青龍の洞窟
「ま、まさか……青龍の洞窟か?」
晴明の声が、岩壁の前で止まった。
森を抜けた先に現れた岩壁は、近づくほどに大きさを増していった。
上を見ても岩肌の終わりは霧に隠れ、中央には黒々とした穴が開いている。
風が洞窟の奥から吹き抜け、湿った土と冷えた石の匂いを運んでくる。
空海が唇を曲げた。
「噂だけだと思ってたんだがな。こんなもん、目の前に出されると笑えねぇな」
「ハロルド殿は、強く入るなと言っていましたよ」
晴明は地図を畳みながら、洞窟の入口から目を離さなかった。
「調べるのは周辺だけにしておいた方がいいでしょう。聖域と言われている場所に踏み込めば、後で言い訳が立ちませんからね」
「言い訳で済めばいいがな」
武蔵が低く言った。
ワイチは黙って洞窟を見ていた。昨日、空を横切った青い影が頭の奥に残っている。
速く、美しく、けれどどこか苦しそうにも見えた。あれがこの洞窟と関係しているのか。
青龍の洞窟と呼ばれる場所が本当にここなら、昨日の影は何だったのだろうか?
その時だった。
――こっちだ。
ワイチの耳に、かすかな声が聞こえる。
風の音ではない。獣の鳴き声でもない。洞窟の奥から、呼ぶ声がした。
――こっちへ来い。
「……今、聞こえた?」
ワイチが言うと、小次郎が横から覗き込む。
「何がだ?」
「声、洞窟の中から、こっちへ来いって」
小次郎は眉を寄せ、入口の闇へ視線を向けた。
「そんなの聞こえなかったぞ」
「私もです」
ナリアも声を落とす。
空海が洞窟の入口へ半歩近づいた。
「風が抜ける音じゃねぇのか?」
――こっちだ。
三度目の声は、さらに奥から響いた。
ワイチは振り返り洞窟へ向かって歩き出した。
「おい、ワイチ、待て」
武蔵が腕を伸ばして前を塞いだ。
「入るなと言われたのを忘れたか、聖域だぞ!」
「忘れてない。でも、呼ばれてるんだ。」
「誰にだ」
「分からない。だけど、俺を呼ぶんだ、ずっと。」
武蔵はワイチの顔を見た。
ふざけている顔ではなかった。何かの使命を背負っているような、そんな気がした。それでも足だけは前へ進もうとしていた。
空海が息を吐く。
「止めても行く顔だな」
晴明は洞窟の奥を見たまま、地図を懐へしまった。
「長居はできません。何かあればすぐ戻ります」
武蔵は短く舌打ちした。
「分かったよ! だが、勝手に走るなよ! 先頭は俺が行くからな」
「うん」
◇
洞窟の中は、外よりもずっと冷たかった。
足元の石は濡れていて、踏むたびに小さく音が返ってきた。
壁には水が伝い、ところどころ青白く光る苔が張り付いていた。
奥へ進むほど、外の鳥の声も風の音も消えていった。
しばらく進むと、声とは別の音が聞こえてきた。
低い鳴き声だった。
獣の唸りに似ているが、もっと深い。洞窟全体が震えるような、苦しそうな声だった。
「今のは聞こえたぞ」
空海の顔から笑みが消えた。
「奥だ」
ワイチは足を速めて進んだ。
通路の先で洞窟が大きく開けた。
そこにいたのは、全長十メートルほどの、人間から見れば十分すぎるほど巨大な青い龍だった。
胴は二、三メートルはあり、横たわっているだけで洞窟の一角を埋めている。
青い鱗は水面のように光を返し、長い髭が床に垂れていた。
だが美しさより先に、苦しさが目に入った。
青龍の身体は浅く震え、息を吐くたび、鱗の隙間から黒い煙のようなものが滲み出ている。
ワイチには、それがただの煙ではないと分かった。
黒い流れが体表へ漏れ出し、青い流れを濁らせていた。
「青龍様!」
甲高い声が響いた。
青龍の傍らで、狐が青い炎を放っていた。
