の体毛を逆立てた麒麟が静かに立ち、一歩も通さぬというようにワイチたちの前へ立ちはだかっていた。
次回予告
空海
「いやはや、とんでもない聖獣でしたな。あれほどの雷を前にして、生きて帰れただけでも御の字です。」
「それにしても、あの青白い男……。聖獣を相手に、何を試しておったのでしょうな。」
「分からぬことばかりですが、答えはきっと、この先にありますぞ。」
次回
第47話 聖獣 麒麟




