表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界を救ったのは剣豪でもなく陰陽師でもなく薬師?だったんですよ!  作者: 氣愛注入


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/73

闇を砕いて、この一撃

村正宗の手が止まる。


「どうした、いきなり」

「作れますか?」


「何をだ」


ワイチは鍛冶台の上に置かれていた鏨を指差した。

「青龍様の奥まで届く、杭みたいなものです」


村正宗は鏨を持ち上げて、じっと見た。

「杭だと。長さはどれくらいんだ?」


ワイチは両手を広げる。

「大体、これくらいあれば」


「で、何に使うんだ?」

「キュウスケの炎を、奥まで届ける方法を思いついたんですよ!」


「何! それと杭がどう繋がるんだ?」


「ボルドーさんの中にあった黒い結晶、あれを壊したら黒いもやが出たんです。青龍様の中にも、似たようなものが体内を流れていたんですよ!」


「お前、それが見えていたのか?」


「黒い流れが身体中を流れていて、外にも漏れていたんです。首元だけ流れが集まっていたので、たぶん体の中で結晶が大きくなっていると思います」


「だから杭か」


「はい。キュウスケの炎だけじゃ届きません」


ワイチは金槌を指差した。


「結晶を見つけたら、杭を打ち込んで壊します」


「壊して終わりじゃねぇんだろ」

「杭をすぐ引き抜いて、その穴にキュウスケの炎を流し込むんです」


村正宗はピンときた。

「なら、抜くなら頭に返しがいるな」


「そうですね、お願いします!」


「太さはどうする?」


「なるべく細めで。ただ、曲がらないようにしっかり強さは欲しいです」


「折れたら意味がねぇもんな」


村正宗は壁際から鉄材を引き抜くと、迷わず炉へ放り込んだ。

「何本いる」


「少なくても五本。本当はもっと欲しいのですが、早く行かないと不安ですし……どれくらいで出来ますか?」


苦しそうに伏せていた青龍の姿が、ワイチの脳裏に浮かぶ。


「この大きさなら、二刻くらいかな」


「そんなにかかるんですか……」


「強くするんだろ。なら、妥協はできねぇ」


カン――! カン――!