狐火は鱗の上へ広がった黒い煙を焼き、焼かれた邪気はちりちりと音を立てて消えていった。
反対側では、狸が青龍の身体を撫でていた。ただ撫でているのではない。爪の先が淡く光り、鱗の上をなぞるたびに青龍の呼吸がわずかに落ち着いているように見えた。
二匹がワイチたちに気づき、狐火が一気に膨れ上がる。
「誰だ!」
狸も青龍の前へ回り込む。
「青龍様に近づくな!」
武蔵が刀へ手をかけかけたが、すぐに止めた。
「俺たちは、敵じゃない」
「敵じゃないなら出ていけ!」
狐が叫ぶ。
「ここはお前らが来ていい場所じゃない!」
「分かっている、しかし」
ワイチが必死に答えた。
晴明が一歩前に出る。
「我々は東の異変を調べに来ました。洞窟へ入るつもりはありませんでしたが、彼にだけ声が聞こえたのです」
狐の目がワイチへ向く。
「声?」
「こっちへ来いって聞こえたんだよ、だから来たんだ。」
ワイチは青龍を見る。
「この青龍が呼んだのかは分からない。でも、ここへ来なきゃいけない気がしたんだ。」
青龍が低く喉を鳴らした。
狐と狸の動きが止まり、狸は青龍の顔を見上げた。
「青龍様……?」
返事の代わりに、青龍の身体からまた黒い邪気が滲み出した。
「くそっ、まただ!」
狐はワイチたちへの警戒を残したまま、すぐに青龍へ向き直った。
狐火が鱗の上を走り、表へ出た邪気を焼き消していく。
「しん吉、そっち!」
「分かってる!」
狸は青龍の腹側へ回り込み、光る爪で鱗の流れをなぞる。青龍の呼吸が少しだけ静まった。
だが、消えたはずの黒い煙は、すぐに別の場所から滲み始める。
狐が歯を食いしばった。
「また出てきた……!」
狸の声にも焦りが混じる。
「表に出た分は消えてる。だけど奥が残ってるんだ。何度やっても、奥から湧いてくる」
ワイチは青龍の身体を見つめた。
表面の邪気だけではない。黒い流れは青龍の体内で細く枝分かれしながら広がっている。
だが、その流れはどこか一点へ戻っていく。身体の奥深く。そこに黒いものがあった。
「この青龍は……」
ワイチが呟くと、狸が答えた。
「東を守る青龍様だ」
狐が炎を絶やさないまま続ける。
「先代はいなくなった。今はこの方が青龍様なんだ。まだ代わったばかりなのに、こんな邪気に侵されて……」
「だから俺たちが治してるんだ。」
狸の爪が青龍の鱗を滑る。
「でも、表は楽にできても奥へ届かない。俺の癒し爪がそこまで届けば、きっともっと楽になるのに」
狐の炎が一瞬強く揺れた。
「俺の炎もだ。表に出た邪気は焼ける、焼けるんだよ。でも中に残ってる奴には届かない。この前も、消えたと思ったら急に暴れ出して、洞窟から飛び出して行ったんだ」
空海が息を呑む。
「昨日の青い影か」
狐は悔しそうに青龍を見た。
「あれは青龍様が悪いんじゃない。中に残った邪気が暴れさせたんだ。東を守る方なのに、あんな姿で外へ出してしまった」
しん吉は爪を止めなかった。
「止めたかった。でも止められなかった。俺たちはここで守るしかできないのに、その守る相手を苦しませたままなんだ」
洞窟の奥に、青龍の荒い息だけが響いた。
ワイチは前へ出ると、狐がすぐに振り返る。
「近づくなと言っただろ!」
「触らせてくれ」
「何をする気だ!」
「見えてるんだ。黒い流れが、奥へ集まってる。触れば、もっと分かるかもしれない」
「見えてる……?」
しん吉が青龍の顔を見ると、青龍は小さく喉を鳴らした。
苦しそうな音だったが、拒むようには聞こえなかった。
しん吉が狐へ言う。
「キュウスケ……少しだけだ」
キュウスケは狐火を弱めなかった。
