村正宗への相談
「いやー昨日はかなり飲まされたな。」
「武蔵、あんだけ飲んで大丈夫なの?」
「俺は酒はいける口よ。それよりあいつの方がやばいんじゃない?」
「私はかなりの下戸なんですよ、まさかあんなに注がれるとは。」
「小次郎が飲めないのは意外だったよ。酒豪な感じがするのに?」
「小次郎さんはお酒より、甘い物ですよね♪」
「阿国!! それは言うな!」
「甘い物? そうだったの?」
「なんでもない、なんでもない、気にしないでくれ。」
和気藹々と山を降りた一行であった。
数日後、一行は王都へ戻ると、そのまま竜王城へ向かった。
「只今、戻りました。」
「北東の調査、ご苦労だった。何か分かったことはあったか?」
「やはり、青白い男は北東の山奥にも現れていました。そこで黒い弓矢を使って鬼を生み出し、魔物まで強化していました。」
「それと青白い男は、頻繁に北東の山間に来ているそうです。その情報を教えてくれたのが、鬼の酒呑童子だったんです。」
「なんと鬼だと? そいつは大丈夫なのか? 信用していいのか?」
「青白い男が黒い弓矢で鬼を生み出し、その鬼を退治した後に酒呑童子と出会い、青白い男の話を聞きました。嘘はついてないと思います。」
「酒呑童子は、その男を見ていたのだな。」
「酒呑童子の話だと、何かを探しながら山中を歩き回っていたそうで、酒呑童子にもちょっかいを出したみたいです。でも返り討ちにしたみたいで。」
「そうなのか? 青白い男は、何を探していたのかを聞いたのか?」
「そこだけは分からなかったそうです。酒呑童子に聞いたのですが、答えてくれなかったんです。」
「答えてくれないとは?」
「なんか言えないらしいです。その辺もかなり濁されまして。」
「まさか、酒呑童子は青白い男の仲間ではないのか?」
「それはないと思います。敵意は感じられませんでしたし、私達には友好的でしたから。」
「酒呑童子の話では、奴は何も見つけられないまま山を去ったそうです。目的を果たしていたなら、その場を離れる理由はありませんから、また舞い戻ってくるかもしれません。」
「そうか。やはり警戒を強めないといかんな。青白い男が北東に現れているなら、兵を向かわせた方がいいな!」
「ハロルド、お前はどう見る。」
「目的が果たされていない以上、青白い男はまた動きます。今まで集めた情報を合わせれば、次に現れる場所も少しずつ絞れるはずです。」
「黒い水晶を埋め込まれた四神がいた北、南、西、東、そして北東……確かに行動範囲は見えてきた。」
「行動範囲が分かれば、こちらから先に動けます。」
「そのためにも調査を続け、必ず見つけます。」
「頼んだぞ。」
一行は竜王城をあとにし、そのまま村正宗の工房へ向かった。
「おー帰ってきたか。」
「正宗、頼んでいた人間用の杭はできたか?」
「武蔵、出来てるぞ! お前が言った通りかなり細く作ったぞ!」
村正宗は細長い木箱を差し出した。
「人間は神獣ほど体が大きくねぇ。同じ太さじゃ扱いづらいし、軽すぎても重すぎても駄目だ。何本も作り直して、この形に落ち着いた。」
「思っていたより軽いな。」
「これでどうなるか? 自分で練習してみるわ。」
「正宗さん、これまだあります? 俺も少し欲しくて。」
「ワイチが見たら欲しがると思って、ちゃんとお前にも作っておいたよ。」
「ありがとうございます。それと、実は見てもらいたいものがあって。」
「なんだなんだ? とにかく見せてみろ。」
ワイチは包みを開き、青龍の鱗、朱雀の羽、白虎の爪、玄武の甲羅を作業台へ並べた。
「四神から預かった素材です。」
「すげぇな、全部揃えたのか。」
「この素材なら良い武器が作れるって言ってましたよね?」
「あー言ったが、まさか本当にそろえるとは。」
「とりあえず、加工してみるか。」
村正宗は四つの素材を順番に確かめたあと、青龍の鱗を炉へ入れ、十分に熱したところで取り出すと、金床の上で槌を振った。
工房へ鋭い音だけが響くが、鱗には傷一つ残らない。
「なんだと? こりゃ一筋縄ではいかんな。ちょっと火力を上げて他の素材もやってみるわ。」
火力を上げても加工はできなかった。
「駄目だ、加工できねぇ。」
「素材は最高なんだが、この炉の火じゃ素材の力が強すぎて、火が負けちまう。」
「火が足りない……。」
「火の威力もそうだが、素材が特別なだけに、もっと違う性質の強い火が必要だな。」
「普通の火ではダメなんですね。」
「なんせ神の素材だからな。そんな物を加工できる場所は俺は知らねぇな。特別な工房があるところでないと、難しいな。」
