青白い男を追え
王都の朝は、露店の呼び声と荷馬車の車輪が石畳を転がる音で静かに目を覚ましていた。
その賑わいの中を歩く武蔵は、一人考え込んでいた。
「違うな、思っているのと違う……。」
その思いだけが頭の中を巡っていた。
「俺にもっと力を引き出すことは、できることはねぇのか……。」
刀を振ったり鍛錬する。これでは同じところを回っている気がしてならない。
「これじゃねぇ……。」
その時、不意に、しん吉の言葉が浮かんだ。
『武蔵さん、卍足はセンスあるよ。』
「あいつ、そんなこと言ってたな……。」
あの時は深く考えなかった。ワイチの技は治療のためのもの、自分には関係ないと思っていた。
「でも、刀ばっか考えてても答えが出ねぇ。」
「だったら、一回卍足をやってみるか。」
何かのヒントくらいにはなるかもしれないしな。
「よし、やってみるか! まずは杭だな!」
武蔵は村正宗の鍛冶場へ向かった。
◇
「おう、武蔵じゃねぇか。」
「よ! 正宗、ちょっと頼みがあるんだが。」
「何だ。お前らしくないな、どうした?」
「実は人間用の杭を作ってくれないか?」
「人間用の? なんだ、ワイチの使いか?」
「違う違う、俺が使うんだよ。」
「お前が? 何のために。」
「卍足の練習だ。」
「卍足? お前が卍足をやるのか? あれはしん吉が使うもんだろ。最近はワイチもやれるようになったみたいだが、お前までやるとは思わなかったぞ。何で急にそんなこと考えた?」
「しん吉によ、俺には卍足のセンスがあるって言われたんだ。最初は俺も関係ねぇと思ってたんだけどよ、最近刀のことばっか考えてても何も思い付かなくてさ。だったら一回、剣とは違うことをやってみようと思ったんだ。杭がありゃ教えてくれるって言ってたのを思い出して、それで頼みに来た。」
「そういうことだったのか。最初は何を言い出すかと思ったぞ。刀一筋のお前が畑違いのことを始めるなんて驚いたが、そこまで考えて来たんなら話は別だ。俺も煮詰まった時は鉄ばっか叩いてねぇで、違うものを作ることがある。すると不思議と新しい考えが浮かぶもんなんだ。お前が今やろうとしてることも、案外そこに何か転がってるかもしれねぇな。」
「正宗もそんなことしてたのか。」
「そりゃ俺だって悩むさ。だからお前の気持ちはよく分かる。よし、そこまで言うんなら、お前専用の杭を作ってやるよ。」
「おー、まじで助かるわ。恩に着る。」
「ああ、そうだ、もう一つ頼みがある。」
「まだあんのかよ。何だ。」
「なるべく細く頼むよ。痛ぇのは苦手なんだ。」
「お前なぁ! 刀で斬り合うのは平気なくせに、自分が刺されるのは嫌なのか!」
「それとこれとは別なんだよ。」
正宗は腹を抱えて大笑いし、その笑い声は、工房中に響いていた。
◇
「司馬懿殿、ご報告があります。玄武の浄化も無事に終わり、これで四神すべてを救うことができました。」
「ですが、一つだけ、どうしても分からないことがあります。」
「やはり青白い男の事だな。」
「その通りです。結局、何者だったのか、何を目的としていたのか、最後まで分かりませんでした。」
「それどころか足取りすらつかめず、残されたのは四神様を弓で打った矢が結晶になったという事だけですね。」
「そこまで追っても何もつかめなかったか、厄介な相手だな。」
「王都を襲い、妖刀まで持ち去ったのだ、ここまでやっておいて、これで終わるとは俺には思えんな。」
「私も同じ考えです。だからこそ次に何を仕掛けてくるのか、それが読めません。」
「だから晴明、お前にも一つ聞いておきたい。お前は式神ばかり使っているが、属性以外の術は使えるのか。」
「属性以外……考えたこともありませんでした。」
「例えば、『光芒』という術がある。」
「闇だけを討つ術……そんな術があるんですか。」
「術ってのは五行だけじゃない。五行の外にも道はあるだよ。」
「ですが、そんな術をどうやって生み出したんですか。五行とはまるで別の考え方になりますよね。」
「光芒という術は光だ、だから闇の術もあるんだよ。」
「存在することだけでも十分な収穫です。私も少し、考え方を変えてみます。」
「では、失礼します。」
「皆さんにもよろしくお伝えください。」
「本日は貴重なお話をありがとうございました。」
「こちらこそ、また何か思い出したことがあれば、お話ししますよ。」
晴明は司馬懿に一礼し、店を後にした。
「よう、晴明。何か話してたのか?」
「答えまでは見つかりませんでしたが、今までとは違う考え方を知ることができました。」
「なんだ、俺と似たようなもんじゃねぇか。」
「武蔵さんもですか?」
「刀ばっか振ってても答えが出ねぇからな。だから卍足を始めることにした。」
「卍足を?」
「しん吉に筋がいいって言われただろ。だったら一回、とことんやってみようと思ってさ。剣とは全然違うことをやれば、何か見えてくるかもしれねぇ。」
「なるほど。それはいい考えかもしれませんね。私もちょうど違う考え方をしてみようと思っていたところでした。武蔵さんの話を聞いて、自分だけじゃないんだと安心しました。」
「俺も同じだ。違う道を探してる仲間がいると思うと、何だか気が楽になった。」
「お互い、答え探しですね。」
「どっちが先に見つけるか勝負だ。」
「ふふっ。負けるつもりはありませんよ。」
二人は宿へ戻ると、仲間たちが揃って待っていた。
「お帰りなさい♪ 二人とも何かいいことでもあったの?」
「いいことってわけじゃねぇが、やりたいことは見つかったぞ。」
「見える見える♪ 二人とも朝より顔が明るいもん。」
「俺は新しい修行が始まりそうなだけだ。」
「私は新しい考え方に出会えました。」
「二人とも収穫があったようですね。私はエネルギーチャージして大満足です。」
「私たちも負けていられませんね。明日から、また頑張りましょう。」
その時、宿の扉がけたたましく開いた。
「皆様!」
「ハロルドさん?」
「さ、探しましたよ……! ハァ、ハァ……重大なお話が……ハァ、ハァ……。」
「ちょ、ちょっと落ち着いてください。何があったんですか。」
「青白い男です! 青白い男の目撃情報が入りました!」
「何! 見つかったのか!」
「旅人が見たそうです! 北東の山道へ向かう姿を見たと! 大きな袋を背負って、人目を避けるように山へ入っていったそうです!」
「間違いないんだな。」
「王も裏を取りました! 手配書の男と特徴が一致したそうです! 間違いなく本人だろうとのことです!」
「やはり動き出しましたね。」
「今度こそ逃がさねぇ。」
「皆さん、急いで準備しましょう。」
「ようやく尻尾を掴めそうですね。」
「急ぎましょう♪ ここまで来たら絶対に逃がせません!」
「王も皆様なら必ず追いつけると信じております。」
「待ってろ、青白い男。今度こそ捕まえて、全部吐かせてやる!」
王都を吹き抜ける風は、北東の山々へ向かって流れていた。
次回予告
武蔵
「やっと尻尾を掴んだか。」
「長かったが、ようやくここまで来た。」
「今度こそ逃がしゃしねぇ……そう思ってたんだが、世の中そう簡単にはいかねぇもんらしい。」
「追い続けた先で待っていたものとは何なのか。」
「俺たちの追跡は、まだ終わらねぇ。」
次回 第43話 追跡の果てに




