表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界を救ったのは剣豪でもなく陰陽師でもなく薬師?だったんですよ!  作者: 氣愛注入


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/72

炎の神獣

火山の奥へ進むにつれて熱気はさらに強まり、岩肌の割れ目から噴き出す蒸気が景色を揺らしていた。


額から流れ落ちる汗を拭いながら歩いていたワイチは、不意に足を止める。


その先に、巨大な赤い鳥が岩場へ身を伏せていた。


燃えるような羽、長く伸びた尾羽、その姿は神々しかった。


ワイチがしっかり見ると、首と左右の羽には黒い結晶が深く食い込み、そこから伸びた黒い流れが身体の奥へ入り込んでいた。


青龍の時とは違い、黒い流れは確かに見えるが、結晶の周囲では赤い流れが激しく燃え続け、黒い流れを押し返していた。


「邪気を……焼いてるんだ、すげー」


ワイチは思わず呟く。


青龍は邪気に押し潰されかけていたが、朱雀は違った。


自分の炎で邪気を焼きながら耐えているので意識も保っているが、その代償として力を削り続けているのも見て取れた。


「朱雀様!」


きゅうすけが駆け出しながら声を上げた。


閉じられていた黄金の瞳がゆっくりと開く。


「……狐か」


「助けに来たんだよ!」


「青龍様を助けた連中なんだ!」


しん吉も前へ出ながら必死に続けた。


朱雀はワイチたちを見つめたまましばらく黙っていたが、やがて重そうに首を持ち上げる。


「やれるなら……やってみろ」


ワイチは力強く頷いた。


「必ず助けます」


青龍とは違い、朱雀は意識がある。


だからこそ状況も説明しながら進めなければならない。


そう思いながら首の結晶へ近付いたワイチは、黒い流れを慎重に見極めてから呼吸を整え、杭を構えて一気に打ち込んだ。


乾いた音が響き、杭は狙い通り結晶へ突き刺さる。


「よし!」


手応えはあった。


しかし引き抜こうとした瞬間、ワイチの表情が変わる。


「……あれ? 抜けない」


もう一度力を込めて引っ張る。


それでも動かない。


結晶へ深く食い込みすぎていた。


「抜けないのか?」


武蔵が眉をひそめる。


「はい。ちゃんと結晶に刺さっています」


ワイチは首の結晶を見ながら答えた。


「後で抜きますので、先に羽にある結晶をやります」


朱雀は何も言わず、その様子を見ていた。


ワイチはもう一本の杭を取り出し、右羽の結晶へ向かう。


こちらも黒い流れは見えていた。


迷うことなく杭を打ち込む。


結晶が砕けた。


今度は成功だ。


ワイチはそのまま杭を引き抜く。


直後、割れた結晶から黒い煙が噴き出した。


「きゅうすけ!」


「うん!」


きゅうすけが狐火を放とうと前へ飛び出したが、狐火が放たれるより早く、黒い煙が急激に膨れ上がった。


「なっ!? 何!!」


ワイチの目が見開く。


煙の奥で黒い流れが一気に太くなり、それは結晶から溢れ出して朱雀の全身へ広がっていった。


次の瞬間、轟音と共に炎が噴き上がる。


「ぐあああああああっ!」


朱雀の絶叫が洞窟を震わせた。


火柱が天井へ届くほど燃え上がる。


黒い流れが全身を駆け巡り、それを押し返すように赤い炎が激しく燃え広がった。


邪気が激しく暴走している。


それでも朱雀は負けていない。


自ら炎を燃やしながら暴走した邪気を焼き始めた。


身体を大きく震わせた拍子に首へ刺さっていた杭が弾き飛ばされた。


だが結晶は壊れておらず、杭が抜けたことで元の状態へ戻ってしまった。


「まずい! 元に戻ってしまった。黒い流れがなぜ?!」


ワイチが叫ぶ。


炎が強すぎて近付けない。


朱雀は苦しみながらも邪気を焼き続け、やがて黄金の瞳でワイチたちを睨み付けた。


「お前たちは……」


低い声が響く。


「治しに来たのではなかったのか!」