「特別な工房……特別な火……。」
「あ! もしかしたら赤いキツネの里なら、できるかもしれません。」
「赤いキツネの里だと?」
「霊杭を作ってもらった鍛冶場です。あの炉なら、この素材にも負けない気がします。」
「霊杭を作ったところならできるかもしれんな。興味がある、俺も連れてってくれ!」
「だってよー、これで武器を作るんだろ? なら、俺がやらないでどうするよ。」
「と、その前に、誰の武器を作るんだ?」
「それはもちろん、武蔵と小次郎のだよ。」
「何? 俺のか?」
「拙者のもか?」
「だって、武蔵も小次郎も納得した武器ではないでしょ? この最高の素材ならすごい武器が作れると思うんだ。」
「ワイチ、お前っていい奴だな!」
「いやいや、二人にはこれからもっと活躍してもらわないと。みんなもそれでいいよね?」
「私はかまいませんよ。」
「私も構わないわ♪」
「わしもかまわんよ、二人が強い武器を持つべきだしな。」
「私は回復メインですから、魔力が上がるなら欲しいですが、これでは上がりませんから大丈夫です。」
「と皆が言ってるので、お二人ともちゃんと武器のリクエストしてくださいね。」
「分かった。俺はだいぶ固まってきたから、工房で話すわ。」
「私もそうします。」
「なら、明日にでも出発しますか!」
「そうそう、あと里に向かう前に、一か所だけ寄らせてください。」
「どこによるんだ?」
「烏天狗様の祠です。玄武様の治療が終わった報告をしておこうかと。」
「分かった。では明日、出発だ。」
翌朝、一行は王都を出発した。
朝靄に包まれた街道を進みながら、武蔵は村正宗へ声を掛けた。
「正宗、本当に店を空けて大丈夫なのか?」
「数日なら問題ねぇよ。こんな神の素材を前にして、じっと店番なんてしてられるか。」
「それほど興味があるんですね。」
「鍛冶師なら誰だってそうだ。神の素材なんざ、一生に一度お目にかかれるかどうかだからな。」
街道を外れ、山道を進むと見覚えのある祠が姿を現した。
「着きました。ここから結界があるので、大烏天狗様を呼びますね。」
「大烏天狗様、ワイチです。いらっしゃいますか?」
「おーワイチ、久しいな。」
大烏天狗が姿を現した。
「大烏天狗様、お久しぶりです。」
「なんとか玄武様の治療まで無事に終わりました。おかげさまで四神全ての治療を終えることができました。」
「玄武様も救えたんだな、流石だ。」
「皆のおかげで、無事に治療を終えることができました。」
「これで四神は全て救われたわけか。見事じゃ。」
「ありがとうございます。」
「実は数日前に、わしも青白い男に襲われてな。」
「なんと大烏天狗様が襲われたんですか? どうして襲われたんですか?」
「理由は分からぬ。突然現れ、何も言わずに黒い弓矢を放ってきた。結界を破れぬと分かると、そのまま去っていったのだ。」
「どちらに行ったか、わかりますか?」
「西の方へ消えていったな。」
「西ですか。実は、私たちも北東の山で青白い男に会いました。黒い弓矢で鬼や魔物を強化していたんですよ。」
「やはり各地で同じことをしておるのか。」
「私たちが鬼を倒したあと、酒呑童子という鬼に会って話を聞いたんですが、青白い男は何かを探しながら山中を歩き回っていたそうです。」
「わしを襲った時も、周囲を見回しておったよ。何かを探しているようには見えたが、やはりそうだったか。」
「酒呑童子の話では、結局何も見つけられないまま山を去ったそうです。」
「目的の物は、まだ見つかっておらぬということじゃな。」
「だから、こちらも襲われたとなるとここにも現れるかもしれませんね?」
「まあ、わしは結界があるから大丈夫だ! お前たちも十分気を付けるのだぞ。」
「大烏天狗様も気をつけてくださいね。」
「ところで、見慣れぬ顔がおるな。」
「俺は村正宗って鍛冶師だ。」
「鍛冶師が、なぜ同行しておる?」
「実はこれから赤いキツネの里へ向かい、四神様から預かった素材を加工できないか、相談に行くところです。」
「そういうことか。あやつらの鍛冶場なら、人の世でも指折りの腕前じゃ。普通の人間なら断るだろうが、ワイチの頼みならきっと力になってくれるはずだ。」
「それでは行くが良い。狐達に宜しく伝えてくれ!」
「必ず伝えます。」
一行は大烏天狗に別れを告げると、赤いキツネの里へ向かって歩き始めた。
次回予告
小次郎
「神の素材を打つには、普通の火では力が足りない。」
「だからこそ、赤いキツネの里へ向かいます。」
「どんな武器が生まれるのか、私も楽しみです。」
次回
「神を打つ火」