激しい火花が飛び散る。


「だから今度は、助けたいんです」

金槌が振り下ろされるたび、鉄が少しずつ形を変えていく。


一本、また一本と杭が並び、やがて五本の杭と新しい鉄槌が鍛冶台に並んだ。


「杭には返しを付けてある。打ち込んだ後は後ろの爪で引き抜け」

村正宗は鉄槌を鍛冶台へ置いた。


「ありがとうございます! 恩に切ります!」


ワイチは杭と鉄槌を掴むと、そのまま鍛冶場を飛び出した。



宿の扉が勢いよく開く。


ワイチが肩を上下させ、息を切らして入ってきた。


「せ、青龍様を助ける方法が……見つかりました! ハァ、ハァ……」


武蔵が勢いよく立ち上がり、椅子が後ろへ激しく倒れた。


「何! 方法が見つかっただと! どんな方法だ?」


ワイチは手にした杭を突きつけるように見せる。


「これで原因まで道を作ります。そしてキュウスケの炎で、中の黒いのを直接焼くんですよ」


晴明が静かに口を開くと、


「青龍様を傷つける、ということですか? それに、あの二匹が納得するでしょうか」


ワイチは杭をギュッと握り締めた。


「他に炎を届ける方法がありません。あの巨体です。この杭の細さなら負担は最小限に抑えられます! それに、これ以上時間をかける訳にはいきません。」


「あの二匹を説得するためにも、皆さんの力が必要です。お願いします!」


空海が静かに立ち上がった。


「わかった。なら、急ぐとしよう」


反対する者は、もう誰もいなかった。


そして、一行は急いで青龍の洞窟へと向かった。


道中、結晶を食べたと思われる魔物と遭遇しつつも、最短で討伐を続ける。


一刻の猶予もない。


足を止める訳にはいかなかった。


洞窟へ辿り着くと、ワイチは真っ先に奥へと飛び込んだ。


「青龍様!」


巨大な体は横たわったまま、前に見た時よりさらに力を失っているように見えた。


周囲に漂う黒いもやは前より濃くなり、白と赤の流れも目に見えて弱っている。


ワイチは首元へ駆け寄り、必死に黒い流れを追った。


「……やはり、あった」


首の付け根の奥だ。


黒い流れが一点へ集まり、その中心に拳ほどの黒い結晶が見えた。


「それも、かなり大きい……!」


ワイチが杭を取り出した、その時だった。


「お前、何をする気だ!」


キュウスケが立ちはだかる。


「この杭で道を作る! そうすれば君の炎が届くはずだ!」


「何馬鹿なことを言ってる! 青龍様だぞ! 傷つけることは断じて許さない!」


しん吉も厳しい表情で前へ出た。


「なら、他に手立てはあるのか!?」


ワイチの声が洞窟に響く。


「炎は届かない。黒い流れは強くなる。そして結晶は、もう俺の拳くらいまで大きくなっているんだぞ!」


キュウスケも、しん吉も、言葉に詰まった。


「大丈夫だ。この大きな体なら、この杭で死ぬことはない。それに俺にはその結晶が見える。だから、やらせてくれ!」


「お願いです」


晴明も隣で深く頭を下げた。


「今、救わないと、助けられるものも助けられなくなります」


キュウスケは青龍を見上げた。


しん吉もその顔を見つめる。


二匹とも、答えが出ない。


やがて、キュウスケが大きく息を吐いた。


「……わかったよ」


しん吉も、諦めたように小さく息を吐く。


「俺たちもどうしようもないからな。やるしかないか」


ワイチは改めて青龍へ向き直り、首元の結晶へ杭を向けた。


その時だった。


視界の端を、どす黒い影が横切る。


「なに……?」


反射的に背中へ目を向けると、そこにも黒い結晶が深く食い込んでいた。


嫌な予感が全身を走る。


「まさか――」


ワイチは反対側へ回った。


腹にも、同様の黒い結晶を見つけた。


さらに視線を走らせると、尻尾の付け根にまで、あの醜い結晶が食い込んでいた。


嫌な汗が背中をどっと流れる。


首、背中、腹、尻尾。


青龍の体には、黒い結晶が四つもあったのだ。


「四つ……だと?」


ワイチの喉から漏れた引きつった声に、キュウスケもしん吉も、弾かれたように青龍を見上げた。


首だけではない。


背中、腹、側腹、そして尻尾の付け根にまで、あの禍々しい黒い結晶が深く食い込んでいる。


「どうするんだ?」


武蔵の硬い声が問いかける。


ワイチは首元の結晶から目を離さなかった。


「全部、ぶち壊します」


キュウスケが青龍の首元へ素早く歩み寄って


「準備はできてる」


しん吉もその隣へ、青白くなった顔で並んだ。


「俺ともだ」


ワイチは杭の先端を、逆立つ鱗の隙間へ強引に押し当てた。


「助けます……!」


鉄槌を振り下ろした。


カァン!!!


けたたましい金属音が響き、凄まじい衝撃が両腕へ跳ね返ってきた。


「なっ……!?」


杭の先端は、硬い肉質に遮られて全く肉に食い込まない。


完全に弾かれてしまったのだ。


「なんでこれ入らないんだ……! ここにあるのに!」


焦るワイチだったが、すぐに目を凝らして青龍の首元の「流れ」を必死に追った。


激しく巡る赤い線と、透き通った白い線が複雑に交差している。


その時、ワイチの脳裏に過去の光景がフラッシュバックした。


「……そういえば以前、魔物と戦っていた時にこの光る点が見えていたな」


よく見ると、その交差する激しい流れの隙間に、ぽつんと光る「白い点」があるのが見えた。


「この白い点って、赤い線と白い線が交差してるところじゃないか……! これだったら通るかもしれない!」


確証はなかった。


だけど、やってみるしかなかった。


ワイチは唇から血が滲むほど噛み締めて、その白い点へ正確に杭の先端をあてがった。


誰もが息を止めて待っている。


「届けぇぇぇっ!!」


全身の質量を乗せて叩き込んだ瞬間、今度は弾かれることなく、杭がズブズブと肉の奥へと吸い込まれていった。


そして、肉肉しい音の奥から、ピキリと乾いた破砕音が響いた。


ワイチは顔を上げてみると、黒い流れの中心にあった結晶に、大きな亀裂が走っていた。


「よし!」


すかさず返しを引っ掛け、全身のバネを使って引き絞った!