「変なことしたら焼くからな」
ワイチは青龍の横へ立った。
近くで見ると、胴の太さに圧倒される。片手を伸ばしても鱗の一枚に触れるだけだ。鱗は冷たく、湿っていた。呼吸に合わせて、大きな身体がゆっくり上下する。
ワイチは手を当てた。
ドクン――
鼓動が聞こえた。
しかし、もっと奥で何かが脈打っている。
ドクン――
黒い流れの先で、黒い塊がうごめいた。
そこから細い黒い筋が伸び、青龍の青い流れへ絡みついている。キュウスケの狐火は表へ出た邪気を焼いている。
しん吉の癒し爪は青龍の流れを整えている。けれど、どちらも黒い塊には届いていない。
ワイチは理解した。
場所は分かる。深さも分かる。
でも、どうやってそこへ届かせればいいのかが分からない。
「どうだ」
キュウスケの声が震えていた。
「何か分かったのか」
ワイチは手を離した。
「奥にある、黒い塊みたいなのが。そこから全身へ広がってる」
「やっぱり……」
しん吉の爪が止まりかけた。
キュウスケが叫ぶ。
「じゃあそこを焼けばいいんだろ! どこだよ! 俺の炎をどこへ向ければいい!」
「届かないんだ」
ワイチは唇を噛む。
「場所は分かる。でも、奥すぎるんだ。だから表からじゃ届かないんだ。」
キュウスケの狐火が小さく揺れた。
しん吉は青龍の身体へ額を寄せるようにして、また爪を走らせた。
「分かってたよ。でも、やっぱりそうなのかよ」
「ごめん」
ワイチは拳を握った。
「今は、どうすればいいか分からない」
洞窟の中で、誰もすぐには言葉を出せなかった。
キュウスケは狐火を消さず、出てくる邪気を焼き続けている。
しん吉も爪を止めない。武蔵は青龍の大きな身体と、ワイチの顔を交互に見ていた。
晴明は床に落ちた黒い欠片を拾い、指先で確かめていた。
「一度戻りましょう」
晴明が低く言った。
「ここで考え続けても、今ある手段では届きません。外の異変も報告しなければならない」
キュウスケが振り返る。
「帰るのかよ」
ワイチは青龍を見た。
「必ず戻ってくるよ」
「本当か」
「助け方を考えるよ。今は残念ながら分からない。でも、見えたんだ。原因があるなら、何か方法があるはずだ」
しん吉はワイチをじっと見た。
「嘘だったら許さねぇぞ」
「約束するよ」
キュウスケは狐火を青龍へ戻した。
「なら早く考えてくれ。俺たちだけじゃ、これ以上は無理なんだ」
約束はしたが、わからない。でも、苦しそうな呼吸のたびに、黒い流れがまた表へ滲んでいる青龍を見ると、放っておけなかった。
「必ず考える」
ワイチはそう言って、洞窟を出た。
◇
王都へ戻る道中、ワイチの足取りは重かった。
森の中で拾った小さな黒い結晶と、剣虎を倒した後に出てきた大きな黒い結晶。
どちらも袋の中で硬い音を立てている。その音が鳴るたびに、青龍の体内で聞いた脈の音が蘇った。
王都へ着くと、一行はそのままハロルドのもとへ向かった。
部屋に入るなり、武蔵は袋を机へ置いた。中から黒い結晶が転がり出る。小さい欠片と、魔物の体内から出たもの。大きさも形も違うが、どれも同じ嫌な光を帯びていた。
ハロルドはすぐに手を伸ばさなかった。
「……東の奥まで広がっているのか」
声の調子が変わった。
ワイチは剣虎との戦いを話した。東の奥で剣虎が三体現れたこと。普通の獣ではない動きだったこと。
倒した後、腹から黒い結晶が出てきたこと。牙兎や風切蛇だけではなく、奥にいた魔物まで影響を受けていたこと。
ハロルドは途中で口を挟まなかった。
話を聞きながら、地図の東側へ印を増やしていく。ひとつ、ふたつ。剣虎と遭遇した場所に印が付いた時、ハロルドのペンが止まった。