怒声と共に炎が揺れ上がる。


「なぜ悪化しておる!」


「違います! 悪くするつもりじゃないんです!」


ワイチは即座に叫んだ。


「青龍様の時は上手くいったんです!」


「ならば何故だ!」


朱雀の声が洞窟全体を震わせた。


「何故邪気が増える!」


理由が答えられない。


ワイチにも分からない。


結晶は確かに捉えていた。


だが、あの黒い流れが増えた理由がわからない。


「分からないんです……」


「分からないだと!」


再び炎が燃え上がり始めた。


しん吉ときゅうすけが慌てて前へ出る。


「待ってください朱雀様!」


「本当に助けようとしたんだ!」


だが朱雀は二匹を睨み付けたまま炎を燃やし続け、もう近付ける状態ではなかった。


ワイチは唇を噛み締める。


助けるつもりだったのに、悪化させてしまった。


拳を握りながら深く頭を下げる。


「……本当にすみません。必ず原因を見つけます」


声は震えながら話をしたが、朱雀は答えない。


ただ黙って邪気を焼き続けていた。


一礼したワイチたちは杭を拾い、火山を下りる。


火山を下りた後も空気は重く、誰も話さなかった。


野営の準備を始めても、焚き火を囲んでも、その空気は変わらない。


「そんな顔しても答えは出ねえぞ」


武蔵が薪を火へ放り込みながら言った。


「でも……わからないです」


ワイチは俯いたまま拳を握る。


「何が悪かったのか分からないんです」


「打つ場所か?」


「違うと思います」


「順番か?」


「それも違います。ただ、あの蠍に杭を打った時と同じになったんです」


「どういうことだ?」


「尻尾の結晶に刺した時、確かに動きは鈍くなったんです。ですが急に黒い流れが増加したんです。ただ、晴明さんの技で倒せたので話す機会がなくて」


武蔵は腕を組んだ。


「お前の目が見間違えたってことはねえのか?」


ワイチは首を横に振り


「それはないと思います」


「あの時も今回も、結晶も黒い流れも見えていました」


「じゃあ杭か」


小次郎が焚き火を見つめながら呟いた。


「でも青龍様の時は成功してるんですよね」


阿国が不思議そうに首を傾げた。


「なら杭だけが原因とも思えませんね♪」


空海も静かに口を開く。


「邪気を抜いたことで逆流した可能性はないのか?」


「いや、それなら青龍様の時も同じことになるはずです」


晴明は火へ小枝を放り込みながら眉をひそめた。


「結晶を壊したことで暴走した可能性も考えたが、それも蠍と朱雀だけで説明がつかぬな」


誰も答えを出せない。


焚き火の薪が小さく弾ける音だけが響いた。


ワイチは足元へ置いた杭を手に取り、火へかざしながらじっと見つめる。


傷もない、欠けてもいない、見た目は何も変わっていなかった。


それなのに蠍でも朱雀でも同じことが起きた。


空海も晴明も考え込んだまま黙っている。


しん吉もきゅうすけも同じだった。


確かに結晶は捉えていた。


だが、あの黒い流れが増えた理由がわからない。


結局、その夜は何も分からないまま終わった。


翌朝、一行は大烏天狗の祠を訪れる。


事情を聞いた大烏天狗は静かに手を差し出した。


「杭を見せろ」


ワイチは回収した二本の杭を差し出す。


一本は首に使った杭。


もう一本は羽に使った杭だった。


大烏天狗は首の杭を一瞥すると、羽に使った杭を手に取ったまま目を細める。


「なるほどな」


ワイチが顔を上げた。


「何か分かったんですか!」


大烏天狗は杭を掲げる。


「お前、自分の杭を見ておらんのか」


「見てます」


「でも変わったところなんて」


「見えておらん」


大烏天狗が言葉を遮った。


「この杭には邪気が残っておる」


「それだけではない」


「お前が一番見ておらぬものがある」


「青龍の血だ」


ワイチは言葉を失う。


そんなものが残るとは思ってもいなかった。


「お前は青龍の血と邪気を帯びた杭を、そのまま朱雀へ打ち込んだのだ」