ズボッ!!


肉を裂いて杭が抜けた。


「キュウスケ! 頼む!!!」


「おおおっ!」


待機していた炎が、開いた傷口へ容赦なく飛び込んでいった。


ギャアアアアアア!!


逃げ場を失った黒い煙が悲鳴のような音を立てて噴き出し、洞窟の壁を震わせた。


キュウスケは顔を焼き焦がさんばかりに炎を出し続ける。


暴れる黒煙が、じりじりと焼かれ、霧散していく。


やがて、最後のひとかけらまでが完全に消滅した。


ワイチは傷口を凝視する。


首元を覆っていたどす黒い淀みが、綺麗に消えていた。


「効いた……!」


背中へ回り、結晶を見つける。


ワイチはすでに確信していた。


激しく巡る赤と白の流れ、その中心にあるあの光る点。


「この点に向けば大丈夫だ」


自分にそう言い聞かせ、狙いを定めて迷わず鉄槌を振り下ろした。


一撃で白い点へと突き刺さった杭が、そのまま肉を穿って奥の結晶へと届き、バキリと小気味よい破砕音を立てた。


「キュウスケ!!! お願い!!!」


間髪入れずに炎が流れ込み、背中の黒い煙を猛火が瞬時に飲み込んで消し去った。


ワイチは息を整える間もなく、腹へと向かう。


岩のように重々しく潜む三つ目の結晶。


だが、もうワイチの腕に迷いはなかった。


すぐさま流れの奥を見据え、赤と白が複雑に入り組む中心に浮かび上がる光る点を捉える。


「この点さえいけば大丈夫だ……!」


自分に言い聞かせ、狙い過たず鉄槌を真っ直ぐに叩き込んだ。


バキッ!


吸い込まれるように突き刺さった杭の先で、狙い通り結晶が砕け散る。


ワイチは杭を引き抜き、叫んだ。


「次!!!」


炎が滑り込み、黒煙を綺麗に焼き尽くした。


残るは、あと一つ。


尻尾の付け根だけだ。


「これで、終わりだ……」


ワイチは最後の杭を掴んだ。


全員の視線が、最後の黒い塊に集中する。


吹き出す黒い奔流の奥、赤と白の流れが最も激しく交差するその真ん中に、ひときわ強く光る点がある。


「この点に、全ての力を――!」


そう自分に言い聞かせ、最後の力を振り絞って鉄槌を頭上高く振り上げた。


「終われぇぇぇっ!!」


喉を裂くような叫びと共に叩き込んだ一撃は、狂いなく白い点へと直撃した。


バキィッ!!


結晶は抗う間もなく、文字通り木っ端微塵に砕け散った。


「キュウスケ! 燃やせ〜!!!」


「任せろぉぉ!!」


最大火力の炎が、抉れた傷口へと一気に流れ込んだ。


直後、これまでで最も巨大な黒い煙が、爆発するように噴き出す。


ギャアアアアアアアアア!!


