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世界を救ったのは剣豪でもなく陰陽師でもなく薬師?だったんですよ!  作者: 氣愛注入


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18/71

広がる異変

壊れた店を出ると、夕日が王都の屋根を赤く染めていた。


ハロルドは腕を組んだ。


「東街道まではすこしあるからな、今から行くと夜になるぞ!」


「なら明日の朝だな。」


武蔵は空を見上げた。


「夜の街道は面倒ですからね。」


晴明も続けた。


その時だった。


小次郎が口を開く。


「その前に刀だ。」


ワイチは手を叩きながら


「あ、そうだ。」


武蔵は後頭部を掻きながら


「すっかり忘れてたな。」


「忘れるな。」


阿国は扇を揺らしながら


「じゃあ明日は鍛冶屋さんですね♪」


「今日は色々と大変だったからな、しっかり休め。」


「明日からまた歩くことになるしな。」


――――――


翌朝、一行は正宗の店へ向かった。


鍛冶場へ近付くにつれ、鉄を打つ音が大きくなっていった。


煙突から白い煙が立ち昇っている。鍛冶屋の朝も早いようだ。


「来たか。」


村正宗は脇に置いてあった刀を掴み、小次郎へ放った。


小次郎は受け取ると刀を抜き、長い刀身が炉の赤い光を流す。


「素晴らしい、良い刀だ。」


ワイチの声に武蔵も頷いた。


「いいなあ。」


「当たり前だ。」


「誰が打ったと思ってやがる。」


武蔵の視線は刀から離れない。


「お前も作るか?」


「欲しいっちゃ欲しいんだがな。」


武蔵は頭を掻きながら


「まだ決まってねえんだよ。」


「何がだ?」


「んー言葉にできねぇーだよ、なんかこう……わかったら言うわ。」


「決まったら来い。」


「そん時は頼むわ。」


一行は村正宗の店を後にした。


王都を出ると、石畳の道はやがて土の街道へ変わった。


「また襲われたらしいぞ。」

「今度は風切蛇だってよ。」

「もう東は通れねえな。」


「あんたら、この先あぶねーぞ!」


「そいつらを退治しにいくんだ!」


武蔵は拳を握った。


「おー!それは頼もしい、頑張ってくれ。」


「任せとけ!」


旅人たちの声を背に進むうち、街道脇では馬車が横倒しになり、割れた荷箱と布切れが土の上に散らばっていた。


ガリッ、ガリッ。


武蔵が手を上げて皆を制する。


荷車の陰では一回り大きな牙兎が男の腕に噛みついていた。


口元は血と黒い汚れで染まっていた。


その少し離れた場所では二匹の牙兎が荷箱の陰をうろついていた。


ガリッ。


片方の牙兎が地面へ散らばった黒い粒を噛み砕いたら、ビクリと身体を震わせた瞬間!


耳を逆立てながら目を見開き、キィィィィィッ!と鳴いて隣にいた牙兎へ飛び掛かった。


ブチッ!


耳を噛み千切られた牙兎は悲鳴を上げて逃げ出した。


追う牙兎の身体はみるみる膨らみ、倍ほど大きくなった。


男を食っていた牙兎も顔を上げ、逃げる牙兎に気がついた!


逃げる牙兎を追うデカい牙兎。


さらにもう一匹が横へ回り込み、逃げ道を塞いだ。


キィィィィィッ!


二匹が同時に飛び掛かった瞬間――


シュバァッ!


風刃が走り、逃げていた牙兎の首が宙を舞った。


ドサリ。


首を失った身体が地面へ崩れ落ちた。


二匹の牙兎は獲物を失い、そのまま武蔵たちへ顔を向けた。


シュバァッ!


再び風が走る。


木々の奥からデカい風切蛇が顔を出している。


突然、細い風切蛇が飛び出して、逃げていく!


必死に枝を渡る風切蛇の後ろから、一回り太い風切蛇が追い掛けている。


シュバァッ!