「街道沿いだけではないな」
晴明が答える。
「森の奥にも広がっています。小さい結晶を魔物が食べているなら、回収しなければ増える一方です」
「東の街道からその奥までを調べ、魔物討伐させる! これから兵士を向かわせる!」
ハロルドは即座に言った。
「ただし討伐だけでは駄目だな。結晶の回収を徹底させる。王にも報告しないわけにはいかない。青白い男の件も含めて、これは冒険者だけで抱える話ではなくなってきた」
「こりゃ大事だな」
空海が地図を見ながら言う。
「すでに大事だ」
「問題は、どこまで撒かれているかだ」
その時、武蔵が少し言いにくそうに口を開いた。
「あのーまだあるだが」
ハロルドの目が武蔵へ向いた。
「何があるんだ」
「怒るなよ、頼むから」
「おまえら、まさか」
「実は、洞窟を見つけたんだ」
ハロルドの眉が動く。
「まさか、入ってないだろうな?」
「ちと、入った」
机を叩く音が部屋に響いた。
「馬鹿者!」
空海が肩をすくめる。
「やっぱりそうなるよな」
「当たり前だ! あれほど入るなと言っただろうが! 聖域だぞ。何かあったらどうするつもりだった!」
「実は、声が聞こえたんです」
ワイチが答える
ハロルドの怒鳴り声が止まった。
「声?」
「俺にだけ聞こえました。こっちへ来いって。奥に行ったら、青龍がいました」
ハロルドの表情が変わる。
怒りが残ったまま、目だけが動きを失った。
「青龍……本当にいたのか?」
「十メートルくらいの青い竜です。東を守る青龍様だって、そこにいた狐と狸が言っていました」
「狐と狸?」
「キュウスケと、しん吉と名乗ってました。青龍を治療していたんですが、邪気が奥に残っていて、表に出た分しか治療できなくて困っていたんです」
ハロルドは椅子に座り直した。
さっきまでの怒鳴り声は消えていた。
「全部話せ」
ワイチは青龍のことを話した。
表に出た邪気はキュウスケの狐火で焼けること。しん吉の癒し爪で一時的に楽にはなること。
だが体の奥に黒い塊があり、そこから黒い流れが全身へ広がっていること。前に暴れて外へ飛び出したのは、その邪気が残っていたからだということ。
ハロルドは最後まで聞いた。
「……聖域に入ったことは褒められん」
「だが、青龍が本当にいるとなると話が変わる。しかも東の守りが邪気に侵されているなら、放置できん」
ハロルドは地図の東端を見つめた。
「王への報告内容が増えたな」
ワイチは俯いた。
原因は見えた。でも方法がない。
その重さだけが、胸の中に残り続けていた。
◇
その夜、ワイチは風ちゃんと雷ちゃんを訪ねた。
二匹はワイチの話を最後まで聞いた。青龍が洞窟にいたこと。キュウスケとしん吉が治療を続けていること。奥の邪気に届かないことを。
雷ちゃんが唸る。
「中にある邪気か。表に出たものを焼いても、元が残っているなら戻るな」
風ちゃんも表情を曇らせる。
「場所は分かるんだよな?」
「見える、深さもなんとなく分かるんだけど、そこへどうやって届かせるのかが分からない」
「風で押し込むのは違うか」
風ちゃんが言う。
「炎を奥へ送る道がなきゃ、押し込んでも散るだけじゃないか?」
雷ちゃんが首を振る。
「邪気だけに届かせないと」
ワイチは何度も青龍の身体を思い出した。
太い胴、深い場所にある黒い塊。
そこへ届かない狐火、届かない癒し爪。
「どうやって届けばいいのか? なんとかしたい」
ワイチが呟く。
雷ちゃんも同じ言葉を返す。
「どうやって届ければいいか」
答えは結局、出なかった。
◇