洞窟全体が、落盤せんばかりに激しく震動した。


狂い狂う黒煙は天井へと広がり、逃げ場を求めて巨大な渦を巻く。


だが、キュウスケの炎がそれを逃がさない。


猛烈な熱波が洞窟を支配し、黒い塊を追いつめ、焼き、完全に飲み込んだ。


やがて――黒い煙は急速に小さくなり、最後の煤となって消え去った。


「終わったのか……?」


キュウスケが荒い息を吐きながら青龍を見上げる。


しん吉は何も言わず青龍の首元へ駆け寄ると、傷口の周囲を癒爪でゆっくりと撫でた。


青白い光が爪先から滲み、首元を流れる白い流れへ静かに溶け込んでいく。


乱れていた流れが少しずつ落ち着き、全身へ広がっていった。


「これでいい……」


しん吉がそっと手を離した。


その、直後だった。


ドクン――。


地鳴りのような巨大な鼓動が、洞窟の空気を震わせた。


ワイチはハッと息を呑んだ。


青龍の体内を巡る「流れ」が、劇的に変わっていくのが見えた。


濁った黒が急速に退き、透き通った白い流れが広がり、そして――。


生命の灯火たる赤い流れが、力強く、激しく全身を巡り始めたのだ。


青龍の重い瞼が、ゆっくりと持ち上がり、そこから、神聖な黄金の瞳が現れた。


「青龍様……」


キュウスケの目から、堪えきれず涙が零れ落ちた。


しん吉も感極まって声を失っている。


青龍はゆっくりと、威厳に満ちた首を持ち上げた。


その圧倒的な生命力を前にした瞬間、ワイチの膝から一気に力が抜けた。


助かった。


本当に、助かったんだ。


『人の子よ』


洞窟の岩肌を震わせ、厳かな声が響く。


『礼を言う』


ワイチは、ただその黄金の瞳を見上げた。


『長い、時であった……だが、そなたたちのおかげで闇は消えた』


『あの日、突然、身を裂かれるような痛みが走った。何者かの影は見えたが、姿までは分からぬ。数日が過ぎる頃には、我が身は闇に呑まれ始めていた』


キュウスケが顔を覆って泣き崩れ、しん吉も俯いて肩を震わせる。


『キュウスケ、しん吉。よく耐えた』


「青龍様……!」


キュウスケはその場に崩れ落ちるように膝をつき、しん吉も溢れる涙を両手で何度も拭った。


青龍の瞳が、静かにワイチへと戻る。


『――いや、まだ終わってはおらぬな』


地を這うようなその一言で、洞窟の空気が凍りついた。


青龍の瞳に、鋭い緊迫感が戻る。


『我だけではないのだ』


ワイチは顔を上げた。


『南に朱雀、西に白虎、北に玄武。我ら四神は四柱。闇は我だけを狙ったものではない』


「じゃあ、他の四神も……」


『同じ苦しみに沈んでいるやもしれぬ』


ワイチの背筋に、冷たい汗が伝った。


青龍がこれほど苦しんでいたのだ。


他の四神が同じ状態とは限らない。


もっと最悪なことになっている可能性だってある。


『急げ』


黄金の瞳が、真っ直ぐにワイチの魂を射抜く。


『我らには、もう時間が残されておらぬ』


ワイチは静かに立ち上がった。


足元はまだ疲労でふらつく。


それでも、その瞳からは目を逸らさなかった。


「助けます」


声は小さかった。


だが、微塵も震えてはいなかった。


「青龍様を助けられたなら、他の四神も、絶対に助けます」


青龍は慈しむように、静かに目を細めた。


『ならば行け。そなたの目は、闇の奥を見抜く』


ワイチは地面に転がっていた杭と鉄槌を拾い上げた。


青龍の周囲から、禍々しい黒いもやは完全に消え去った。


透き通った白と、鮮やかな赤の流れが、青龍の全身を力強く巡っている。


「……よかった」


絞り出すようなワイチの声に、青龍が静かに黄金の瞳を閉じて応じる。


ワイチはその瞳を見つめ返し、自分の両手を見た。


確かな手応えが、胸の奥で熱い自信となって満ちていく。


その顔には、もう迷いも焦りもない。


青龍を救ったという揺るぎない誇りが宿っていた。


「見事だ、ワイチ」


武蔵が近づき、その肩を力強く叩く。


「ハロルドにこの詳細を報告しに行かなきゃな」


小次郎の言葉に、全員が顔を見合わせる。


「そうだな。……戻ろう」


ワイチはもう一度だけ青龍を振り返り、大きく頷いた。


洞窟の外に出ると、心地よい風が汗ばんだ頬を優しく撫でる。


さっきまでどんよりと重く見えていた空が、今は見違えるほど明るく澄み渡っていた。


ワイチは胸を張り、王都へと続く道を真っ直ぐに見据えた。


自分たちなら、次はどんな闇も打ち払える。


その確信を糧に、ワイチは仲間と共に大地を蹴った。


次回予告


阿国です♪


青龍様、本当に苦しそうでした。


でも、ワイチさんは諦めませんでした。


何度も何度も立ち向かって、最後まで助ける方法を探したんです。


皆さんのお力もあって、無事に助けることができました♪


次回、『四神への手掛かり』


お楽しみに♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