放たれた風刃が細い風切蛇の胴を裂かれ、細い風切蛇は枝から半分になって落ちていった。


シュバァッ!


もう一発。


シュバァッ!


さらにもう一発。


太い風切蛇は地面でもがく風切蛇へ何度も風刃を叩き込み、肉片と血が飛び散っても攻撃を止めなかった。


「同族まで襲うのか……。」


ワイチが息を呑む。


「来るぞ!」


武蔵が叫ぶと二匹の牙兎が同時に飛び掛かった。


「うおっ!」


武蔵は咄嗟に拳を振り上げて、顔面へ拳を叩きつけた。


叩き込まれた牙兎の身体が荷車へ突っ込み、砕けた板が飛び散った。


もう一匹は小次郎へ飛び掛かる。


銀の光が走った次の瞬間、牙兎の首が宙を舞った。


荷車へ突っ込んだ牙兎も立ち上がった瞬間、返す刀で首が飛んだ。


コロッ、コロッ。


二匹の首から黒い結晶が転がり出た。


枝にいる太い風切蛇が首を巡らせて、こちらを見ている。


今度の獲物は武蔵たちだった。


シュバァッ!


風刃が飛ぶが、武蔵が避けると背後の木が斜めに裂けた。


「武蔵、怪我はないか!」


ワイチが叫ぶ。


その時、晴明が印を結んだ!


「瞬雷」


紫電が走ると!


ギャアアアアアッ!


太い風切蛇は枝をへし折りながら地面へ叩きつけられた。


だがまだ生きている。身体を起こし、焼け焦げた鱗の隙間から煙が立っていた。


「硬いな。もう一度!」


「晴明さん、雷ですね♪」


阿国は小鼓を打つ。


ドンッ!


鼓の音が響いた瞬間、晴明の周囲で紫電が膨れ上がった。


「これは……良いですね!面白い。」


印を風切蛇に向けた!


「瞬雷」


先ほどより太い紫電が風切蛇を呑み込んでいった!


ギャアアアアアッ!


風切蛇の身体が跳ね上がり、焦げた鱗が弾け飛ぶ。


地面へ叩きつけられた風切蛇は身体を起こせず、絶命していた。


焦げたところから黒い結晶が転がり出てきた。


ワイチは足元へ散らばった黒い結晶を拾い上げると


「こいつもあるな」


そして、馬車の近くにある散らばった小さい結晶を拾った。


「大きさは違うが、同じだな」


ワイチは黒い粒と結晶を袋へしまった。


「何かわかったのか?」


武蔵が覗き込む。


「まだ分かりませんが、牙兎はこれを食べた直後に変わりました。風切蛇も同じです。」


晴明が結晶へ目を向ける。


「持ち帰る価値はありそうですね。」


一行は街へと向かった。


少し経ってから――


「少し休憩しませんか♪」


阿国が川を指差した。


街道の脇には澄んだ川が流れていた。


「賛成だ。」


空海は近くの岩へ腰を下ろした。


ワイチは川辺へ歩き、水を両手で掬って喉へ流し込む。


冷たい水に息を吐いたその時だった!


ゴォォォォォォッ!!


轟音と共に地面が震え、波立った川面の向こうで白い飛沫が空高く舞い上がった。


「なんだ?」


武蔵が顔を上げる。


次の瞬間、巨大な青い影が川を駆け抜けていった!


長い身体がうねるたび水柱が立ち上がり、岸辺の石が弾け飛ぶ。


速くて、目で追うのがやっとだった。


青い影は一瞬で視界を横切り、そのまま森の奥へ消えていった。


森の奥で轟音が響き、段々と小さくなっていった。


ワイチは青い影が消えた先をずっと見つめていた。


「今の……なんだったんだ?」


皆、あっけに取られて言葉が出なかった。


次回予告


晴明です。


牙兎も風切蛇も厄介でした。


実は牙兎は二足歩行で歩く仕草の可愛らしい魔物なんですよ。


見つけるとすぐに逃げてしまいますけどね。


次回、『調査報告、そして東の洞窟』

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