帰り道、ワイチは村正宗の工房の前を通ると、村正宗が声をかけてきた。
「ワイチ、どうしたそんな顔して」
「村正宗さん、実はちょっと悩んでいて、聞いてもらってもいいですか?」
「入れ、そんな顔で立ってられると、こっちまで落ち着かねぇ」
ワイチは工房の中へ入った。
炉の熱が頬に当たる。作業台の上には革、金具、細い道具が並んでいた。
「で、どうした?」
ワイチは、洞窟で見たことを話した。
青龍の体の奥にある黒い塊。
そこから全身へ広がる黒い流れ。
キュウスケの狐火も、しん吉の癒し爪も、表に出た邪気には効いているのに奥へは届かないこと。
風ちゃんと雷ちゃんにも相談したが、答えは出なかったこと。
村正宗は口を挟まず聞いていた。
「青龍様だって、まじか? いたんだ。まあ、それはいい。で、場所は見えるんだな」
「俺にはしっかり見えるんですよ、流れも深さも。だけどそこへ届ける方法が思いつかなくて。」
「炎も爪も届かない。だが、届けば何かできるかもしれない」
「そうです」
「なら、問題は治す力じゃなくて、届ける方法か」
「そこなんです。キュウスケの炎が弱いわけじゃない。しん吉の癒し爪が効いてないわけでもない。ただ、届いてないだけなんです」
「届いてないだけ、か」
村正宗は作業台に置かれた革へ目を向けた。
「青龍様だからなー下手なことはできねぇーし、答えはすぐには出ねぇな」
「ですよね……」
「だが、風ちゃんと雷ちゃんは最後まで話を聞いてくれて、一緒に悩んでくれたんですよ」
「いつも心配してくれて、ありがたいんですよね」
村正宗は少し笑った。
「あいつら、怖い顔してる割にいい奴らだな」
「うん。本当にいい奴らです」
ワイチの声が少しだけ柔らかくなった。
「いつも助けてもらってばかりなんです。今回もそうだし、最初からずっと」
「なら、何か形にしてやればいい」
「形?」
「礼だ。あいつら喜ぶぞ、きっと。」
ワイチは作業台の革を見た。
「首輪……とか?」
「守り獣なら悪くねぇな。それ、いいかも!」
「風ちゃんと雷ちゃんに似合いそう」
「名前も入れるか?」
「入れたいです。風ちゃん、雷ちゃんって」
「全部いれるより風と雷の方がしまるよ!」
村正宗は革を作業台に置き、細い鏨を手に取った。
「見てろ」
小さな鉄槌が振り下ろされる。
トン。
鏨の先が革へ沈んだ。
トン、トン。
乾いた音が工房へ響く。
ワイチはその手元に目を奪われた。
鏨はただ押し込まれているのではない。叩かれるたび、狙った線だけが深く刻まれていく。
強すぎれば革が裂けるし、弱すぎれば跡が残らない。村正宗の手は、そのぎりぎりを外さない。
トン、トン。
革の上に、少しずつ文字が浮かび上がる。
風、トン。
雷、トン。
「すごい……」
「深く入れるほど慎重にやらないと、狙いがずれたら直せねぇからな」
トン。
「細いのに、そんなに深く入るんですね」
「細いから入るんだ。太けりゃ周りを壊すだろ? だが細すぎれば曲がるし、狙った場所へ、曲がらず、深く入る硬さがいるんだ」
トン、トン。
ワイチの頭の中で、青龍の身体が浮かび上がった。
太い胴、その奥にある黒い塊。
届かない狐火、届かない癒し爪。
届いていないだけだ。
そこまで道があれば。
そこまで届くものがあれば、細くてもいい。
真っ直ぐ、深く、必要な場所へ届けば。
トン。
最後の音が、やけに大きく聞こえた。
「村正宗さん!」
次回予告
ナリアです。
青龍様は、とても苦しそうでした。
私たちに何ができるのか、まだ分かりません。
それでも、諦めたくありません。
次回、『闇を砕いて、この一撃』