「そんな……」


「朱雀だから助かった」


大烏天狗は断言した。


「他の神獣なら死んでおったぞ」


誰も声を出せない。


「朱雀は邪気を焼ける」


「だから暴走した邪気を抑え込めた」


「他の神獣なら、そのまま飲み込まれて終わりだ」


ワイチの背筋を冷たいものが走る。


助けるつもりだった。


一歩間違えれば殺していた。


「じゃあ……どうすれば」


大烏天狗は杭を返しながら答えた。


「この杭ではダメだ。邪気を帯びぬ杭を作らねばならん」


「誰が作れるんですか」


大烏天狗はしん吉ときゅうすけへ視線を向ける。


「その狐に聞けばよい」


全員の視線が集まった。


しかしきゅうすけは困ったように耳を伏せる。


「おいらも分からないんだよ」


「里のこともそうだけど、自分がどこから来たのかも思い出せないんだ」


大烏天狗は深いため息を吐いた。


「情けない奴らだ」


そう言いながら北を指差す。


「ここから北へ向かえ」


全員がその方向を見る。


「山を越えた先に無数の赤い鳥居が並ぶ場所がある」


「鳥居?」


阿国が首を傾げた。


「その鳥居を辿れ」


「その先に赤き狐の里がある」


ワイチは顔を上げる。


「そこに行けば打ってもらえるんですか?」


「それはお前達次第だ」


原因の手掛かりは見つかった。


やるべきことも分かった。


朱雀を助けるためには新しい杭が必要だ。


ならば行くしかない。


「行こう」


ワイチが仲間たちを見回す。


皆、異論はないようだった。


しん吉ときゅうすけも顔を見合わせながら頷く。


目指すは北。


赤い鳥居の先にあるという赤き狐の里だった。


北へ向かって歩き始めた一行は、山道へ入ると次第に言葉数が減っていった。


朱雀を助けられなかった悔しさもあるが、それ以上に原因の手掛かりが分かったことが大きかった。


「絶対に助けるんだ! 絶対に!」


小さく呟くと、前を歩いていたきゅうすけが振り返った。


「朱雀様か?」


「あんな失敗したからね」


「大丈夫だよ」


きゅうすけはそう言いながら笑ったが、その笑顔はどこか寂しそうだった。


「おいらがちゃんと思い出せば何とかなる気がするんだ」


「思い出せば?」


「里のことさ」


「なんかね、この先に行くほど胸が変なんだよ」


ワイチ達には分からない感覚だった。


山道をさらに進み、やがて日が傾き始めた頃、先頭を歩いていた武蔵が足を止めた。


「おい、あれを見ろ」


その声に全員が顔を上げると、木々の向こうに見えた赤い色は最初こそ一本の鳥居に見えたが、近付くにつれてそれが一本ではないことが分かり、数え切れないほどの赤い鳥居が山の奥へ続いていた。


「すごい……」


阿国が思わず声を上げるほど、鳥居は整然と並んでまるで赤い道を作るように山の奥へ続いており、鳥居の隙間を抜けた風が不思議な音を鳴らしていた。


きゅうすけが立ち尽くしていた。


「どうした?」


武蔵が尋ねた。


きゅうすけは鳥居を見つめたまま呟く。


「ここ……」


声が震えている。


「知ってるのか?」


「わからない」


きゅうすけは首を振りながら、


「でも、帰ってきた気がするんだ」


誰も言葉を返せなかった。


赤い鳥居は静かに山の奥へ続いていた。


その先にあるのは赤い狐の里。


朱雀を救うための答えがある場所だった。


ワイチは鳥居を見上げる。


「さあ、行こう」


その一言に全員が頷き、無数の赤い鳥居が並ぶ道へ足を踏み入れた。


次回予告


きゅうすけだよ!


朱雀様を助けるつもりだったのに、まさか悪化させちゃうなんて思わなかったんだ。


でも原因は分かった。


おいら達にも、まだ思い出してないことがあるみたいなんだ。


次回、『赤い狐の里』


絶対に朱雀様を助けるんだ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